菅氏の言う「省庁の縦割りを打破すること」が困難ないくつもの理由
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2020年9月14日 17時30分
日本記者クラブで自民党総裁選立候補者討論会に臨む(左から)石破茂元幹事長、菅義偉官房長官、岸田文雄政調会長=12日午後、東京都千代田区
ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(9月14日放送)に中央大学法科大学院教授の野村修也が出演。9月14日午後2時から投開票される自民党総裁選について解説した。
自民党総裁選の投開票
自民党は9月14日午後2時から、東京都内のホテルで両院議員総会を開き、安倍総理大臣の後任を選ぶ総裁選挙の投開票を行う。菅義偉官房長官、岸田文雄政調会長、石破茂元幹事長の3候補から新しい総裁が誕生し、16日の臨時国会で総理大臣に選出される見通しだ。
(※編集部注:14日午後の投開票で、第26代総裁に菅義偉官房長官が選出された。菅氏は377票を獲得。2位の岸田文雄政調会長は89票、3位の石破茂元幹事長は68票だった)
飯田)国会議員票が394票、47都道府県票が141票ということですが、もうすでに、という感じですよね。
菅氏がどのような政策をするのかに注目
野村)ほぼ決まりということなのでしょうけれども、飯田さんはどこに注目しているのですか?
飯田)よく言われるのは2位争いですが、こうなると、菅さんがどのような政策をするのかというところですね。
野村)政局が好きな人は、「組閣がどうなるか」と人事の話をする人がいますが、私もどちらかと言うと、菅さんの政策がどうなるのかというところに関心があります。今回出ているなかでキーワードになっているのは、「縦割りを打破する」ということで、例えば「デジタル庁をつくる」とか、「厚生労働省は大き過ぎる」などと言っています。これについて、私はすごいことだと思っています。
飯田)いろいろな人に話を聞くと、いままで菅さんのやって来たことは、馬力がある政治家でなければできないことをやっていると聞きます。
庶民の生活に密着した政策
野村)例としてよく挙がるのは、ふるさと納税などがあります。菅さんの政策のポイントは2点あると思うのですが、1つは「庶民の生活に密着した政策を打ちたい」ということがあります。ふるさと納税もそうですし、ダムの治水の問題、要するに洪水対策の問題に目を向けることもあります。
飯田)携帯電話の料金もそうでした。
省庁の縦割りを打破することの難しさ~やるべきことをやらないということと権限の囲い込み
野村)まさにその通りです。そもそもの軸として、天下国家も大事だけれど、私たちの生活からよくして行きたいということがベースにあり、地方のことを言っています。そういう軸で見るという面がありますが、それをやるためには、省庁の縦割りを打破しなければいけないということです。省庁の縦割りというのはよく聞くので、みんな当たり前だと思っていますが、側面が2つあります。1つは役所が複数あって、本当ならば協力してやらなければいけないのに、「うちは面倒だからお任せします」と言って、やるべきことをやっていないということです。ダムはまさにそうで、洪水対策は国土交通省が管理している3割のダムでしかやっていません。経済産業省や農水省がやっているところは、「自分たちの経済活動のための水だから、洪水なんて関係ない」と言って、やるべきことをサボっている状況です。去年(2019年)の台風で大変な被害があったことから、その後に菅さんが招集をかけて「どうなっているんだ」と調べたら、そういう状態が判明したのです。
飯田)これも、調べなければわからないのですね。
野村)現在は、洪水のときには国交省の一元管理にして、全部に号令を出し、使えるだけの能力を使って洪水対策をしようという話になりました。もう1つは、本当は他の省庁もやってあげると言っているのに、「俺のところの権限を持って行くな」という権限の囲い込みがあります。これがPCR検査で出ています。PCR検査をどのくらい拡大するかについては、いろいろな政策の問題があるけれども、「やれ」と言ったときになかなか動かない問題があるのは、「保健所が全部管理する」という仕組みから1歩も出さないようにしているわけです。PCR検査の機能というのは、大学などでも当然持っているわけですが、そこは文科省の管轄になります。そういったところは「どうなんだ」という話が出て来ていて、「使ったらいいだろう」と。例えば文科省が言って来たとすると、「いやいや、けっこうです。私たちでやりますから、私たちの権限を持って行かなくてもいいです」と言って、保健所が囲い込んでいるのです。そして、行政検査で保健所にすべてやらせるということになります。自分たちのキャパのなかでやるため、感染者が増えると限界を超えた状態になってしまう。こういうことについて、なぜやらせないのかと言うと、自分たちの省庁の力が削がれるからです。人に持って行かれてしまうと、予算もなくなるし、人も少なくていいということになる。これが問題なのです。役所というのは、こういうことばかりです。小さなことを1つやるにしても、こういう問題で根詰まりが起こって来ます。ところが、これに手を突っ込むと、政治家は飛ばされるのです。
タブーとされて来た問題に手を突っ込む決意
飯田)政治家が飛ばされるのですよね、官僚が飛ばされるのではなくて。
野村)そのために昔は族議員というものをつくり、自分たちの省庁を守ってくれる政治家をたくさん抱え込んでいるので、「あいつは気に入らない」と言うと、そこでどんどん飛ばされて行きます。
飯田)「あの大臣はけしからん」などと言うわけですね。
野村)その族議員の人だけを大臣にするという仕組みだから、うまく行かないということになります。ここに本腰を入れて手を突っ込むと言っているのは、すごいと思います。
飯田)少し前にあった、獣医師さんの数を減らすか増やすかの話も、農林水産省があり、文部科学省があって、「何とか試験だけでもさせれば」という話だけで、メディアも含めた大スキャンダル化してしまいました。
野村)デジタルの問題も同じです。経産省もあるし、総務省もあるし、機材なら文科省もということで、みんな出て来るためにうまく進まないのです。
飯田)それぞれにぶら下がっている機構があり、予算があり、人がいるということで、「俺たちを首にするつもりか」となるわけですね。
野村)ある意味では短命覚悟なのかも知れないけれど、菅さんは、「もう自分に回って来たのだから、その間にやると決めたことをやってみよう」ということなのだと思います。これが成功したら、長期政権になると思います。
菅氏の力量に期待
飯田)野村さんは、菅さんと仕事をされたこともあると思いますが、仕事の進め方として、「ここを押せばここが動く」ということを把握しているわけですか?
野村)政治家のなかには、上から目線で「やれ」と机を叩く人もいますが、こんな人は官僚にとって痛くも痒くもありません。そこでは「申し訳ありません」と言い、帰ってから舌を出しているだけです。ところが菅さんは、「ここをやればできるだろう」ということをズバッと言ってしまうので、そうすると岩のなかに水を流し込むような感じになります。だんだんそれが浸食して、パカっと割れるのです。
飯田)最後に岩が割れて行くのですね。
野村)そうです。これは相当の力量がなければできないから、そこを私は期待したいと思っています。
飯田)菅さんご自身の法律を理解する能力もあると思うのですが、周りにいるブレーンも優秀な人が多いのですか?
野村)周りにいろいろな経験をした人や、役所のことをよく知っている人たちが支援者としてついているところもあります。そういう人たちの力量が結集して行くのではないかと思います。
飯田)霞が関の人たちはやりづらいのではないでしょうか。
野村)やりづらいでしょうね。
飯田)この先、いろいろなものが蠢きそうですね。
野村)日本がよくなればいいと思います。
飯田)能力の下地はいろいろあって、それがさまざまなしがらみによって発揮できないという問題は、至るところにあります。
野村)そうです。もったいないです。これは官僚の人が悪いのではなく、仕組みが悪いのです。「あんなに優秀な人たちを集めているのに、なぜ何もできないのか」とみんな思っているでしょう。あの人たちの能力をしっかりと発揮できる仕組みにすれば、若い人たちはみんな盛り上がるし、いい社会になるのではないかと思います。
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