3度目の宇宙滞在、野口聡一宇宙飛行士インタビュー
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2020年10月12日 17時20分
PHOTO DATE: September 29, 2020 LOCATION:Bldg. 2S, Studios A,B,C SUBJECT: SpaceX Crew-1 Press Briefing. PHOTOGRAPHER: Josh Valcarcel
「報道部畑中デスクの独り言」(第213回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、ニッポン放送で10月9日に行われた宇宙飛行士・野口聡一さんへのインタビューについて—
日本人宇宙飛行士の野口聡一さんが、アメリカ・スペースX社の新型宇宙船に搭乗し、国際宇宙ステーションに向かいます。
新型宇宙船は「困難な状況から立ち直る力」を意味する「レジリエンス」と名付けられました。2020年、世界中が新型コロナウイルスの感染に見舞われているなかで、お互いに協力して社会を回復させる力にならないか……そんな思いを込めたということです。
打ち上げをひかえ、野口さんが10月9日、ニッポン放送のインタビューに応じてくれました。新型コロナウイルスの影響で、アメリカ・ヒューストンとJAXA、ニッポン放送をオンラインで結ぶ形になりました。
インタビューの一部は10月9日当日、ニッポン放送のニュースでもお伝えしましたが、ここでは全編を掲載します。
畑中)改めて心境はいかがでしょうか?
野口)このスペースXのミッションは、本当にいろいろなところで注目されて、われわれも非常にやる気満々。訓練もいろいろやって来ましたが、いよいよ打ち上げが迫って来てワクワクしているところです。
畑中)ミッションのなかで、これだけはやってみたいと思うことを1つ挙げるとしたら?
野口)やはり地球の姿をゆっくり、じっくり見るというのは得難い体験ですので、半年間、毎日毎日、地球の姿をしっかりと目に焼き付けておきたいなと思います。
畑中)今度は新しい宇宙食もたくさんあるようですね。
野口)今回、宇宙食はわりと普段自分が食べ慣れているもの、あるいはコンビニですとか居酒屋で、われわれが親しんだメニューというのを宇宙に持って行きたいなということで、宇宙食チームも随分がんばってバラエティを揃えてくれましたけれど。そういう意味では、日本の皆さんにも、「あ、こんなものが宇宙食になるんだ」という感じで楽しんでいただきたいなと思います。
畑中)例えばどんなものでしょうか?
野口)すでに公表されているものですと、唐揚げとか、焼きそばとか、あるいは福井県の高校生がつくってくれたサバ缶とか。サバもある意味、居酒屋的な感じもありますし、そういう意味ではこれまでの保存食というイメージを覆すものが、いろいろ宇宙の食卓に並ぶんじゃないでしょうか。
畑中)メニューを聞いていますと、お酒が恋しくなりませんか?
野口)(笑)何となくそういうラインナップになっているのですけれど、残念ながらアルコールはもちろん持って行けないのですが、居酒屋の……仕事終わりに集まる雰囲気を、宇宙ステーションでも醸し出せるといいなと思います。
畑中)ちなみに、ノンアルコールビールはダメなのでしょうか?
野口)基本的に泡が入っているものはダメなのですね。缶のなかに結構な気圧で入っているので、何か移送中の衝撃でパンと出たときに、周りに水が飛び散ってしまうということで、アルコールに限らず、ビールやソーダみたいなものも禁止されています。
畑中)ノンアルコールカクテルだと大丈夫な気もしますね?
野口)どうでしょうかね。ま、いずれにしてもいまのところは一切ダメということで、はい……。
畑中)わかりました。民間宇宙船(運用)第一号ということもありますし、月とか火星とか、いろいろな言葉も出て来て、宇宙開発は転換期にあるかなという気もするのですが、そのなかで野口さんの飛行の位置づけは?
野口)やはりスペースX社の有人宇宙船、今年(2020年)成功しましたけれども、宇宙を民間の活力で利用して行くのだという意味では、大きな節目に立っているのかなあと。特に来年の打ち上げ計画などを見ていると、宇宙ステーションのほとんどの時間、スペースXの宇宙船がつながっている状況なのですよね。ですから去年までとは全く違う民間主導の時代というのが、まさにISSでも明確に現れて来る、そういう節目にいるなと思います。
畑中)改めて、意気込みをお願いします。
野口)私自身3度目のミッションですけれども、最初のミッションと同じような感覚で、気持ちを新たに臨みたいと思いますし、日本の皆さんにも新しい民間主導の宇宙新時代の幕開けを感じていただけるような、そんなミッションにしたいと思いますので、応援のほどよろしくお願いします。
畑中)ご家族は何とおっしゃっていますか?
野口)家族は、3回目ということで少し落ち着いてはいますけれども、不安なところはきっとあると思うので、打ち上げまでにそういう不安を少しでも和らげたいと思います。
畑中)ありがとうございました。
約7分間のインタビューでしたが、野口さんからは民間主導への大きな期待を感じました。
9月30日のオンラインによる記者会見でも、私はスペースXのメンバーとの仕事で感じたことを尋ねましたが、野口さんは「最初に驚いたのは、民間企業ならではの“モノを進める”上でのスピード感」と語りました。
そして、「NASA、JAXAでは前例の確認、根回しをしながら一歩ずつ進むのが普段のスタイル。スペースXは何か問題があれば、会議より先にモノをつくる。早く進めることで、彼ら自身の健全性を保っているようなところがある。立ち直りの早さ、スピード感を持って改善して行くのはすごいと思う」と、感銘を受けていました。
宇宙食に関しては、私がノンアルコール飲料にこだわり過ぎ、野口さんも苦笑いしていました。でも、いつかは宇宙でも仕事が終わって、“プハーっと一杯”という時代が来るのでしょうか。
宇宙飛行士は船外活動や宇宙実験など重要な、時に命がけのミッションをこなすのが仕事。宇宙食ばかりにクローズアップするのは、いささか失礼かも知れません。とは言え、やはり「腹が減ってはいくさはできぬ」……食事はミッションを円滑にこなすための重要なアイテムでもあります。
民間主導、居酒屋のような宇宙食メニュー……今回の飛行は私たちにとって、宇宙の世界がより身近に感じられるものになるのかも知れません。そして野口さんにとっても、これまでと違った宇宙滞在の姿をみることになるのでしょう。
野口さんが宇宙滞在に臨むのは約10年ぶり。9月30日の会見では、「カムバック賞をもらいたいぐらい」とユーモアを交えながら、「超小型衛星の放出、生命科学系の実験など、この10年間で変わったところを経験してみたい」と話していました。
なお、当初、日本時間の10月31日午後3時40分に打ち上げられる予定だった新型宇宙船は、11月上旬から中旬以降に延期されることになりました。NASA及びJAXAによりますと、打ち上げロケットの「ファルコン9」について、別のミッションで第1段エンジンの装置に不具合があり、野口さん搭乗の際のロケットに支障がないか、追加の点検が必要となったためです。
野口さんはツイッターで「ロケットの安全のために必要な準備と考えて、引き続き訓練に励みたい」と投稿しています。
(了)
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