アベノミクスをやり抜かないと「日本は衰退する」理由
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2020年9月4日 17時45分
自民党本部に入った安倍晋三首相=15日午前、東京・永田町の自民党本部
ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(9月4日放送)に元内閣官房参与で前駐スイス大使、現在はTMI総合法律事務所顧問の本田悦朗が出演。自らが長年サポートして来たアベノミクスと今後の日本経済について解説した。
アベノミクス総括、総裁選3候補の考えをチェック
菅官房長官は9月2日に自民党総裁選への出馬を表明した際、アベノミクスをしっかりと責任を持って引き継ぎ、さらに前に進めて行きたいと明言した。一方、石破氏は、アベノミクスで株価は上がったが、個人所得は伸び悩んでいると指摘。そして岸田氏は、成長の果実が中間層や中小企業、地方に分配されていないとし、格差解消に向けて所得の再分配に目配りする姿勢を示した。
飯田)菅さんはしっかりと引き継いで行くのだと言っていますが、岸田、石破両氏は独自色も示すというところです。本田さんは、アベノミクスの生みの親の1人ですよね。
本田)生みの親は安倍総理なのですけれども、それをサポートして来たということで、私もこのプロジェクトには思い入れがありますし、最後までやり抜いていただきたいと思います。
アベノミクスをやり抜かないと日本は衰退する
飯田)まだ道半ばですか?
本田)半ばです。これをやり抜かないと、日本は間違いなく衰退します。日本は20年間、数え方によっては30年間、デフレを経験して来たのです。確かに、消費者物価指数が明らかにマイナスという年は、プラスになったりマイナスになったりしました。しかし、全体としての20年、30年を見ると、やはりマイナスなのです。少なくともメンタルの意味では、日本国民は商品を買うことに慎重で、企業は設備投資に慎重です。ですから、内部留保がどんどん増えて行くのです。内部留保が増えると、給料が増えないのです。給料が増えないから消費も増えないという、悪循環が続いて来ました。
成長戦略の成功の前提にマクロ政策の成功がある~好循環をつくって将来に対する明るい展望を企業経営者にも消費者にも持ってもらう
本田)それを是正することが、アベノミクスの第一の目的です。それを実現しないで、よく「成長戦略が足りない」とおっしゃる方が多いのですが、成長戦略はわかりやすいものです。マクロ政策は抽象的なので、すぐに目に見えないことが多いため、わかりにくい。しかし、成長戦略はITやAIなど、非常にわかりやすいことを説明するのですが、デフレから脱却しないと企業が前向きな投資をしません。成長戦略の成功の前提に、マクロ政策の成功があるのです。つまり好循環をつくって、将来に対する明るい展望を企業経営者にも投資家にも、消費者にも持ってもらうということが、成長戦略が成功することの前提となっているのです。
消費者物価指数を2%まで持って行く~物価が上がらなければ賃金が上がらず消費は増えない
本田)成長戦略にはいろいろなやり方があるので、候補者の3名の方も、これからいろいろ工夫されると思います。しかし、それが本当に効果を出すためには、まずみんなのメンタルの面、将来に対して積極的に投資しよう、消費しよう、教育投資もしようということを考えて行かないと失敗します。いま消費者物価指数を見ると、コロナの影響もあって、生鮮食品を除くコアと呼ばれる消費者物価指数(CPI)が0なのです。2014年のアベノミクスが始まった直後に1.5%くらいまで行き、目標が2%なので、もうすぐ実現できるのではないかという期待を私も持ちました。ところが、いろいろな事情があって、2回にわたる消費税増税、そしてコロナもあり、いまは0に戻ってしまいました。これを2%まで持って行くということを、絶対にやらなくてはいけない。「1%くらいでいいではないか。そんなに無理をしなくていい、消費者物価指数は0.5%くらいでちょうどいい。物価が上がらない方が家庭の主婦は有利なのだ」ということをおっしゃる方がいますが、根本的にわかっていません。物価が上がらないということは、賃金も上がっていないのです。賃金が上がらなければ、家計は厳しくなります。賃金が上がり、それによって消費が増え、消費が増えた結果、物価もゆっくり上がるという状態に早く持って行かないと、間違いなく日本は他の国と比べても、永遠のハンディキャップを負っています。
日本だけインフレ率が1%でいいと言った瞬間から円高傾向が続く
本田)アメリカもそれをよく認識していて、最近、アメリカの中央銀行総裁が出席するジャクソンホール会議があったのですが、そこでパウエルFRB議長は「高圧経済」ということを言い始めたのです。2%がインフレ目標ですが、2%を超えてもいいと。3%くらいまで上げて、インフレ率を上げることにより、圧力を高めて従業員を増やし、失業者を減らすことが最大目的だと。そのためには、いま低金利でインフレ率も低いので、相当インフレ率を上げてもいいのだと。いままでは2%を目標にしていましたが、実際は1.5%や1.0%が多かったので、オーバーしても構わないから、失業率を減らすことが最優先だという方針に変えたのです。そのなかで、日本だけインフレ率が1%でもいい、0.5%でもいいと言った瞬間に、これから円高傾向がずっと続きます。常に足かせを負ったまま、日本経済が進まなければいけないということで、これが10年、20年と続くと蓄積は非常に大きいです。
新しい国債を発行する意味
本田)ですから、本来のアベノミクスの原点に立ち戻って、まずは2%を目指す。それを実現するには、これまでどちらかと言うと金融政策が中心となり、アベノミクスの3本の矢でも第1に金融政策が来ていましたが、ずっと金融大緩和をやって来たおかげで、例えば10年物国債の利回りも0になっているのです。これ以上の金融緩和をしても、逆に民間金融機関の利ザヤが取りにくくなる。民間金融機関、特に地方の金融機関は、料金を低金利で預かって、それを低金利で貸すのですが、両方とも低金利なので利ザヤがなかなか取れず、経営が厳しくなって来る。資金ニーズがあまり出て来ない状況にあるので、なかなか下げられないのです。そして効果も少ない。そうすると、やはり新しい国債が欲しいのです。新しい国債を発行して、日銀がそれを買い取る。その国債で調達した資金を、財政が民間部門に対して出す。財政で資金を出すと、必ずそれが預金になります。お金が出ますから、例えば政府小切手で渡すと、受け取った企業はそれを銀行に持って行きます。そうすると預金になるのです。その預金がぐるぐる回り始めます。ですから、そのままだと金利が上がって行くので、金利を下げるために大規模緩和を同時にやる。そして同時に、政府の資金を財政資金として民間部門に出す。同時にやる必要があるのです。
飯田)結局、デフレは物価が上がらないことが多いのですが、特に日本においてはそうですけれど、需要がないということが1つある。そして、経済の3主体のうち、家計や企業がお金を出したがらないから、政府が出すのだということですね。
いまの日本で唯一お金を使っているのは政府
本田)そうです。マクロ経済学は少し難しいと申し上げましたが、いちばん難しいのは、マクロ経済が動く原理として「貯蓄は投資に等しい」のです。「貯蓄は投資に等しくなるように生産量が決まる」という原則を理解することが、少し難しいかも知れません。ただ、お金が消えるわけではありません。貯蓄されたものはぐるぐる回って、どこかの投資に行くのです。企業があげた収益は、従業員に所得として届きます。その所得は消費するか、貯蓄するかのどちらかなのです。消費した場合は、お金が循環し始めます。貯蓄は金融機関を通じて、また投資に行きます。もしそれが小さくなった場合は、生産全体が小さくなって均衡してしまうのです。ですから、いま家計はどこの国でも大体黒字で、貯蓄超過、貯蓄の方が多いです。住宅投資をしたりしますから、貯金するのです。そして、企業は普通だと赤字主体、つまり投資の方が本当は多い。しかし、日本の場合は企業も貯蓄の方が多いのです。そうすると、誰かがお金を使わなければ、経済が小さくなってしまう。
飯田)先ほど言ったことですね。みんながお金を使わなかったら、経済が回らずに苦しくなってしまう。いまの日本もそうです。
本田)そういうことです。いまの日本経済で、誰がお金を使っていますか? 唯一、政府が使っています。ですから、財政赤字ができるのは当たり前なのです。別に財務省がサボったわけでも、政府がサボったわけでもない。日本経済を維持するために、財政は赤字にするしかないのです。そうしないと縮小してしまいます。ですから、いまは正常なのですが、このまま続けてはダメです。何とかして投資を活性化し、生産を増やさないと、日本は衰退して行きます。
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