米中総領事館の閉鎖合戦〜その背景にあるプロレス的攻防
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2020年8月1日 21時50分
ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(7月31日放送)に外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。米中総領事館の閉鎖合戦の背景について持論を展開した。
米中総領事館の閉鎖合戦の背景に迫る
先週から米中関係が大きく動いており、7月21日、アメリカがヒューストンにある中国総領事館の閉鎖を命じたのに対し、24日には中国が成都にあるアメリカ総領事館の閉鎖で報復に出た。その背景には何があるのか——宮家邦彦に訊く。
飯田)アメリカの閣僚の演説があって、総領事館の閉鎖もありました。いろいろ動いていると思うのですが。
「ただでは済まないぞ」というアメリカのメッセージ
宮家)「アメリカは本気なのですか?」とよく聞かれるのですけれども、これは「ただでは済まないぞ」というアメリカのメッセージなのだろうと思います。中国は以前から情報を抜くというスパイ行為を、もう20~30年やっていますから、急に「けしからん」となった話ではないのです。もしかすると、コロナウイルスのワクチンにまで手を出して来たから、トランプさんがキレてしまったのかも知れないという気はします。でも、簡単に言うと、ただの中国のスパイでしょう。それであれば、スパイが誰なのかはわかるはずです。それが中国の外交官なら、その外交官を国外追放すればいいのです。それが普通です。
飯田)それが普通。
宮家)ええ。しかし、国交断絶というほどではないから、領事館を閉めるということになったのでしょうけれども、領事館の閉鎖だって前例がないわけではありません。2017年にもティラーソン国務長官のときに、ロシアの総領事館を閉めたことがあります。前例がないわけではないのだけれど、やはり総合的に考えると「中国さん、もういい加減にしなさいよ」というメッセージなのだと思います。
飯田)それに対して今度、中国は成都にあるアメリカ総領事館を閉鎖して来ました。
アメリカがヒューストンを、中国が成都の総領事館を閉じた理由
宮家)アメリカ総領事館は香港にも上海にもあって、重要な役割を果たしています。今回の動きを見ていて面白いのは、米中が落としどころを持って、歌舞伎をやっているという声もあることです。米中双方とも決定的にアメリカと、もしくは中国と対決はしたくないという気持ちがあるのでしょう。中国にとっては、ヒューストンよりサンフランシスコの方がはるかに重要だと思います。
飯田)サンフランシスコの中国総領事館。
宮家)ハイテク情報のことを考えたら、シリコンバレーの近くにあるサンフランシスコ総領事館の方が、おそらく酷いスパイ行為をしていると思うのです。しかし、あえてヒューストンにしたということは、「これはまだお仕置きだよ」ということ、つまりアメリカも徹底的にやるというところまでは行っていないわけです。
飯田)このくらいで勘弁しておこうという。
その後、報復合戦にはなっていない
宮家)中国側もそれをわかっているのでしょう。普通だったら日本語で言う「倍返し」、やられたらやり返せとなってもおかしくない。しかし、そういうことはしない。中国は賢いから、アメリカがヒューストンを閉めたということは、必ずしも大事(おおごと)にはしたくないのだなと。そう思うと、それでは香港や上海を閉めるという話ではなく、重慶か成都のアメリカの総領事館となるのです。
飯田)内陸の2つのどちらかになると。
宮家)どちらもそんなに大きくないでしょうし。それならば、成都で行こうと。成都であればアメリカ側に対して倍返しではないですが、中国国内的には「それ相応の対応はしました」という説明にはなる。一方、アメリカに対しては「私たちはこれを大げさにして喧嘩を続けるつもりはありません」というメッセージになったのだろうと思います。ですからこの後、双方とも黙っているでしょう。
飯田)そうですね。その後は報復合戦になっていませんね。
宮家)これを、ある人は「できレース」と言うのかも知れません。実態は「できレース」以上の険悪な状況ではあるけれども、それなりの抑制が効いているという意味では、予想通りだと思います。
飯田)シグナルの交換としては、一応お互い正しく受け取っている状態だと。
ポンペオ国務長官の演説で使われた「コミュニスト・チャイナ」~大統領選を考えての言い方
宮家)ただ、この間カリフォルニアでポンペオ国務長官が行った演説を見ると、やはり米中関係の対立が次のラウンドに入ったという感じはします。簡単に言うと、言葉の使い方が少しずつ変わっている。昔は「中国がけしからん」と言っていたのが、2019年10月30日の演説では「中国共産党はけしからん」となり、今回の演説では、中国共産党はけしからんと言うだけではなくて、「共産中国、コミュニスト・チャイナ」という言葉を使うようになりました。これも意図的に使っていると思います。半分は「中国けしからん」でいいのだけれども、もう1つはアメリカ大統領選挙を考えてのことです。トランプさんの選挙のレトリックはどうなっているかというと、簡単に言えば、「民主党はけしからん、そしてリベラル、社会主義者、共産主義者、バイデン氏も皆けしからん」と。こういう形で選挙戦を戦おうとしているので、「共産中国、コミュニスト・チャイナ」というのは、そのレトリックにぴったり合うのです。大統領選挙の側面も否定できない、そうなると、アメリカの対中批判は当分続きそうだということです。
飯田)その演説のなかで、「自由主義の各国で同盟を組んで対峙して行くのだ」という呼びかけもありましたよね。
宮家)しかし、もうすでに同盟はあるではないですか。あれはレトリックとしての意味が大きいと思います。ただ、「中国対世界」という構図に持って行くのは、間違いではないと思います。
飯田)それをもって新冷戦だと言う人もいますが、これはどうですか?
宮家)もうすでに冷戦になっていると思います。
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