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安倍政権の功罪 そして総裁選に挑む人々(1)

ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2020年9月8日 17時20分

安倍政権の功罪 そして総裁選に挑む人々(1)

「報道部畑中デスクの独り言」(第204回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、7年8ヵ月の長期政権となった安倍内閣の総括と、今後の自民党総裁選について—

2020年8月28日、会見を行う安倍総理~出典:首相官邸ホームページ(https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/actions/202008/28kaiken.html)

2020年8月28日、安倍総理大臣が突然の辞任を表明しました。首班指名までは総理の職にありますが、7年8ヵ月の長期政権はまもなく終止符が打たれることになります。

8月28日のこの日、メディアの一員として感じたのは「敗北感」でした。いまになって「前から私は知っていた」かのように解説する方もいらっしゃいますが、私はそのようなことを申し上げるつもりはありません。

確かに、いま思えばというシグナルのようなものはありましたし、そうした噂も永田町にはありました。ただ、「マユツバ」ものの情報もあり、断定に足る裏付けがなかったのも事実です。

受診のため東京・信濃町の慶応大病院に入る安倍晋三首相が乗ったとみられる車=2020年8月17日午前、東京都新宿区の慶応大病院 写真提供:産経新聞社

私が明らかにやばいなと思ったのは、8月12日、いわゆる「黒い雨」訴訟に関する官邸エントランスでのやり取りです。声が完全に枯れ、時折かすれる、歩くのもしんどいかと思わせるような後ろ姿でした。その後、総理は休みを取り、17日には7時間半、24日は3時間半の検診に臨み、一度は声も戻ったようでした。

総理も会見で話していた通り、「拉致問題」「日露問題」「憲法改正」……国内外で課題が山積しています。任期も1年残っています。10月解散・総選挙の噂も決して消えたわけではありません。

大変不謹慎な話ですが、口の悪い記者からは「国会に出たくないがために、元気がないふりをしているのではないか?」という声もあったぐらいです。それだけ総理の状況は読み切れなかったわけです。

8月28日当日、安倍総理は午前10時前に総理官邸に姿を見せました。記者会見をひかえ、背筋はしゃんとしていたように見えました。定例閣議の後、麻生副総理と会談……内容はなかなかつかめなかったのですが、後に辞任の意向を伝えたことが明らかになります。

休養を終え出邸する安倍晋三首相=2020年8月19日午後、首相官邸 写真提供:産経新聞社

午後の新型コロナ対策本部会合では、むしろ頬が赤らみ、顔色はよく見えました。しかし、その整った表情は「決意」の表れだったと言えるかも知れません。午後4時の臨時閣議、5時の記者会見を前に、その間隙をついて総理は自民党に向かいました。二階幹事長を官邸には呼ばず、自ら自民党本部に向かったことで、いよいよ「ビンゴ」となりました。

午後5時から始まった記者会見。秋から冬に向けた新型コロナウイルスの「対策パッケージ」、北朝鮮を念頭とした安全保障対策の新たな方針、政策に関するメッセージを5分40秒話した後、健康問題の説明、辞任表明となりました。

「病気と治療を抱え、体力が万全でないなか、大切な政治判断を誤ること、結果を出せないことがあってはならない」

「悩みに悩んだが、足元において、7月以降の新型コロナウイルス感染拡大が減少傾向に転じたこと。冬を見据えて実施すべき対応等をとりまとめることができた。新体制に移行するのであれば、このタイミングしかないと判断した」

拉致被害者家族との面会であいさつするトランプ米大統領(中央左)=2019年5月27日午後、東京・元赤坂の迎賓館[代表撮影] 写真提供:時事通信

体調の異変、辞任の理由を語り、未達となった課題については「拉致問題をこの手で解決できなかったことは痛恨の極み」「ロシアとの平和条約、憲法改正、志半ばで職を去ることは断腸の思い」と、かみしめるように語りました。これまでの会見とは違い、質疑では原稿にほとんど目を落とさず、記者の目を見据えて答えていたのが印象的です。

7年8ヵ月、相当な激務、ストレスだったと思います。まずは日本という国のトップを務められたことに対して、敬意を表します。「お疲れさまでした」と申し上げたいと思います。

アベノミクスと呼ばれた経済対策、物価目標など未達の部分は多いものの、就任前に日本全体を覆っていた閉塞感、特に「六重苦」というフレーズはまったく聞かれなくなりました。新型コロナウイルスの影響で先行きは不透明ですが、雇用については「人手不足」と言われるぐらいの状況を導いたことは事実です。

また在任中、2度の消費税率の引き上げを行いました。消費税はそれまで倒閣につながる、いわば「鬼門」であり、タブー視されていました。その引き上げの是非はともかく、これによる選挙での敗北はない、初めての内閣となりました。

コンビニエンスストアに貼られた、キャッシュレス決済でのポイント還元を知らせるポスター=2019年10月1日未明、東京都品川区 写真提供:産経新聞社

その他、「地球儀外交」と言われる80の国と地域を訪問し、外交の存在感を高めました。これまた賛否は分かれますが、安全保障関連法、組織的犯罪処罰法を成立させたことは、歴史に刻まれるでしょう。

一方、人に対して好き嫌いのハッキリしていた宰相であったとも思います。国会のやり取りでは挑発にすぐムキになり、自らヤジを飛ばすという一幕もありました。

辞任表明の会見終盤に「メディアの選別」「政権の私物化」を指摘する質問があり、それまでは比較的、張りのあった声が急に「蚊の鳴くような声」になりました。1時間近くにわたる会見の疲れというより、本人にとって嫌な質問に対する“アレルギー反応”に感じました。

当人は否定していますが、敵・味方を峻別する政治手法というのは、わかりやすさの一方で、政権としての限界を示していたのではないかと思います。

総理が悲願としていた憲法改正、皮肉なことに世論調査ではそれ自体には抵抗がなくても、「安倍さんのもとでは反対」という回答が少なくなかったと記憶しています。国民はそれだけ安倍政権に、一種の危うさを感じていたのではないでしょうか。

【政治 安倍晋三首相会見】会見にのぞむ安倍晋三首相=2019年7月22日午後、東京・永田町の自民党本部 写真提供:産経新聞社

以前、小欄でいわゆる「タカ派」だった中曽根康弘元総理が、“女房役”の官房長官に「ハト派」とされる後藤田正晴氏を起用した、“バランス感覚”についてお伝えしたことがあります。また、保守派の論客として知られる石原慎太郎氏も好き嫌いの激しい人物ですが、東京都知事時代に、左派系メディアを「バカ●●」と罵りながらも、そうしたメディアにも出演していました。

当時の側近は、「出ることで(左派系の支持者も)味方につける」と話していたことを思い出します。「政権の器」「老獪さ」「懐の深さ」……そんな観点で見ると、安倍政権ははたしてどうだったのかと考えます。

さて、政界はすでに事実上の次の総理、自民党総裁選に向けて動いています。「あすの日本が少しでもよくなるかも知れない」……これは第2次安倍内閣、小泉内閣、鳩山由紀夫内閣の発足時に、多くの国民が感じていたことだと思います。

期待通りだったこともあれば、期待外れのときもあったわけですが、後任にそんな期待感や高揚感を持てる人がいるかどうか……注目して行きたいと思います。

(その2へ続く)

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