中国が香港にしていることはイギリス植民地時代とどう違うのか
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2020年7月4日 11時40分
ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(7月3日放送)に外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。香港市民300万人に対し、イギリスの市民権や永住権を獲得可能にするというジョンソン首相の方針について解説した。
ジョンソン首相が香港の300万人にイギリス市民権への道を示す
イギリスのボリス・ジョンソン首相は1日、香港市民300万人に対し、イギリスの市民権や永住権の獲得を可能にする方針を明らかにした。中国政府が6月30日に施行した香港国家安全維持法が自由を侵害しているため、かつてイギリスの植民地だった香港からの逃げ道をつくるということである。
飯田)対象となるのは、1997年の香港返還以前に生まれた香港市民が持つことができる、イギリス海外市民(BNO)パスポートの保持者です。現在35万人いる他、申請条件を満たしている人が260万人、全部でおよそ300万人いるということです。
宮家)当たり前でしょう。
飯田)当たり前。
植民地として香港の自由を抑えていたのはイギリスも中国と同じ
宮家)なぜなら、イギリスが中国にアヘンを売って戦争を仕掛け、アヘン戦争で勝って香港をもぎ取ったわけです。その後、イギリスは香港に自由を与えていたのですか? 違うではないですか。植民地として使っていたのです。ところが、中国に返さなくてはいけなくなった。しかし、このまま中国のものにさせたくないのです。急にと言っては失礼ですが、いろいろな手段で議会を民主的に動かせるようにしたり、法律をつくり直して、あたかも自由な香港がこれまでもずっと存在していて、それを返還後も50年間続けられるように「一国二制度」で維持しようとしたとイギリスは言うのです。だけれども、中国から見たら、「何を言っているのだ」と。返す直前に、部分的に民主化しただけではないかと。その香港を中国に戻して何が悪いのか、イギリスがやったことと同じではないかと言われかねないのですよ。だから、そんなことをやったイギリスが、パスポートや市民権を香港人に与えるのは当たり前です。「イギリスには植民地にした責任があるのだから」と、中国の人だったら言うでしょう。
飯田)中国であれば。
宮家)中国からしたら、イギリスは直前に民主化のふりをしたけれど、結局は自由を抑圧していたではないかと。であれば、中国も自分たちの思うようにやって何が悪いとでも思うのでしょうね。
イギリスは香港市民にやるべきことをやる義務がある
飯田)特に参政権の部分は、イギリス時代も制限があった。しかし、言論の自由の部分というのはある程度認められていたと思っていいですか?
宮家)ある程度はね。もちろん、イギリスの植民地としての香港は、いまの中国のような酷い状況ではありません。ですが、もし当時の香港人が「香港独立」と言ったらどうですか?
飯田)その植民地時代に。
宮家)いまの中国との状況とは逆ですけれどね。いくらイギリスでも、「植民地の分際で何が独立だ」と、暴動が起きれば、実力行使で鎮圧しますよ。第二次大戦が終わる前の植民地というのは、とんでもないところだったのですから。
飯田)帝国主義時代の植民地。
宮家)その意味では、イギリスは当然、やるべきことをやらなくてはいけないと思います。
飯田)6月30日に、香港に対して国家安全維持法が制定されました。
中国が外に対して自己主張を強める2つの理由
宮家)現在の流れは中国の強硬姿勢なのでしょうね。いまは、中国が自己主張を強めて、対外的に居丈高な感じで物事を進めている。カシミールではインド軍との「戦闘」もありました。香港でも、南シナ海や東シナ海でも、アメリカにも喧嘩を売る。多くの人は中国が強大化したからだと思っています。しかし、私は逆ではないかと思うのです。2つ理由があって、1つはまず、アメリカが少しおかしくなっている。しかもトランプさんのもとで、アメリカ国内のコロナ感染が爆発しているから、多少何かやっても、いまのアメリカは軍事的には動けないだろうと完全に見縊った。
ここで香港を抑えなければ、本土のシステムに悪影響を与える
宮家)もう1つは、香港のようなところはまさにそうだけれど、もしここで判断を間違って香港の民主勢力の人々が主導権を握ったら、香港の先にある深圳、広東省、場合によっては上海にまで、こうした草の根の民主化運動が広がって行く可能性がある。中国はそれを恐れている。なぜなら、いまの中国はそうした動きをことごとく力で押さえつけているからです。そういう中国共産党の人たちは一種の恐怖心があって、いつ民衆が反抗するかも知れない、ということを常に気にしている。自分たちの体制が「脆弱だ」と感じているからこそ、反対派を強く取り締まろうとするのです。だから、彼らにとっては、いま香港を抑え込まなければ、最終的には本土のシステムそのものに悪影響が及ぶ可能性もあるとみているのだと思います。
飯田)やられる前にやるという。
宮家)それをやらないと生き延びられないですからね。いまの香港のような形で政治的自由を認めてしまったら、中華人民共和国は成り立たないと思います。ウイグルもあるしチベットもあるし、少数民族はいくらでもいるわけです。人口数は少ないけれど、広い土地に住んでいる。万一、ウイグルを分離でもされたら、またはチベットがなくなったら、中国は半分くらいになってしまうのです。しかも残りの中国は人口過剰で資源がない。それは漢民族からすれば辛いことだろうと思います。
常に外敵の侵入に怯えて来た漢民族
飯田)歴史を紐解くと、漢民族は常に外からの侵入に怯えて来た。
宮家)漢民族は全人口の95%を占め、安定しているはずなので、少数民族など自由にさせればいいではないかと普通は思うのですが、そう思わない人たちも北京にはいるということです。
飯田)やはり大陸に構える国家というのは、常にそういうところで怯えながら過ごすと。
宮家)私の限られた知識でしかないですけれど、歴史的に見ると、やはり島国の方がいろいろな意味で安定し、文化的な統一性もあります。大陸国家の陸上の国境は、瞬く間に蹂躙されてしまいます。ヨーロッパでもそうだし、中国もそうです。日本やイギリスだけでなく、アメリカも島国ですが、島国は大陸国家と考え方も発想も違うのでしょうね。島国では外敵が入って来ることは滅多にありませんから、外国との関係も違います。一方、大陸国家では、いつ敵が入って来るかわかりません。常に警戒心を怠ることはできない。
飯田)そして、陸上と海の国でぶつかるポイントが、半島の部分にある。
宮家)そうですね。それはヨーロッパもアジアも同じです。まさに、半島とは半分「島」で半分「大陸」ですから。それは韓国でも、ある意味でフランス、イタリアもそうですが、微妙な発想をする人たちだと思いますね。
飯田)そして香港も九龍半島です。
宮家)小さいけれど半島ですよね。長い歴史のなかで広東省だったし、現地語は広東語だし、本当は北京とはまるで違うはずなのですけれどね。13億人をまとめるためには、ある程度の犠牲は仕方ないと共産党の人たちは思っているかも知れませんが、犠牲を強いられる側になったら、それは「耐え難い」ことなのです。
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