バイデン氏が大統領になれば「イラン核合意」に戻る~それに期待するイラン
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2020年11月6日 17時40分
![バイデン氏が大統領になれば「イラン核合意」に戻る~それに期待するイラン](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/nipponhoso/nipponhoso_253624_0-small.jpg)
ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(11月6日放送)に放送大学名誉教授で国際政治学者の高橋和夫が出演。アメリカ大統領選の結果が及ぼす中東情勢への影響について解説した。
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26日、米ニューヨーク市内のホテルで記者会見するイランのロウハニ大統領=2019年9月27日 写真提供:産経新聞社
イランが次のアメリカ大統領に制裁の解除を求める
世界中が注目しているアメリカ大統領選。イランのロウハニ大統領はアメリカ大統領選について、「不公平な経済制裁を解除すれば、私たちの状況に変化があるかも知れない」と述べ、今後の外交的な進展の可能性に含みを持たせた。
飯田)中東情勢というとイスラエル、そしてこのイランというのも、大きなキープレイヤーの1つになると思いますが、これは大統領選の結果で変わりますか?
高橋)はい。トランプさんはイランとアメリカなどが結んでいた核合意から、一方的に離脱したのです。その合意を結んだのは前のオバマ大統領で、バイデンさんはオバマさんの副大統領でしたから、バイデンさんが大統領になれば、オバマさんの政策に戻るだろうということが予想されているし、期待されています。トランプさんはイランとの核合意から抜け、緊張が高まって戦争の瀬戸際まで行ったのです。しかも、イランはその後、ウランの濃縮量を増やして核爆弾に近づいている。何の成果もなかったではないかと。だから、「元の核合意に戻るのだ」というのがバイデンさんの主張です。
飯田)そうですね。
高橋)イランはそれに大変期待しているのです。経済制裁をかけられて、イランの通貨は本当に落ち込んでいますし、石油は売れないし、辛い日々なのです。ですから、「トランプさんが負けたらいい」とみんな思っています。ハメネイ最高指導者は「どちらが勝とうがイランは我が道を行く。関係ない」というような強がりを言っていますが、内心は「経済制裁を解除して欲しい」というのが大きな流れなのです。ただ、イランの国内にもトランプさんのような人がいて、「アメリカと対抗して行く。トランプがいたら妥協はないから、自分たちが言ったように、アメリカと交渉はできないのだ。イランは頑張るしかないから俺について来い」と主張する人たちもいるのです。アメリカが民主主義ならば、ある種イランも民主主義で、いろいろなことを言う人がいて、内心は「トランプが勝てばいい」と思っている人もいるかも知れないですね。
飯田)その方が自分の立場が守れると。
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2018年5月8日、米ホワイトハウスで、イラン核合意からの離脱を表明するトランプ大統領(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社
非公式に「合意の枠内に戻ることが最低限」と条件を提示しているバイデン氏~交渉を始めつつあるイラン
飯田)核合意に関してなのですが、あの当時も不十分なものだという批判がありました。そこに戻るとなると、「そうは言ってもイランは核開発をしてしまうのではないか」という懸念も再燃するのですか?
高橋)そうなのです。1つはアメリカが経済制裁をかけたので、合意違反だろうということで、イランも合意から少し抜けて、ウランの濃縮量を増やすなどいろいろなことをやっているのですね。バイデンさんは非公式に、「その枠内に戻ってくれ。それが最低限の条件で、そうしたらこちらとしても合意に戻ることができる」とイランに言っています。イラン側からすれば、経済制裁で大変な被害を受けたので、「その補償をしろ」などと言っています。まさか補償が取れるとは思っていませんが、イラン側とすれば、なるべく高い値段を持ちかけて交渉する。イランが高い値段を持ちかけて来たということは、交渉する意思があるということです。絨毯を買いに行っても、最初は大体3倍や4倍の値段を言って来ます。それで買ったら向こうがびっくりします。「値切る」ということが通常ですから、値切らなくてはいけないのです。イランとしては、交渉の第1球目を投げて来ているのだと思います。
飯田)日本人の感覚からすると、そんな高めの球を投げて驚きますが、球を投げて来たこと自体がメッセージなのですね。
高橋)交渉するにあたって、イラン国内で「弱腰だろう」と叩かれるのはわかっていますから。ロウハニさんの言い方は、「制裁解除を求める」と実際は言っているのですが、「政策の失敗を認めてアメリカが我々に降伏して来る。アメリカが頭を下げて来るから、自分たちが交渉してやるのだ」と国内には言っているのです。日本もそうですが、イランも本音と建前の距離がかなりあって、建前の方だけ見ていたのでは、日本の某新聞の社説だけ読んで日本を語るようなものです。
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ジャマル・カショギ記者死亡事件の真相解明を求める米紙ワシントン・ポストの社告(左側)=2018年10月25日、ワシントン(共同) 写真提供:共同通信社
大統領がバイデン氏になると困るのはサウジアラビア
飯田)なるほど。そのイランに対して、周りの国々は、ある意味で緊張関係を持って見て来た。特に、サウジアラビアは断交してしまうくらいだったわけではないですか。これが核合意に戻るということで、テーブルが変化すると、そこも変わりますか?
高橋)サウジがいちばん嫌がっています。サウジはトランプのときはいい子で、イランが悪い子なのですが、今度イランがいい子になったら、サウジが悪い子になります。サウジはジャーナリストのカショギさんの殺害の件を見ても、明らかに「悪い子」ではないですか。トランプさんがそれを見ないことにしてかばってくれていたのだけれど、バイデンさんになればそうは行きません。イエメンでサウジが戦争をしていて、子どもたちが栄養失調で育たないなど、大変な状況なのです。サウジはアメリカの爆弾を使っているので、「サウジに武器を売るのをやめよう」という声が、バイデンさんの周りではかなり高いのです。サウジとしては、トランプさんに勝って欲しいでしょう。
飯田)なるほど。そのジャマル・カショギさんの件にしろ、イエメンの件にしろ、中心で関わっているのは国王というよりは、実権を握っている皇太子だと言われています。この人はトランプ政権の中枢とも仲がいいと言われていますよね。
高橋)トランプさんの娘婿のクシュナーさんと同じ世代で、仲がいいと言われています。外交的経験もないのに無茶をするという意味では、よく似ています。
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