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野島伸司氏が総合監修のスクールとタッグ 戸田彬弘監督の挑戦的作品「爽子の衝動」に込めた願い

日刊スポーツ / 2025年1月27日 7時19分

映画「爽子の衝動」の、左から戸田彬弘監督、古澤メイ、小川黎(撮影・村上幸将)

<情報最前線:エンタメ 映画>

23年の映画「市子」が高く評価された戸田彬弘監督(41)と、脚本家の野島伸司氏(61)が総合監修を務める俳優養成スクール「ポーラスター東京アカデミー」がタッグを組んだ、新たな映画製作プロジェクトB.A.P(Boost Actor Project)が始動した。

将来性が感じられながらチャンスがめぐってこない若手俳優を中心に置き、難しく挑戦的な役を与え寄り添って作っていく自主映画の第1弾として「爽子の衝動」が昨年末に公開。戸田監督に企画に込めた思い、覚悟を聞いた。【村上幸将】

■ヤングケアラー

54歳の父が体の自由が利かず、働けないからと生活保護の受給を求める19歳の女性に「預金残高が35万円あるから」と受給を渋るケースワーカー…2人の間の空気は乾ききっている。床を踏み付ける足音に「お金、なくなったら、また相談に来てください」という無機質な声。冒頭からシビアなやりとりが展開される。

ヤングケアラー、生活保護といった現代の社会に横たわる問題を、戸田監督自らが脚本を書き、実写化した。「自分の中で、ずっと引っかかっていた問題であり、テーマ。どうせ物語をオリジナルで作るのであれば、興味がある題材でやりたいという欲求がありました」。

難しいテーマに加え、もう1つ、挑戦に踏み切ったのが、なかなかチャンスが巡ってこない新人、若手俳優をメインキャストに迎え、映画を製作することだった。「これからの若手俳優にフィーチャーし、撮っていく。チャレンジできる役を渡し、寄り添っていく企画で俳優にチャレンジしてもらうのが良いかなと思いました」とプロジェクトの意図を説明した。

主人公の園田爽子役に、自身が代表取締役を務める映画・舞台製作や役者のマネジメント業務を行う「チーズfilm」所属の古澤メイ(24)を起用。キーパーソンの新人訪問介護士・桐谷さと役に、ポーラスター東京アカデミーで演技を学ぶ小川黎(23)をオーディションで抜てきした。

■批判承知の上で

挑戦的な企画意図は、ファーストカットから明確に表れる。画面が黒一色で、声だけでやりとりが展開し、その後、椅子と爽子の足元が映し出される。何度も床を踏みしめる右足だけで、爽子のいら立ちを表現した上で、爽子とケースワーカーが画面に登場する。古澤は「自分の中では挑戦的な役でした」と振り返る。

爽子は、複雑な役どころだ。絵の勉強をしたくても、四肢まひと網膜症で失明した父保(間瀬英正)の介護とお金の問題で進学できない上、自身も注意欠陥多動性障害(ADHD)が見受けられ、社会にもなじめずフリーターを続けている。古澤は「生活保護を受給しているだけで風当たりが強かったり、いろいろな欲求を殺していると前々から思っていて。そういう境遇に左右されず毎日、五感を働かせながら生きていることを、示さなければいけない。爽子自体を見つめて演じようと思った」と役作りを説明。「生活保護を受給している方も身近にいる。人ごとではないと題材に寄り添い、考えた」と明かした。

■弱者を守りたい

小川が演じた新人訪問介護士の桐谷さとも、難しい役どころだ。特定の場面…劇中でいえば、訪問介護の現場で話すことができなくなる、場面緘黙(ばめんかんもく)症がある。しかも、小川は今作が初の撮影現場だった。「最初は症状があるから、と考えた。でも、そこからしか役を見られていなかったと反省した。症状がありながらも懸命に働く中、社会で見えづらい存在となっている爽子を1人の人間として見つめられる、唯一の存在と感じながら演じることに集中した。相当、考えました」と役作りを振り返った。

45分の短編のため、描ききれなかった部分もある。生活保護受給をちらつかせ、爽子に性行為を強要するなど、梅田誠弘(42)が演じたケースワーカー遠藤の、悪の部分が際だってしまった面は否めない。戸田監督は「ケースワーカー側のストレス、問題まで描きたかったが、短編だったので批判が出ることを承知の上で弱者を守る作品にした」と説明した。

作品の今後については「パイロット版にして、長編の商業映画を成立させたい思いもある。もう少し、問題を客観的に見られる台本を作りたい」と意欲を見せた。プロジェクト全体については「やるからには、熱量と覚悟を持ってチャレンジする作品をやりたい。新人だったら誰でもいいでは、企画が死んでしまうので、将来性を感じられる役者を中心に置くことだけは守らないと」と力を込めた。

若き俳優2人も、大きなものを得た。古澤は「1つの役を任せてもらえるって、役者からしたら、とんでもない出会い。私は爽子から、すごくエネルギーをもらった。難しい役だったけど出会えて良かった」と感謝。小川も「芝居はレッスンを受ける中でするもので、1人の人を演じることに向き合うことがなかった。作品が届く先にある社会に、1人の人を示す責任も作品を作ることに参加しないと分からないことだった。全く経験のない役者に託してくださったのは大きな一歩」と喜びをかみしめた。

昨年12月に東京・新宿K’シネマでプレミア上映されてから、今年はアップリンク吉祥寺に劇場を移し、2月4日も上映される。新たな可能性を切り開く挑戦は、これからが本番だ。

<「障がい者の性」逃げずに見せるべき>

もう1つ、踏み込んだテーマが障がい者の性だ。劇中で、生殖機能が残る保が苦しそうな声を上げると、爽子が介助し性欲を処理する場面が描かれる。戸田監督は「障がいがあるご家庭では現実にある話ですが、触れてはいけないという風潮があるナイーブな部分。ただ、爽子の人生を見る(描く)時に逃げられない、やるなら、ちゃんと見せないといけないと思った」と意図を語った。撮影には、身体的な接触があるシーンの動きの所作を監修するインティマシーコーディネーターも参加した。

物語の中でハイライトになるのが、留守の間に保に求められて性処理をさせられていた、さとを見て爽子が我を忘れたように飛びかかっていくシーンだ。古澤は「日常でやっていたことを、さとちゃんに仕事でやられて父が男に見えた瞬間。何で? と震えました」と、演じた中で爽子として湧いた感情を吐露。小川は、保の首を絞めかけた爽子を止めた場面を振り返り「爽子に突き飛ばされ、涙が落ちてきたことから感じた苦しみ、悲しみを知ったからこそ、一世一代の力を振り絞った」と語った。戸田監督は「自主映画なので、批判も理解した上で逃げずに見せるべきだと思った。僕の中で、あのシーンは爽子と、さとにとって半分、優しさ、愛情も込めています」と説明した。

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