中国が進める「戦狼外交」の罠
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2020年6月22日 17時40分
![中国が進める「戦狼外交」の罠](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/nipponhoso/nipponhoso_230656_0-small.jpg)
ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(6月22日放送)に地政学・戦略学者の奥山真司が出演。中国が周辺各国に行っている「戦狼外交」について解説した。
中国、香港治安に直接関与
中国の立法機関、全国人民代表大会(全人代)の常務委員会が審議して来た「香港国家安全維持法」の概要が20日に明らかになった。この法律が香港の他の法律に優先することや、中国政府による治安維持の出先機関「国家安全維持公署」を新設することを規定し、香港の高度な自治を認めた一国二制度を完全に形骸化させる内容となっている。
飯田)他の法律に優先ということは、香港の憲法とされる基本法すらも優越してしまうのですか?
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人民大会堂で、政府活動報告を聴く中国の習近平国家主席(中国・北京)=2020年5月22日 写真提供:時事通信
危機的な状況の「戦狼外交」
奥山)直接手を出して来たということです。いま話題になっている「戦狼外交」、中国が完全に力をつけて自信を持ってしまったということです。中国は「外に対する工作がある程度完成した」と見ています。これは非常に危機的な状況です。外に敵をつくり過ぎるということは、戦略の第一の失敗なのです。孤立してしまうわけですから、ストロングスタイルですべて敵にするということは、してはいけません。いまの中国は外交的に戦狼外交ですから、それをやってしまっているのです。
飯田)しかも、勇ましいことを言う外交官が出世するから、みんながそういうモチベーションになってしまっていますよね。
奥山)中国国内向けというところもあるのですが、盛り上がってしまって、中国は周りが敵だらけになっているのに、自分たちだけが気づかないという怖い状況になっています。
飯田)北京の中枢もそれに気づいていない。
奥山)一部にわかっているベテラン外交官はいて、人民日報でも「それだけやっていたら、我々がいままで築いて来た信頼を損なう」とは言っています。ところがいまの若い世代、眼鏡をかけた趙立堅さんという報道官が居ますが、彼のような人が出て来て、タカ派的なことをやり、それでも構わないというのは極めてまずい状況だと思います。彼らはやっていて気持ちがいいのですが、外交的に、自分たちで自滅の方向に向かっているという認識でいいと思います。
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中国の習近平国家主席(左)とトランプ米大統領=2020年5月14日 写真提供:時事通信
「米中」から「中国対周辺」へ戦いの場がシフト
飯田)傍から見ると、膨張主義というか、現状を変更しようとしているようにも思えます。 “かーこ66”さん、群馬県吾妻郡の方からメールをいただきました。「南シナ海や東シナ海を考えれば、日本は台湾やベトナム、フィリピンなどと安全保障面を強化すべきだと思っていますが、どう思われますか?」と。中国が外へどんどん拡大して行く路線に、変わりはないということですか?
奥山)変わりないですね。米中の衝突はありますが、それ以上に、米中以外のところで、中国対中国周辺の国々の戦いにモードがシフトしています。アメリカはいま少し引き気味になっていて、インドとベトナム、台湾、日本も含めて、外側にある、いわゆるシーパワーの「海洋連合対中国」という構造になりつつあります。アメリカと中国の頭越しではなく、もう現場の国々と中国が戦っている。「中国対周辺」という方に、いま世界の戦いの現場がシフトしています。それはなぜかと言うと、中国自身がかなり激しくなっているからです。周りが警戒し始めて、「中国が危ないことをやっているのであれば反発しよう」というロジックが働いているのだと思います。
飯田)今後は東アジアの国々が矢面に立ち、アメリカは引いたところから全体のサポートをする、という方向に変わって行くのですか?
奥山)特にトランプ政権になってから、トランプ大統領が暴走気味なので、「横での連携をやろうよ」ということです。中国が強く出て来たので、周りの国がアメリカも頼りにならないから、横での連携を何とかしようということで、オーストラリアとインドが会談したり、インドと日本が歩み寄ったり、横の連携が増えて来ているのではないでしょうか。
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飛鳥新社『目に見えぬ侵略 中国のオーストラリア支配計画 Kindle版』著:クライブ・ハミルトン(画像はAmazonより)
『目に見えぬ侵略』の刊行によって明らかになる中国の狙い
飯田)中国側の戦略というのは、奥山さんが訳された『目に見えぬ侵略』という本に詳しく書かれていますけれど、オーストラリアや日本とアメリカの間を分断する。これがうまく行ってしまっているということですか?
奥山)そうですね。それはいままでうまくやっていたのですが、僕が翻訳したような本が刊行されることによって、中国側が狙っていることが明らかになりつつあるのです。中国の工作の手口を紹介したのが『目に見えぬ侵略』という本です。僕も翻訳してわかったのですが、中国がオーストラリアに仕掛けている工作と、他のカナダやヨーロッパへのやり口がまったく一緒なのです。どこでも同じやり口を使って、まず政治家を買収する。その次にメディアを手懐けて、記者を北京に呼んで交流する。現地の宗教団体を手懐けることもしています。
飯田)国内では宗教を認めていないに等しいにも関わらず。
奥山)そこが不思議なのです。そういうところと関係をつなげ、ビジネス界にも手を出して、「中国に悪いことは言うな」ということをやる。同じ手口で昔、中国とアヘン戦争をやって、香港までつくっていたイギリスに対してもやっています。元首相のブラウンさんなど、政界を引退した政治家を使って、「一帯一路の方にフォーラムをやるから役員になってください」などということをしています。これをどこででもやっているのです。
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