イスラエルとUAEが国交正常化~背景にはアメリカ含む3ヵ国の思惑の一致
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2020年8月16日 11時15分
13日、米ホワイトハウスの執務室で発言するトランプ大統領(ロイター=共同)
ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(8月14日放送)に外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。トランプ大統領がイスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)が国交正常化で合意したと発表したニュースについて解説した。
イスラエルとUAEが国交正常化で合意~トランプ大統領が発表
アメリカのトランプ大統領は8月13日、イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)が国交正常化することで合意したと発表した。パレスチナ問題を抱えるイスラエルは1979年にエジプトと、1994年にはヨルダンと和平条約を結んだが、湾岸諸国との国交正常化は初めてとなる。イスラエルとアラブ諸国の対立が長年続いて来た中東域内の政治地図に変化をもたらす可能性がある。
飯田)朝日新聞の1面トップの記事でした。
宮家)私も中東関係に長いこと関わって来ましたから、隔世の感があります。イスラエルが最初の平和条約を結んだのがエジプト、その次がヨルダンでした。1990年代前半の話です。それ以来、30年近く、その後の進展がなかったのです。
アメリカ、イスラエル、UAE~それぞれの思惑が一致
宮家)イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)の国交正常化なのに、なぜアメリカ大統領が発表するのか。おそらく、3ヵ国とも別の思惑があったのだけれど、それがうまく一致したのだと思います。アメリカから見れば、大統領選挙という目的のため、トランプさんのキャンペーンの1つになります。イスラエルはヨルダン川西岸併合を断念したことになっていますが、実は利益を得ているということがあります。今回のUAEとの取引に持って行くために、「西岸を併合するぞ」という脅しをチラつかせて、それを交換材料として平和条約を結ぶ。ネタニヤフ首相はうまく立ち回ったのだと思います。
飯田)あそこはパレスチナ人がいるところを……。
宮家)1967年の戦争で占領した地区ですから、法的には併合などできるわけがないのです。
飯田)返さなくては国際法違反になる。
宮家)それを併合するという脅しをチラつかせておいて、アラブ首長国連邦とうまく握り、「ではあきらめましょう。平和条約を結ぶなら併合は中止しましょう」という取引にしたのだと思います。しかし、イスラエル国内には強硬派がいますから、本当に中止できるのかはわかりませんけれど。しかし、イスラエルにとっては国内的にも、国際的にも大きな勝利だと思います。
飯田)なるほど。
宮家)では、UAEはどうかというと、やはりイランに島を獲られていますし、湾岸アラブ諸国の中ではいちばんイランとの対立の要素が多い。イランのことを考えると、UAEとしてもイスラエルとの関係改善はどこかで進めて行かなければならないのです。しかし、それをサウジアラビアがやるわけにはいかない。イスラム教の二大聖地の守護者なのだから。そうなると、イスラエルとの平和条約を締結できるのは、やはりアラブ首長国連邦だったのだろうなと思います。
飯田)動きやすかったということですか?
宮家)まあ、あのなかでは比較的、動きやすかったのでしょう。
アメリカのユダヤ系団体による長年の地道な努力が実った結果
宮家)みんなうまく行ったと思います。今回最大の敗者がパレスチナ人であることは言うまでもありません。あともう1つ言わなくてはならないのは、アメリカ国内に真面目なユダヤ系アメリカ人の団体がいくつもあることです。彼らは30年以上前から、アラブ首長国連邦を含む湾岸諸国の国々との関係改善を、民間レベルで進めて来ていました。30年前のことですが、イスラエルと湾岸アラブ諸国との関係改善について彼らと話をした際、「え! 君たちはアブダビに行けるの?」と聞いたら、「もちろん、行けるよ」と言っていました。GCC諸国にはユダヤ系アメリカ人団体幹部の友達がたくさんいるわけです。今回は彼らのそうした地道な努力がようやく実ったのだろうなと思います。もちろん、トランプさんの娘婿のクシュナーさんも頑張ったのかも知れません。でも彼がやったことは、いままでの積み重ねの上に乗ったからこそ実現したのです。しかし、これでパレスチナ問題の解決とアラブ・イスラエル間の和解がすんなりと行くような状況ではまだありません。これからも道は長いと思います。とは言え、今回の合意が大きな進歩であることも間違いないと思います。
飯田)イランは何か反応して来たりしますか?
宮家)いや、非難はするかも知れませんが、特に物理的に抵抗や抗議はしないでしょう。どちらにしても、イランとUAEの関係はよくありませんから。
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