前例のない「コロナ選挙」となる~アメリカ大統領選挙
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2020年7月29日 17時40分
ホワイトハウスで記者会見するトランプ米大統領(アメリカ・ワシントン)
ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(7月29日放送)に慶応義塾大学教授で国際政治学者の中山俊宏が出演。新型コロナウイルスが感染拡大するなかで行われる米大統領選挙について解説した。
アメリカ大統領選に向けた候補者討論会~新型コロナウイルスの影響で会場変更
11月のアメリカ大統領選に向けた候補者討論会の実行委員会は7月27日、インディアナ州で9月29日に開催予定だった第1回討論会について、会場をオハイオ州に変更すると発表した。会場になる予定だったノートルダム大学が、新型コロナウイルスの懸念から開催を辞退したということである。
飯田)3回予定されている討論会、初回の会場がコロナの影響で変更になりました。2回目の討論会の会場も、ミシガン州からフロリダ州に変更になっています。このコロナの影響は、大統領選そのものの趨勢にもかかって来ますか?
今回の大統領選は「コロナ選挙」~前例がない
中山)今回の選挙は「コロナ選挙」と言ってもオーバーではないと思います。他にもブラック・ライヴズ・マター、黒人暴行死事件による人種問題がありつつも、それもコロナをめぐる状況と絡んだところがあります。前例がないので、どうなるかは読みにくい選挙だと言えます。
飯田)これだけの感染症は、よくスペイン風邪と並んで言われたりしますが、あのときはウィルソン大統領の時代でした。そことはまったく違いますか?
新型コロナの影響で大好きな演説ができないトランプ大統領
中山)選挙の仕方が違いますし、いまは大統領が中心となり、長い時間をかけてキャンペーンをやって競い合います。そのキャンペーンができない状況です。トランプ大統領は大集会で演説するのが大好きですが、それができないので、危機感を持っているのではないでしょうか。それから、コロナ対策をめぐっても高い評価を得ているわけではないので、本人は大丈夫だと言っていますが、そういう評価をめぐる選挙になると思います。
飯田)対立候補となるバイデンさんについて、日本ではどういう人か報じられていません。
中山)これまでの候補に比べると、副大統領として、顔や名前を聞いたことがあるという点では知名度が高いかも知れません。例えばクリントン大統領が出て来たときは、アーカンソー州の知事でしたから、ほとんど無名でした。ブッシュ大統領にしても、「お父さんの息子」ということだけでしたし、オバマ大統領に至っては、「変わった名前だな、誰だこれ?」と言う感じでした。それに比べると知名度は高いと思いますが、目立つ人ではありません。目立つと言えば、バイデン候補は「失言マシーン」として知られています。アメリカ政治のなかでは、困った親戚のおじさんのような存在です。悪い人ではないですが、いろいろ余計な発言をしてしまう。昔は失言するとフォローもできましたが、年齢なのかどうなのか、最近はフォローも冴えません。フォローしているときに、文章を終わらせることができないというのが見ていて気になります。
嫌われないバイデン候補はサバイブする可能性も~気になるその認知能力
飯田)認知機能的なところは大丈夫なのか、という話が出ていますよね。
中山)そうですね。いろいろ選挙直前のサプライズがあると思いますが、大統領候補者の討論会は3回あります。そのなかで、記憶や認知の面で、「この人はどうなんだろう」と有権者に思わせてしまうと、大きな問題になりかねません。政治家としてのバイデン候補の特徴は、彼のことを攻撃的に嫌いな人はいないということです。そこが2016年のヒラリー・クリントンさんとの決定的な違いです。ヒラリー・クリントンさんは、とにかく嫌われている政治家です。党派性について言うと、この党派性は特殊なもので、否定的党派性と言います。Aという候補が好きだから支持するのではなく、Bが嫌いだからAを支持するというものです。そのような党派性が多いのです。それを前提にすると、ヒラリー・クリントンさんはみんなから嫌われているので、結果としてトランプさんを支持するということになりました。今回はそういう構図が難しいです。バイデンさんは人から嫌われないのです。目立たなくて地味な候補ですが、否定的な党派性のなかでは、サバイブする可能性があります。ただ、認知能力のところで不安感を有権者に呼び起こしてしまうと、そこは危ないところです。
副大統領候補が話題になる理由~スーザン・ライスという存在
飯田)誰を副大統領に選ぶかもポイントになりますね。
中山)本来であれば副大統領は重要ではありません。候補が4~5月くらいに決まって、本選挙は9月に始まるので、空白期間があります。その間、大統領選挙をめぐるニュースを盛り上げるために、「パートナーは誰か」という形でメディアが騒ぎます。メディアがつくり出したイベント的なところが普段はあります。しかし今年(2020年)は、彼が仮に当選した場合に、バイデンさんは2期は目指さないと思われているので、今回バイデンさんが選ぶ副大統領候補が、実質的な2024年の民主党の筆頭候補となる可能性が大きいのです。それからもう1つは、女性を選ぶと明言していることです。ブラック・ライヴズ・マターによる人種問題のなかで、黒人の女性候補である可能性が高いというところから注目が集まっています。
飯田)いろいろなことが言われていますが、黒人の女性で、かつて民主党の政権に入っていたというと、スーザン・ライスという名前が出たりしますが、そうすると中国に近くなってしまうのではないかと言われます。
中山)そうですね。スーザン・ライスさんは、オバマ政権の安全保障担当の大統領補佐官であり、オバマ政権の中国に甘い外交を象徴する人物として、日本では受け止められています。スーザン・ライスさんが副大統領になったら大変だという見方がありますが、彼女は民主党のなかで大物感があり、仮に副大統領ではなくても、国務長官などになる可能性はあります。そういう意味で言うと、彼女とつきあって行かなければならないことを、ある程度考えなくてはいけません。
アメリカにおける対中意識は党派的なものではない
中山)それからもう1つ、アメリカにおける中国に対する認識は、党派的なものではありません。民主党だから甘いとか、共和党だからきついということでは必ずしもありません。中国は脅威であるから、タフに臨んで行かなければいけないということについては、ここ数年で大きな変化があったと思います。もう政権に入らない引退する人たちは、これまで提唱して来た中国に対する寛容政策を守ろうとしますが、まだキャリアのある人たちは、アメリカにおける対中認識の変化に自分を合わせようとしているので、おそらくスーザン・ライスさんもそこに適用しようとしていると思います。ですから、我々のなかにあるイメージ、2013年~2014年ごろのスーザン・ライスさんとはだいぶ違う可能性があるので、心は開いておかなければいけないという気がします。小さなエピソードですが、彼女の息子がトランプサポーターなのです。もしかすると、我々が思う以上に、イデオロギー的に寛容なのかも知れません。異なるものと生きて行かなければいけないということを認識しているのかも知れません。それは我々としても、オープンマインドで見なければいけないでしょう。
中国に対して厳しいということはトランプ大統領が出せる数少ないカード
飯田)大統領選があるから、政府高官による4演説も含めて、対中強硬に舵を切ったという見方がありますが、必ずしもそれだけではないということですか?
中山)すべてを選挙で解釈するのはよくないと思いますが、中国に対して厳しいということは、トランプさんが出せる数少ないカードです。
飯田)その部分は否めない。
中山)否めません。どれほどが政策でどれほどが選挙なのか、その辺はわかりませんが、混在していることは間違いありません。
飯田)そうすると、周りの国々は完全に身を預けるのではなく、やや引いた形で対応するということですね。
中山)中国に対して、どれほどアメリカが本気で行くかは、様子見という雰囲気だと思います。
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