九龍城に象徴される80年代香港の魅力「トワイライト・ウォリアーズ」
日刊スポーツ / 2025年1月20日 7時0分
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70年代の終わりから80年代にかけて、香港映画界は元気が良かった。ジャッキー・チェンがヒット作を連発し、ホイ兄弟の「Mr.Boo!」シリーズもあった。そして「霊幻道士」のキョンシー・ブーム…。
ロケやプレミア試写会の取材で香港を訪れる機会も多かった。その都度訪れたのが観光名所の1つでもあった「九龍城」である。
200×150メートルの区域に古ぼけたビルが、より掛かり合うように密集し、不思議な一体感を醸し出していた。全体の外見はそれこそ城塞(じょうさい)である。ガイドからは、中では麻薬売買や売春などの違法行為が行われているので、くれぐれも入らないようにとクギを刺された。
内部には行政権が及ばないため、難民に交じって各国からの逃亡者も身を潜めていたという。「東洋のカスバ」の異名が、リバイバル上映で見た「望郷」のジャン・ギャバンの姿に重なり、ところどころに薄ら明かりが灯(とも)る夜景を感慨深く眺めたことも覚えている。
そんな名所も94年に取り壊され、今は清潔だが、ちょっと味気ない公園になっている。
17日公開の「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城塞」は、80年代の九龍が舞台。つまり、外からながめていたあの当時の魔窟の内側が描かれている。
世界一と言われた人口密度の九龍城内では、義侠心(ぎきょうしん)を持った親分(ルイス・クー)のもと、意外なほど平和な暮らしが営まれている。そこに因縁の過去を持った密入国者チャン(レイモンド・ラム)がやってきたことから波乱が起こる。親分とは義兄弟の地主。そして付近一帯を仕切る大ボス…日本のヤクザ映画のように人間関係は絡み合い、やがては一大抗争へと発展する。大ボスには80年代にジャッキーと並んで人気のあったサモ・ハンが扮(ふん)し、懐かしい。
「るろうに剣心」のより、ややスローモーな感じがする本場ワイヤアクションを多用した格闘シーンも懐かしい。
継ぎ足しのコンクリや重なり合う軒先、そしてむき出しの大量な電線…それがまるでアートのような趣を醸し出す。廃虚マニアの気持ちがわかる。カンフーや気功の力で、それらをいとも簡単に崩しながら多様なアクションは展開していく。香港アクションここにあり、の見応えだ。
80年代に私たちが香港映画に憧れたように、あちらの人々も日本文化に思いを寄せていたようだ。荻野目洋子や吉川晃司のヒット曲が現地盤で流れ、「田原俊彦のようないい男だった」なんてセリフも出てくる。そして、棚を見れば日本のアダルトビデオがずらり。
良くも悪しくもあの頃にあふれ返っていた猥雑(わいざつ)な魅力。本国香港で興収歴代1位を記録したというのも分かる気がする。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)
※侠は人ベンに峡の旧字体のツクリ
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