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レトロな響き……「フル装備」とは?

ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2020年10月23日 17時20分

レトロな響き……「フル装備」とは?

「報道部畑中デスクの独り言」(第216回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、自動車業界で使われる「フル装備」の基準の変化について—

現代のクルマ、オーディオは液晶ディスプレイに組み込まれているものが多い(トヨタ・現行型カローラ)

以前、日産・初代シルビアについて小欄でお伝えしたとき、仕事仲間が室内の写真を見て、こうつぶやきました。

「このドアについている棒みたいなものって何ですか?」

そう、レギュレータハンドルのことです。昔のクルマの窓は、このハンドルをグルグル回して開けるのが普通でした。高級クーペのシルビアも、さすがに当時は手動による窓の開閉だったわけです。

いまはごく一部を除いて、乗用車はほとんどが電動で窓が開く「パワーウインドウ」が標準で、グルグル回すことはなくなりました。若い人のなかには、もはやこのハンドルを見たことがない人もいるかも知れません。

仕事仲間から指摘されたレギュレータハンドル(左側 日産・初代シルビア)

ちなみに日本で初めてパワーウインドウが装着されたのは、プリンス自動車工業(現・日産自動車)の2代目グロリアです。当時はまさに“高級装備”でした。

昭和の刑事ドラマでは、車内で張り込み捜査中に窓を開けるシーンが頻繁にありました。パワーウインドウですと、刑事は姿勢を変えずにスルスルスルと窓を開けていましたが、手動だとハンドルを回すので、どうしても顔がゆらゆら動きます。つまり、刑事の顔が動かないのが高級車の証しだったというわけです。

ちなみにベテラン刑事は顔が動かず、若い刑事はゆらゆらしていたと記憶しています。序列の厳しさを感じました。

空調はエアコンでなくクーラーの時代 グローブボックスの下に吹き出し口が見える(ダットサン・ブルーバード510型)

ところで昭和と言えば、こんな言葉を思い出しました。それは……。

「フル装備」

何とも贅沢な響きです。しかし、何をもって「フル装備」と言うのでしょうか? 実はこれ、中古車業界の専門用語のようです。

定義そのものは厳密にははっきりしていませんが、エアコン、パワーステアリング、パワーウインドウ、そしてカーステレオ(カセット含む)、昭和の時代はこの4つを備えているクルマをこう呼んだそうです。なるほど確かに私が小さいころ、昭和40~50年代では、すべてが大変な贅沢装備でした。

いまではインパネ中央のエアコン吹出口など当たり前ですが、当時はそんなご立派なものはなく、冷やす機能だけのクーラーさえオプション扱い。吹出口はグローブボックス下に設けられていました。グローブボックスの下ですので、助手席は冷え過ぎ、その他の席はなかなか涼しくなりませんでした。

吹出口が中央に移った後も、エアコンは上級グレードのみ標準、他はオプションの時代が長く続きます。しかし、いまや大衆車、軽自動車クラスでも温度調整ができるオートエアコンは珍しくありません。

オーディオは5つの機械式ボタンのついたカーラジオの時代が長く続いた(写真左下)。また、多眼メーターがかっこいいと言われた(ダットサン・フェアレディSP310型)

パワーステアリングもしかり。当時は速度やエンジン回転数によって、ステアリングの重さが変わるなんて……大丈夫かと思いましたが、現在はコンパクトカーや軽自動車にも普通についています。たまたま友人が持っていたノンパワーのトヨタ・スターレットターボを運転したことがありましたが、あのステアリングの重さは忘れられません。

曲がるときは、まさにエイヤっという感じでした。ついでに言うとクラッチも重く、左足が筋肉痛になりました。もっとも、小さいころは親戚のおばさんもノンパワーのクルマをすいすい運転していました。本来はパワステの助けを借りなくても大丈夫な軽快なクルマをつくってもらいたいと、いまでも思います。

最近のコンパクトカーのパワステは軽すぎるきらいがあります。もちろん危険ではありませんが、手応えがないように感じます。

いまでも中古車のサイトでは「フル装備」の文字がみられる

続いて、冒頭にもお伝えしたパワーウインドウ、初期のクルマにはスイッチがセンターコンソールに設けられたものもありましたが、使い勝手が悪いせいか、ほどなくスイッチはアームレストに移動しました。これも、いまとなってはごく当たり前の装備です。

そしてカーステレオ、これは時代とともに激しく変遷しています。私が小さいころはオーディオと言っても、標準は5つの機械式押しボタンで選局するAMラジオのみ。これにFMチューナーが付いて、8トラックやカセットなどの磁気テープを使った再生デッキ、ここまでが「フル装備」の最低基準でしょう。

さらに、アンプやグラフィックイコライザーが付くと「カーコンポ」などと呼ばれました。その後はCDプレーヤーの時代になりますが、最近はそれさえも脇役、カーナビ、ワンセグ、DVD、ハードディスク、USBメモリ、SDカード、さらにはネット配信で音楽を聴く時代となりました。

そんな時代の変遷のなか、異色だったのはTVチューナー、昭和50年代に日産の高級車種(セドリック、レパードなど)に装備されていました。これはTVの“音声”だけが聴けるという代物です。いまや映像もワンセグで普通に見られる時代ですが、当時はこのTVチューナーのつまみがついているのが、高級車の“シンボル”でした。

かくして“高級装備”は現代では当たり前となりましたが、どっこい、一部のディーラーではいまも使われています。それはカーナビ、バックカメラ、ETC、ドライブレコーダー、衝突被害軽減ブレーキなどを指すそうです。

「100年に1度の変革期」にある自動車業界、快適装備から安全装備へ……「フル装備」の意味も、時代とともに変わりつつあります。(了)

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