予想されるバイデン政権の顔ぶれ~日本との関係はどうなるのか
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2020年11月9日 17時40分
2月28日、サウスカロライナ州サムターの支持者集会で実績をアピールするバイデン氏。支持が伸び悩んでいる
ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(11月9日放送)に慶應義塾大学教授で国際政治学者の中山俊宏が出演。バイデン政権の今後、また予想される日本との関係について解説した。
バイデン氏~政権移行準備始める
アメリカ大統領選で勝利宣言を行ったバイデン氏が、閣僚人事の選定など、政権移行の準備を始めている。ただ、トランプ大統領の法廷闘争によって、複数の州で再集計が行われることになれば、政権移行のための重要な手続きが数週間遅れる可能性も指摘されている。
上院は共和党が過半数を獲得か~「共和党議会とどう協力できるか」ということがバイデン政権の1つのポイント
飯田)連邦議会選挙の方も、下院は民主党が獲ったけれど少し数を減らし、上院は共和党がマジョリティを獲るかも知れないという状況であるということです。そのようななかで閣僚を決めようとすると、最後に、議会上院の承認のところで引っかかる可能性はありますか?
中山)上院をおそらく共和党が獲ると思うのですが、この意味は大きいです。下院はもともと民主党が抑えているので、そこでも数を減らしてしまったのですが、これで共和党が上院を獲ると、大統領、ホワイトハウスのやろうとすることを、そこでブロックできてしまいます。アメリカは物事が決まりにくくできています。どこか1つでも抑えれば、そこで止められてしまう。世界で初の本格的な近代民主主義国ですから、民主主義に対する不安もあって、物事が決まらないようにできているのです。上院を抑えると、バイデン政権がやろうとしていることを、次から次に止めることができるのです。重要ポストの人事は、全部上院の関係委員会と本会議で承認しなければいけないので、そこで止めてしまうことができるのです。ですから、過剰にリベラルであったり、共和党として「この人は気に食わない」という人は、そこで止められてしまうのです。相当大きな意味を持って来ると思います。バイデン政権を見て行くときの、1つ大きなポイントは、「共和党議会とどう協力できるか」ということなのだろうと思います。
飯田)バイデンさんは、「日本で言うところの国対族だ」とも言われ、政治を長く続けて来た人です。
中山)彼は、副大統領の前の70年代から上院議員としてやっていますから、キャリアがあります。いまの共和党の院内総務のミッチ・マコーネルというケンタッキー選出の上院議員がいるのですが、そのマコーネル氏とは親しい間柄なので、それが1つの共和党の上院と協力するきっかけになるのではないでしょうか。マコーネル氏という人は、「ドクター・ノー」と言われているくらいで、オバマ政権がやろうとすることを、次々と否定して来ました。「オバマ政権を拒否することが自分のミッションだ」という人です。バイデン大統領であれば、その辺は懐柔し、合意を取り付けられるかも知れません。バイデン氏にとって、そこが唯一の明るい部分です。
かつて中国に甘かったスーザン・ライス氏の存在
飯田)閣僚選びも、既に名前がいろいろと出ていますが、国務長官にスーザン・ライスさんが来るのではないかと言われています。
中山)そうですね。日本として関心があるのは、当然、国務長官のポストです。スーザン・ライスさんは、オバマ政権のときに国連大使をやっていて、その次に安全保障担当の大統領補佐官をやっていました。日本では、「中国に甘い」というイメージが浸透していて、確かにそう言われる所以も、彼女の発言や行動にはあります。ですが、2010年代半ばくらいに、アメリカにおいて、中国の位置付けは大きく変わりました。それまでは、「対中関与を続ければ、中国はいずれアメリカのような民主主義国になる」という前提があったわけですが、2010年代半ばに、「それは幻想だ」ということで、中国を競争相手とみなす見方が、民主党・共和党問わず台頭したのです。外交安全保障などの専門家を見ていますと、言い方は悪いですが、「上がってしまった世代」、これまでの対中関与政策をつくり上げて来た世代というのは、依然として「関与政策が正しかった」と言っているのですが、まだこれから先がある人は、一様に中国に対して厳しくなっています。ですから、かつて中国に甘かった人も、いまではだいぶ認識を変えているかも知れません。もし仮にスーザン・ライスさんが国務長官になったとしても、彼女自身が変わっている可能性もあります。アップデートされた彼女の国際政治観、中国をどのように見ているのかということを、きちんと確認した上で、日本は彼女と接するべきだと思います。いまは、あまりにも「注意深くなり過ぎている」という感じがします。
飯田)オバマ政権下の「ジャパン・パッシング」を覚えている人は多いので、そこのところで警戒してしまうのかも知れません。
中山)オバマ政権下で日米関係を担当していた日本側の人たちが、実感としてスーザン・ライスさんとのやりとりをした感覚を覚えているので、その辺がメディアなどにも伝わって、「スーザン・ライス不信」のようなものがあるのだと思います。しかし、彼女の最近のインタビューを読むと、相当中国に対してタフにはなっています。彼女が重要ポストに就いたときに、そのままの彼女の考え方が政策に反映されるかどうかはわかりませんが、「変わった」という部分は、きちんと見なければいけません。
懸念される「対中タカ派」と「環境タカ派」の混合
飯田)バイデン政権全体として、大統領選挙のときに出した政策が下敷きにあると思うのですが、環境については積極的です。一部の識者からは、その辺で「中国とディールしてしまって、甘くなってしまうのではないか」という指摘もあります。
中山)民主党のなかには、2つのアルファベットのCのタカ派がいると言われています。1つは「クライメート・ホーク」と言われる「環境タカ派」です。もう1つが、「チャイナ・ホーク」と言われる「対中タカ派」。この異なるグループが、政権の主導権をめぐって戦うだろうと言われています。環境問題の場合には、中国とどうにか協力を取り付けながらということをやらないと、前には進まないので、当然、中国との対話を模索します。当初は、それぞれが別々に対中政策を遂行すると思うのですが、いつの間にか混合してしまい、対中タカ派が環境タカ派の対話のなかに巻き込まれてしまって、「よくわからなくなってしまう」ということが、懸念されるところかも知れません。
日米同盟のマネージメントに関しては問題ない
飯田)日本としては、外務もそうですが、国防長官事情も気になります。ミシェル・フロノイさんの名前も聞かれますが、どうなのでしょうか?
中山)彼女は日本でもよく知られていて、政策通ですし、同盟派です。ミシェル・フロノイさんの場合には、まったく不安はありません。安全保障政策はアジア太平洋、もしくはインド太平洋ということで言うと、大きなコンセンサスがアメリカにはあるので、これは民主党、共和党であまり変わりません。民主党になって少し不安なことは、特にこれは議会の動向ですが、「国防費削減」という動きが本格化しかねないということです。しかし、そこは共和党多数派議会であればなりません。ですので、同盟のマネージメントということに関しては、大きな心配はいらないと思います。もし、大統領が決断を下さなければいけないような大きな局面があるとすると、ルーティーンの部分ではマネージしきれない政治的な側面が入って来ますが、日々の同盟のルーティーンなマネージメントということでは、まったく問題がないと思います。
「民主党がホワイトハウスで、上院が共和党」は経済にとって悪くない
飯田)コロナからの脱却で「経済を立て直す」と言っている一方で、「増税はする」とも言っています。財務長官はどのようにやって行くのでしょうか?
中山)民主党のなかでも、左派が影響力を増していますが、左派はこの経済関係のポストを欲しがっています。財界は戦々恐々としているのですが、そこの議会、上院を共和党が抑えると、過剰に左に振れることを防げます。いままでの過去の経緯を見ると、「民主党がホワイトハウスで、上院が共和党」というのは、経済にとって悪くないというデータが出ています。「そこは一安心をしている」ということはよく聞きます。
飯田)なるほど。一時期、エリザベス・ウォーレンさんを財務長官に持って来るという話がありました。
中山)それから、自称社会主義者のサンダース氏を労働長官にとか、左派がいろいろなポストを狙っているということは言われるのですが、それに対するブレーキとして、共和党の上院がいるという関係になると、うまくバランスが取れるのではないでしょうか。もしくは、ホワイトハウスと議会がそこで衝突してしまって、「何も決まらなくなる」ということになる可能性もあります。
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