猛暑になると思い出すあのとき
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2020年9月11日 17時20分
「報道部畑中デスクの独り言」(第206回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、猛暑にまつわる畑中デスクの2つの思い出について—
今年(2020年)も猛暑の夏となりました。それだけでなく、異例づくめの天候でした。
長梅雨の後に猛暑が来襲、首都圏では9月に入っても残暑が続いています。一方、先週から今週(9月6日~7日ごろ)にかけては、台風10号が「特別警報級」の勢力で九州に接近しました。
台風が発達する海面水温は27度以上と言われていますが、台風が近づいたときは、この“温水プール”のような温度の海水が日本列島をほぼすっぽり覆う形となっていました。
猛暑は日本にとどまらず、世界的にも広がっているようで、アメリカ西部カリフォルニア州のデスバレーでは、8月16日に、8月としては世界史上最高となる54.4度を観測したそうです。こうした現象で、地球温暖化の影響は確実とみられています。
猛暑の時期になると、私は決まって2つの場面を思い出します。1つは、少年野球をやっていたころの練習です。
「水は飲んだらあかん、ゆすぐだけじゃ!」
炎天下でのキャッチボールやノック……口のなかはカラカラを通り越して、舌が口内の粘膜に張り付いてしまうような状況でした。つかの間の休憩で水道の蛇口に駆け寄るのですが、そこで言われたのが監督・コーチのセリフ。
幾度となく、水をのどに通したくなるところをぐっと我慢。チームのなかには“いじめグループ”がいて、のど元を“監視”……のど元が動こうものなら、「飲んだ、飲んだ!」と騒ぎ立て、監督・コーチにチクるという構図です。本人たちは悪気はなかったのでしょうが、いま思い出してもイヤな連中でした。
しかし、そんな猛練習が終わると、私たち子供は用意されたアイスボックスに集まります。ありつけるのが、いわゆる“キンキン”に凍った「棒ジュース」。すべてが終わってホーっと解放される瞬間でした。
ちなみに、棒ジュースと申し上げましたが、この商品の正式名称は何でしょうか? いろいろ調べてみると、「チューペット」「チューチューアイス」など、地域によってさまざまな呼び方があるようです。皆さまの地域はいかがでしょうか……。
もう1つが当時、教科書に載っていた「一切れのパン」(F・ムンテヤーヌ著)という話です。
第二次世界大戦中、ルーマニア人の主人公は、突如敵対関係となったドイツに敵国人として捕まりますが、仲間とともに押し込まれた列車から脱走することを決意します。別れ際に、列車でともにしていたラビ(ユダヤ教宗教法律学者)から、ハンカチでくるまれた小さな包みを渡され、このように言われます。
「このなかには、パンが一切れ入っています。何かの役に立つでしょう」
「そのパンはすぐに食べず、できるだけ長く持っているように。パンを一切れ持っていると思うと、ずっと我慢強くなる。ハンカチに包んだまま持っていなさい。その方が食べようという誘惑に駆られなくてすむ」
主人公は逃げる途中、飢えから逃れるため、何度もパンに手をかけようとしますが、ラビの言葉を思い出し、パンをポケットにしまい込みます。
我慢の末、奇跡的に妻の待つ家へ無事たどり着きました。「これが僕を救ったんだよ」と妻に見せた、パンの入ったハンカチの包み。開けてみると、なかにあったのは一片の木切れでした……。
確か、こんな話だったと記憶しています。この物語は「信仰の尊さ」など、さまざまな視点で評されていますが、私は単純に「我慢することの大切さ」を感じていました。
翻って現代、猛暑への対応という意味で言えば、熱中症防止のため、水分をこまめに補給することが必要です。我慢することは、いまの常識で言えば“間違い”です。
ただ、当時を振り返ると、私にとっては過酷だった野球の“猛練習”も、チームのなかに熱中症で倒れたメンバーはいなかったと記憶しています。
かと言って私自身、特に運動神経がいいとか、体が丈夫というわけではありません。故郷の岐阜は内陸性気候を帯びていて、夏は暑く、冬は寒かったのですが、それでもいまのような猛暑ではなかったのかも知れません。
それにしても、あのころなぜ乗り切ることができたのだろうか……猛暑のなかで2つの記憶がよぎり、懐かしさとともに不思議に感じることがあります。(了)
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