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新たなる提案か? 将来への試金石か? ホンダ初の電気自動車

ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2020年10月5日 17時20分

新たなる提案か? 将来への試金石か? ホンダ初の電気自動車

「報道部畑中デスクの独り言」(第211回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、ホンダが発表した電気自動車「Honda e」について—

ホンダ初の量産型電気自動車「Honda e」

ホンダ(本田技研工業)が8月27日に発表したEV=電気自動車「Honda e(ホンダ イー)」。

ホンダにはこれまでハイブリッドなどの電動車はありましたが、バッテリーのみで動く量産型の「ピュアEV」は初めてとなります。一般への販売は10月30日からですが、ひと足早く動かす機会がありましたので、横浜まで足を運びました。

前は丸目のヘッドライト、後ろも丸目のテールランプという愛らしい表情は、一目見て「Honda e」とわかるものです。室内に乗り込むと木目調パネルの先に、左右いっぱいに拡がるモニター画面が目を引きます。

運転席側は速度計など運転に必要な情報、中央及び助手席側はカーナビの他、音楽や映像などを楽しめる画面となります。アプリのサービスに加入すれば、radikoも聴くことができるということです。

左右いっぱいに拡がるワイドスクリーンと2本スポークステアリング 関係者は「意識はしていない」と言うが、初代シビックの雰囲気が漂う

室内の木目調の部分、モニター画面の前に棚のような段のあるデザインは、1972年に発売された初代シビックを彷彿とさせます。パッドが盛り上がる、いわゆる「絶壁型」のインストルメントパネル(以下インパネ)が主流のなか、高さが低く抑えられたシビックのインパネは開放感にあふれ、新鮮なデザインでした。

ただ、関係者によると「意識はしていない」とのこと。さらに、ステアリングは2本スポーク、これも初代シビックをモチーフにしたものに感じられましたが、関係者は「左右にスクリーンが拡がるインパネの統一感を邪魔しないよう、縦方向のないデザインになった」と説明。

思えば、計器表示がすべて液晶モニターとなる日産自動車のアリアも2本スポーク。今後はこのようなデザインが増えるのかも知れません。

今回は屋内でつくられた“迷路”をグルグル曲がりながらクルマを進めました(排出ガスを出さないEVだからこそ、屋内も心おきなく走れます)。迷路の道幅は約3.6m。最近の大きくなったクルマではすれ違うのも厳しい幅ですが、ホンダとしてはこの狭い路地で、小回りのよさを感じてもらうという意図があります。

小回りのよさをアピールするために狭い路地をイメージした迷路がつくられた

今回のEVはモーターを後ろに配置し、後輪を駆動するいわば「RR(リアモーター・リアドライブ)」。これによって、前部のスペースに余裕ができ、ステアリングの舵角が大きく取れたということです。

車両寸法は全長3895mm、全幅1750mm、全高1510mm。フィットとほぼ同じ大きさで、幅がやや横に膨らんだ3ナンバーサイズですが、最小回転半径はフィットの4.9~5.2mはおろか、軽自動車のNシリーズの4.5~4.7mよりも小さい4.3mです。

実際曲がってみると、むしろ小回りが利きすぎて、側壁との距離が曲がり始めからだんだん狭まり、逆にステアリングを切り戻すということもあったぐらいです。慣れは必要ですが、狭い場所、駐車場では重宝しそうです。

その道幅確認もサイドミラーではなく、ドアに設けられたカメラが映す画像で行います。左右いっぱいに拡がったモニターの両端にその画像が映し出されますが、これも慣れが必要なものの、車両の外にあるミラーに比べて首を振る角度が小さくて済むので、なるほど楽に感じます。壁に接触しそうになると警告音が鳴るなどの安全装備や、駐車の際の支援システムも設定されています。

ドアミラーはなく、ドアに設けられたカメラからの画像が映し出される

以前小欄でもお伝えしたことがありますが、日本の道路事情はさして変わっていないのに、クルマは時を経るごとに大きくなる一方で、メーカーは本当にユーザーのことを考えているのかと思うことがあります。

ユーザーもバカではなくて、日本市場は軽自動車や5ナンバーのコンパクトカー、ミニバンが大半を占めているわけですが、このRRという新しい駆動システムと操舵システムは、道路事情に対する1つの回答になるかも知れません。

電気自動車としても、これまでにない新しい発想が盛り込まれています。バッテリー容量を増やしてエンジン車と同等の航続距離を目指すクルマが多いなか、あえて容量を抑えて距離は追わず(WLTCモードという国際的な燃費算出方法で259~283km。日産リーフは高容量車で458km)、街なかで走ることをメインとした考え方です。そう考えると、前述の小回りのよさもそうしたコンセプトに合っていることになります。

ホンダは時折、こうした割り切りのいいクルマを出します。有名なのは前述の初代シビック。アメリカの環境規制である「マスキー法」を世界で初めてクリアしたCVCCエンジンを搭載したことで有名ですが、当時は少数派だったFF(フロントエンジン、フロントドライブ)を採用した2ボックス形式のスタイルは斬新でした。

シフトレバーはなく、ボタン操作だ

また、このころから採られたMM思想(マン・マキシマム、マシン・ミニマム 機械部分を最小限にし、人の空間を最大限にする)は、ホンダのクルマづくりの基礎になって行きます。

そして1994年に発売された初代オデッセイ。当時ブームとなり始めていたミニバンやSUV(スポーツ多目的車)は、商用車の頑強なプラットフォーム(骨格)を基につくるのが主流でしたが、ホンダにはそれがなかったため、ブームに乗り遅れていました。

「苦肉の策」として、乗用車のアコードやシビックを基につくったオデッセイを出したところ、逆に乗用車の感覚に近いということで大ヒット。これらのクルマに「クリエイティブ・ムーバー(生活創造車)」という名称を与えたことも後押しとなりました。

これらに共通するのは、斬新なメカニズムもさることながら、いままでにない新しい価値観、生活のあり方を提案したものであったということ。そういう視点で考えれば、なるほど「Honda e」も提案性に富んだクルマと言えます。

横浜の街並みをバックに

前述の「街なかを走る」というコンセプト。加えて次世代自動車のキーワードの1つである「カーシェアリング」を推進するきっかけになる可能性も秘めています。ホンダもそのあたりは承知しているようで、「EveryGo」というカーレンタル・シェアリングサービスで一般販売に先駆けたレンタルを始めています。

気になるのは価格設定、スタンダードが451万円、上級グレードのアドバンスが495万円。補助金の助けを借りても400~450万円というお値段は、ホンダで言えば1クラス上のアコードとほぼ同じ、フィットと比べると2倍近くになります。

RRという駆動システムとクルマの骨格となる新しいプラットフォーム、そしてワイドモニターをはじめとするハイテク装備など、新技術の塊であるこのクルマをこれらと比べるのは酷かも知れませんが、日本でどのような評価を受けるのかは気になるところです。初年度の国内年間販売計画はわずかに1000台、初期ロット分は完売したそうです。

一方、ヨーロッパでは国内の10倍の販売計画だとか。厳しい環境規制という事情によるものですが、日本のユーザーとしては、やや寂しい感じもします。……と執筆をしていたところ、何と「ホンダ、F1から撤退」のニュースが飛び込んで来ました。

東京モーターショーで「Honda e」を発表するホンダの八郷隆弘社長(2019年10月23日撮影)

オンラインによる記者会見で八郷隆弘社長は、「将来のカーボンニュートラル(地球全体で二酸化炭素の排出量と吸収量を差し引きゼロにすること)実現に集中し取り組んで行くために、今回、F1への参戦を終了するという判断をした」と、その理由を述べました。

「走る実験室」と言われるF1への参加は、ホンダの技術の象徴と言われ、撤退には早くも賛否の声が渦巻いています。

特にエンジン技術については世界的にも定評があり、かつては「ホンダは世界のどの企業よりも多い、年間約1400万台の内燃機関を生産している」と言われたこともあります(内燃機関は二輪車も含むとみられる。『なぜ大国は衰退するのか』グレン・ハバード、ティム・ケイン著/2014年発行)。

「Honda e」への評価は、ホンダの進路を占う試金石になって行くのではないかと思います。(了)

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