「派手なヒール」対「地味なベビーフェイス」となってしまった米大統領候補の討論会
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2020年10月2日 17時30分
米大統領選の第1回討論会を視聴する人(アメリカ・フロリダ州マイアミ)
ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(10月2日放送)に元内閣官房副長官補・同志社大学特別客員教授の兼原信克が出演。大混乱に終わったアメリカ大統領選の第1回討論会について解説した。
アメリカ大統領候補の討論会~次回から形式を変更へ
アメリカ大統領候補討論会委員会(CPD)は9月30日、前夜に民主党候補バイデン前副大統領とトランプ大統領の間で行われた第1回の討論会が大混乱に陥ったことを受け、残りの討論会の形式を変更する方針を示した。具体的にどのような変更を検討・採用するかは明らかにしていないが、変更内容を慎重に検討し、間もなく発表するとしている。次回はフロリダ州マイアミで、10月15日に行われる予定である。
飯田)次回はタウンホールミーティング形式で、現場にいる聴衆からも募るということです。そして第3回が直接討論という形だそうですが。第1回をご覧になっていかがでしたか?
プロレスの「派手なヒール対地味なベビーフェイス」のような展開に
兼原)トランプさんは自分の岩盤支持層だけにアピールをして、バイデンさんと何かを議論しようとは思っていないのです。トランプさんはプロレスで言うと、反則し放題のようなところがあって、場外乱闘にすぐ持ち込んだり、相手が喋っているときに「何言ってんだ、馬鹿野郎!」という感じで入って来ます。
飯田)「派手なヒール対地味なベビーフェイス」みたいな感じでしたね。
兼原)バイデンさんはどちらかというと取りまとめ型で、「みんなで一緒に」と言うやさしいお父さんのような感じです。だから、マイノリティのアフリカ系アメリカ人の方がバイデンさんを好きなのです。ただ、あの形になると「人のいいお父さん対プロレスラー」みたいになってしまいます。そうすると、「堅気のお父さんが突然怒り始めた」というように見えてしまう。「もっと議論してくれ」と、やり方を変えようということでしょう。
焦りの出ているトランプ氏
兼原)トランプさんはこれまで経済がよかった。関税を上げて、保護主義に走って、かつてなかった減税をやったので、経済はよかったのです。経済がよければ、負ける選挙はないのです。ところがコロナが来て、作戦が狂ってしまった。これにブラック・ライブズ・マター(BLM)が入って来た。支持層が白人の方が多いので、苦しいのですよね。
飯田)焦りもあるのですかね。
兼原)あると思います。いまは少し詰めましたけれども、支持率が10ポイント開いていましたから。みんながいちばん心配しているのは、郵便投票の開票に難癖をつけてもつれるのではないかということです。
飯田)今回はコロナの影響もあるので、郵便投票が推奨されていて、採用する州が多いですね。
兼原)トランプさんは岩盤支持層が現場に投票に行ってくれるので、岩盤支持層以外の人たちは行かない方がいいのです。中間層は行かない方がいいわけです。ですので「郵便投票などやめた方がいい」というのが、トランプさんの本音だと思います。
飯田)そういう人たちにとっては投票しやすくなってしまうから。
兼原)「どちらでもいいや」と思っている人は、そろそろトランプ疲れが出ているので、バイデンさんに入れる可能性があります。そういう人たちが投票に行くと負けてしまうかも知れないので、岩盤支持層だけマストで投票場に行かせて、それ以外の人たちは「おとなしくしていろ」と言う感じです。これが反発を呼んで、郵便投票問題が議論されているのです。
飯田)ブッシュ・ジュニアとアル・ゴアさんが争ったときに、「票の不正があったのではないか」と裁判沙汰になりました。
兼原)あのときはゴアさんが、「国のためだ」と言って男らしく引いたのです。トランプさんは「逆なのでは」と思って、みんな心配しているのです。
郵便投票問題が裁判沙汰になると効いて来る~最高裁判事の指名
飯田)そのときに裁判沙汰になると、最高裁の……。
兼原)あの判事の指名がそこで効くのです。トランプさんにとっては、最高裁に行ったときの最後の砦という感じで使われるのではないでしょうか。
飯田)そうするとあと1ヵ月くらいで投票日ですが、その前に指名して……。
兼原)指名して多数で固めて有利にする。数が均衡していると、共和党系の保守派の人でも、穏健な人は違う判断をすることがあるのです。いままでは保守派とリベラル派の判事の数は1人の差だったのですが。
飯田)そうですよね。このまま行くと、5対4だったのが6対3になります。
兼原)そこで「最後の砦は最高裁」ということにしておきたいと考えているのではないかと思います。
飯田)いろいろな思惑が絡み合っていますね。
兼原)政治家ですから。ありとあらゆることを、自分に有利なように突っ込まなくてはいけないのです。
トランプ大統領が当選ですぐにトランプタワーに行った安倍前総理の英断
飯田)ですがこれ、日本大使館としては、大統領選の情報を予測してあげなくてはいけないですよね。
兼原)どちらが勝つかですか?
飯田)ええ。
兼原)有名な台詞があって、ある大使が言ったことですけれども、アメリカ大統領選挙を聞かれたら、日本外交官の答え方は「クリスマスプレゼント」である。
飯田)クリスマスプレゼント?
兼原)当日まで、何が欲しいかは絶対に言ってはいけないのだと。当日に開けたら「これが欲しかったのです!」と言うのだと。これが外交だと言われているので、私たちは絶対に言わないのです。
飯田)なるほど。どちらかに決め打ちするのは危ない。
兼原)人を不愉快にしないのが外交の基本ですから。
飯田)そのヘッジがあったから、安倍さんは、トランプさんが受かったときに真っ先にトランプタワーに行ったのですね。
兼原)誰が大統領になっても、日本にとって、アメリカがいちばん大事なのです。私たちにはNATOもEUもなく、同盟しかありませんから。あれは英断だったと思います。
飯田)「異例なことだ」というような報道がされていましたよね。
「安倍・トランプ黄金時代」の最初に打ち込んだ大きな杭
兼原)共和党系の有名な人たちが、「私たちはトランプには仕えない」という文書を書いてばら撒いたのです。トランプさんは泡沫候補でしたから。そのときは、トランプさんはものすごく悔しかったのだと思います。そこへ安倍総理が行かれて、本当に喜んだのですよね。「誰か助けてくれよ」というときに安倍総理が行かれたので、「晋三だけは絶対に友達だ」となってしまったのです。
飯田)なるほど。苦しいときにまず手を差し伸べたから親友だと。
兼原)不動産屋のおじさんですからね。何の準備もしていないで、突然ホワイトハウスに入ったわけです。イヴァンカさんは「お父さんどうするの」と泣いたと言われています。
飯田)嬉しくて泣いたのではなく、どうしたらいいのかわからなくて泣いた。
兼原)そこに世界第3位の経済大国の首相が突然、トランプタワーに来て「これから一緒にやりましょう」と言われた。これが「安倍・トランプ黄金時代」の最初に打ち込んだ大きな杭なのです。
飯田)それがトランプさんの心臓にも入ったと。
兼原)「晋三だけは絶対に裏切らない友達だ」となってしまったのです。
飯田)菅さんがそれを引き継いで行くのですね。では菅さんの印象は悪くないのですね?
兼原)日本全体の印象は悪くありません。
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