アメリカのSNSが追従できないTikTokの「レコメンドアルゴリズム」
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2020年9月16日 17時45分
ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(9月16日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。YouTubeがTikTokに対抗するため、スマホアプリに短編動画機能を追加したというニュースについて解説した。
YouTubeがスマホアプリに短編動画機能を追加
アメリカグーグル傘下の動画投稿サイトYouTubeは9月14日、スマートフォンのアプリに15秒の短編動画機能を追加すると発表した。中国系の動画投稿アプリTikTokに対抗する狙いがあるとみられている。
飯田)このところ、TikTokの代わりのようなものがたくさん出ています。
佐々木)そうですね。TikTokをアメリカのトランプ政権が遮断し、米国企業に売却しない限りダメだということで、いろいろなところがポストTikTokを狙っています。しかし、短い動画があればそれにみんなが飛びつくわけではありません。2010年代初頭にVineという6秒の動画があって、ツイッターに買収されたのですが、結局は人気が出なくて5~6年やって終わりました。短い動画機能に訴求力はありますが、それだけではいけません。TikTokは6秒が15秒に伸びたから成功したのではありません。TikTokの強みは、強力なレコメンドアルゴリズムだと言われています。
ユーザーの好みを調べ上げる「レコメンドアルゴリズム」
飯田)レコメンドアルゴリズム。
佐々木)TikTokを観ているとわかるのですが、次々に新しい動画が出て来て面白いです。つまらなければ観ずに飛ばします。やっていると、自分好みの面白いものが出て来るようになります。その人の好みを探る、パーソナライズの技術がすごいです。そのために、ありとあらゆるデータを駆使しています。マックアドレスというアカウント以外の、携帯電話機などハードウェアそのものに製造番号のようなものがあります。「そのアドレスを収集してはいけない」というのがグーグルの規約にありますが、TikTokは密かに収集していて、それが発覚して問題になったことがあります。そのように、ユーザーのありとあらゆるものを収集し、「ユーザーが何を好むのか、次に何を観たいのか」を調べ上げています。
飯田)スマホに入っている情報を、丸ごと調べてしまうということですか?
佐々木)それくらいのものです。
飯田)そうすると、癖のようなところも含めてわかってしまいますね。
佐々木)だからTikTokは麻薬的で、ずっと観てしまうのです。これを、いまのアメリカのGAFAができるかどうかは微妙です。もちろん、データを集めてパーソナライズするのは昔からやっているのですが、一方で3年くらい前に、例のフェイスブックが情報漏洩して上院で吊し上げられたくらいから、「プライバシーのデータをネット企業は取りすぎだ」ということで批判されています。
飯田)そのうち、ユーザーを操っているだろうと。
アメリカ国内でプライバシーのデータが取りにくくなっている一方で、データを取り続けるTikTok
佐々木)プラットフォームシェアに対する拒否感がアメリカで高まり、EUでも厳しい規制をかけるようになって、日本もそれに追随する形になっていますが、データを取ってパーソナライズすることがやりにくくなっている状況があります。TikTokは中国企業なので、「そんなこと知るか」という感じです。中国政府としても、TikTokの強みは強力なレコメンドアルゴリズムだとわかっているので、いま技術移転に関する法規制をかけています。TikTokを中国でやっている経営者は、アメリカに引っ越した中国人でアメリカ人のような立場ですが、本拠地は中国にある。米国法人だけをアメリカ企業に売却するということで、マイクロソフト、ツイッター、オラクルあたりが名乗りを挙げていましたが、マイクロソフトには売らないという報道がありました。たぶん、オラクルあたりになるでしょう。
レコメンドアルゴリズムの中身まで米企業に売ることに規制をかける中国政府~アメリカでのサービスが難しくなって来たTikTok
佐々木)ただ売却するにあたって、「レコメンドアルゴリズムの中身まで売却するということはまかりならん」と、中国政府は法規制をかけています。アメリカ側から見ると、トランプ大統領はデータを中国政府に渡しているのではないかという懸念があるので、TikTokのアメリカ法人は中国の息がかかってはいけないと言っています。アルゴリズムを渡さずに、データだけを米国側にする、そんな分離はできるのかという問題が出て来ます。中国の法規制に従うとなると、TikTokの法人はアメリカにすべて渡さないという話になりかねない。
飯田)そうすると、アメリカではTikTokを使ってはいけないと。
佐々木)トランプさんとしては、そんなことを受け入れられないでしょう。厳しい状況になりつつあります。そうすると、TikTokはアメリカでサービスを維持できるのか、微妙な状況になっています。それらを含めて、YouTubeなどいろいろな会社が進出して来ている状況なのでしょう。
飯田)ここをチャンスとみているのですね。
佐々木)そうです。結局、今後はデータとパーソナライズAIが、どこまで監視社会にもって行くのかというところで、日米欧と中国の間で大きな乖離があります。
飯田)佐々木さんが「麻薬みたい」とおっしゃっていたレコメンドアルゴリズムは、うまく使えば便利になるし、生活が向上するかも知れませんが、一度使い出したら手離せなくなってしまいますよね。
佐々木)アマゾンも、ものすごいデータをとっています。どんな買い物をしているのかとか。
どこまでデータをプラットフォーム側に譲り渡すのかという問題
飯田)読みたそうな本を、たくさんリコメンドされますよね。
佐々木)アマゾンもある意味、麻薬的なのです。あそこで本を買い出すと、読みもしないのに次々と買ってしまいます。紙の本のように積まないので、Kindleだと無数に増えてしまいます。完全に我々はアマゾンのとりこになっている。それはアマゾンだから、アメリカで民主主義社会だからという、最低限の安心感があるのでしょうけれど、これを中国企業が中国政府のコントロール下でやり、中国ITの圏域に日本人やアメリカ人が飲み込まれるとなると、果たして許容されるのでしょうか。GAFAがもし全部中国企業だったらどうか、と想像してみるといいです。そうしたら、アマゾンでウイグル問題の本を買えば、いきなり警察がやって来るということもあり得ます。
飯田)住所がばれていますから。
佐々木)中国の国家安全法は、国外の人間も対象ですからね。
飯田)サイバー空間も何も関係ないですよね。
佐々木)アマゾンでウイグルの本を買っても、日本の警察は来ませんが、翌月に中国へ旅行に行ったら、いきなり拘束されるということもあり得ます。データの権利をどこまでプラットフォーム側に譲り渡すのか、安全保障外交の問題に侵食するような状況になって来ていることを、認識した方がいいと思います。
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