英語圏で強まる対中脅威認識~日本は立場をどう取るべきか
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2020年7月29日 17時35分
![英語圏で強まる対中脅威認識~日本は立場をどう取るべきか](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/nipponhoso/nipponhoso_236831_0-small.jpg)
中国の習近平国家主席(左)とトランプ米大統領。
ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(7月29日放送)に慶応義塾大学教授で国際政治学者の中山俊宏が出演。中国がイギリス、オーストラリア、カナダの3ヵ国に対して、犯罪人引き渡し条約の停止を表明したニュースについて解説した。
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中国の習近平国家主席(左)とトランプ米大統領=2020年5月14日 写真提供:時事通信
中国がイギリスなど3ヵ国に対して犯罪人引き渡し条約の停止を表明
中国政府は28日、香港国家安全維持法の施行を受け、香港との犯罪人引き渡し条約を停止すると発表したイギリス、オーストラリア、カナダの3ヵ国に対して、中国側も条約を一時停止すると発表した。また3ヵ国と互いに捜査協力を行う協定についても、一時停止すると発表した。
飯田)ニュージーランドも、香港内での犯罪人引き渡し条約の停止を発表しています。西側諸国の包囲網は強まっているということですか?
中山)対中脅威認識というものが強まって来たのだと思います。これまでは、「中国は時間がかかるけれども、こちら側に取り込めるのだ」と、取り込めるスピードや手法についてはいろいろな考え方の違いはありましたが、そのような考え方でした。しかし、「もはや中国を取り込むことはできない」という方向に舵を切ったようです。むしろ自由で開かれた国際秩序に対する脅威だということで、中国は脅威の対象として、アメリカではここ1~2年、想像を超えるペースで認識が変わっています。英語を話す国々が中心となり、中国に対して要求をきちんと突き付けて行く。関与を前提とするのではなく、「好ましい秩序像から中国のあり方を導く」という、厳しい対中認識が出て来ています。
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習近平国家主席=2020年6月22日 写真提供:時事通信
アメリカ国内に入り込んでいることに対する違和感がベースとなって、対中脅威認識が形成されている
飯田)先立って、アメリカの政府高官が次々と演説をしていますが、厳しい言葉が並んでいますよね。
中山)しかも安全保障担当の大統領補佐官、司法長官、FBI長官、締め括りに国務長官ということで、シリーズものとして位置付け、はっきりと中国が脅威であるということ、そして単に脅威なだけではなく、イデオロギー的に相容れないということで、冷戦という言葉はありませんが、冷戦的な対立を想起させるような演説シリーズでした。気になったのが、安全保障政策の領域で起きている変化ですが、国防長官がスピーチに参加していないこと。また、ヒューストンの中国総領事館の閉鎖がありましたが、FBIと司法長官ということで、中国がアメリカ国内に入り込んでいることに対する違和感がベースになって、いまの対中脅威認識が形成されているのではないかということです。
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中国政府、成都の米総領事館に閉鎖命令=2020年7月26日 写真提供:時事通信
50年代の米ソ冷戦を想起させる
飯田)アメリカとソ連の間の冷戦期になぞらえるような人もいますが、国内に入り込まれているところは、1950年代の……。
中山)まさにそうですね。50年代にはマッカーシズムというものがあって、国内に入り込まれることに対する恐怖心がアメリカ国内で煽られて、赤狩りという現象に直結しました。コロナとの関連でトランプ大統領が「武漢ウイルス」という言葉を使い、これが赤狩り的な雰囲気を煽っていると、リベラルなメディアは批判しています。まだそういう状況には至っていませんが、少しそんな雰囲気を想起させるようなところはあると思います。
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米西部ネバダ州ラスベガスでの支持者集会で演説するトランプ大統領。「米国は偉大なる再起の途上にある」と述べて11月の大統領選での再選に向け結束を求めた=2020年2月21日 写真提供:産経新聞社
日本の難しい立場~米大統領選の結果でまた動く可能性も
中山)一連の演説ですけれども、対決するということはわかりましたが、どうやって対決するのか、長期的にどういう競争を中国として行くのかについては、具体的なものははっきりと見えません。英語を話す国以外は、アメリカの対中政策を視野に収めつつも、まだ明確な態度を取ってはいません。日本も中国に対して、アメリカが厳しくなることは歓迎だと思いますが、一方で日本は中国と良好な関係も維持して行かなければいけません。
飯田)あまりに近すぎるということもありますか?
中山)近すぎるところもありますし、経済がつながっているということもありますが、アメリカの対中政策が、長期的にどう変わって行くかを注意深く観察するということではないでしょうか。11月の大統領選挙の結果によっては、この対中政策がまた動く可能性もあるので、中国含め各国とも注視しているのが現状です。
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中国の外交政策を統括する楊潔チ共産党政治局員(左)とポンペオ米国務長官(アメリカ・ワシントン)=2018年11月9日 写真提供:時事通信
チャンネルが多い米中間~複雑で激しい対立に向かうか
飯田)米ソ冷戦のとき、外交的なところでジョージ・ケナンという人が出て来て、封じ込めることをやっていましたが、ここまでの関係性がすでにあると、封じ込めは難しいですか?
中山)封じ込めは、言葉の響きほど強いものではありません。零れ落ちて来るものをもう一度戻すということで、「強制的に押し返す」というニュアンスは当初ありませんでした。米ソの場合は、接点が少なかったのです。中国の場合は経済を含めて、すでにいろいろなチャンネルで接点があるので、それぞれのチャンネルで紛争が悪化することを防ぐのか、あるいはチャンネルが多いがゆえに、紛争の数が増えるのかというところでしょう。いままでは、チャンネルが多いから大丈夫だという考え方でした。しかし、いまはチャンネルが多いからこそ、複雑で激しい対立になるのではないかという方向に傾きつつあります。
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閣僚級貿易協議に臨む米国のライトハイザー通商代表(左)、ムニューシン財務長官(右)、中国の劉鶴副首相=2019年10月10日、ワシントン(共同) 写真提供:共同通信社
米ソ冷戦時代よりも複雑になっている米中対立
中山)行き過ぎた感もありますが、中国からのアメリカの留学生に対して、不信感が出て来てしまっています。いままでだと留学生の受け入れは、交流の象徴として紛争を抑えるものと位置付けられていましたが、トランプ政権の認識を見ていると、「アメリカに入り込まれている」という感覚から、場合によっては留学生を見てしまうということもあります。同じ冷戦という言葉が使われたとしても、質的にはより複雑な対立になって行くと言えます。それからソ連は冷戦の間、力を伸ばしていたということはありませんが、中国は内部にいろいろな矛盾を抱えつつも、勢いはあります。アメリカが覇権そのものを失いつつあるという自己認識と、中国が伸びているということで、そこも複雑な対立の要素になると思います。
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会談を前に握手するトランプ米大統領(左)と中国の習近平国家主席=2019年6月29日、大阪市(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社
長いスパンで米中対立を考えている中国~注意深く観察する必要がある
飯田)人によっては、「アメリカから中国へ覇権が移る過程だ」と指摘する人がいますが、そうなると秩序がまったく変わってしまうということになります。
中山)そうですね。日本にしてみると、自由で開かれた法に基づく国際秩序のもとで、戦後一貫して発展して来ました。日本は好ましい外部環境を自らつくり出すという能力はないので、国際秩序が安定しているということが、決定的に重要なのです。そういう意味で、アメリカが中心となり、日本も支えていた国際秩序に依存しているので、その構図が変わるということは、日本にとって相当大きな問題です。日本も一緒になって、「中国がこちら側に来られるのだ」ということを前提でやって来ましたが、無理そうだという認識が日本国内でも高まっていて、そこは不透明感が強いです。中国は非常に長いスパンでこの対立を見ているので、そこは注意深く観察して行かなければいけません。
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