「第33回東京国際映画祭」が体現した、映画祭の新しいカタチ
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2020年11月15日 13時0分
【Tokyo cinema cloud X by 八雲ふみね 第935回】
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信する「Tokyo cinema cloud X(トーキョー シネマ クラウド エックス)」。
10月31日から11月9日まで開催された「第33回東京国際映画祭」。私は毎年、司会者として映画祭のサポートをさせていただいています。
新型コロナウイルスの影響で、世界中の人々が困難な日々を過ごしている2020年。東京国際映画祭ではそんな時期に映画祭を開催すべきか否かの協議を重ねた結果、感染対策に十分な措置を講じながら、安心安全を心がけての実施が実現。
各国の映画祭が中止や延期、開催規模の縮小を迫られているなかで、世界的にみても作品発表の貴重な場となりました。
そこで今回は、八雲ふみねならではの視点で「第33回東京国際映画祭」を振り返ります。
リアルとオンラインを融合して発信する“映画の力”
「Bloom! 信じよう、映画の力」をキャッチコピーに、映画館でのフィジカルな上映を基本として実施された「第33回東京国際映画祭」。今年は例年のコンペ形式ではなく、多彩な作品が詰まったショーケース形式へと変更されました。
「インターナショナルコンペティション」、アジアの新鋭監督を集めた「アジアの未来」、日本映画の気鋭作品を集めた「日本映画スプラッシュ」の3部門は、「TOKYOプレミア2020」という1部門に統合。
さまざまな賞を競うのではなく、全作品を対象に観客が投票する「観客賞」を設けることとなりました。
「TOKYOプレミア2020」に選出されたのは、オープニング上映作品『アンダードッグ』をはじめ、竹中直人、山田孝之、斎藤工が監督を務めた『ゾッキ』、マレーシア出身のリム・カーワイ監督が大阪で撮った群像劇『カム・アンド・ゴー』、「カンヌ批評家週間」に選出されたアリーム・カーン監督作『アフター・ラヴ』など、32作品。
話題作から気鋭監督の作品まで、個性豊かなラインナップとなりました。
オープニングセレモニーでは、フェスティバルアンバサダーの役所広司さんがコロナ禍での開催に「観客の皆さんと一緒に頑張って行きたい」とスピーチ。
そして海外からは、クリストファー・ノーラン監督、ロバート・デ・ニーロ、カンヌ国際映画祭総代表ティエリー・フレモー氏から応援コメントが寄せられました。
充実したオンラインイベント
海外ゲストの来日が困難なことやソーシャルディスタンスや消毒の徹底など、これまでの映画祭のあり方が、その根底から変更や工夫を余儀なくされることも多々あった、2020年の東京国際映画祭。
そんななか、映画館でのリアル上映を基軸にしながらも、シンポジウムやトークイベントではオンラインを積極的に活用していたのが印象的でした。
上映終了後に監督やキャストをお招きして行われるQ&Aは、映画祭のお楽しみのひとつ。もちろん、今年もリアルでのQ&Aも行われましたが、来日が叶わない外国映画の監督やキャストの方々とは、オンラインでつないで鑑賞者からの質問に答えるという「TIFFトークサロン」を実施。
作品鑑賞は映画館の大きなスクリーンで、Q&Aは日時を改めてじっくりとパソコンやスマートフォンを通じて楽しめる……ということですね。
写真は、ワールド・フォーカス部門で上映された『海辺の彼女たち』のトークサロンの模様。
『海辺の彼女たち』は、藤元明緒監督の⻑編2本目となる日本・ベトナム国際共同製作映画。外国人技能実習生として来日したベトナム人女性の苦境を、リアルかつ抒情的に描いた意欲作です。
東京のTIFFスタジオには藤元明緒監督、そしてベトナムから女優のフィン・トゥエ・アンさんとクィン・ニューさんが登場し、矢田部吉彦シニア・プログラマーの進行で撮影秘話を披露して下さいました。
ZoomのQ&A機能を通じてゲストに質問を送ることができるのは、上映チケットの購入者とプレスに限りますが、閲覧だけなら映画祭公式YouTubeでも視聴が可能。こうしたオンラインイベントには、世界中から84万7873人が参加したとのこと。
私も時間の許す限り、さまざまなトークサロンを視聴しましたが、作品にまつわる裏話はとても興味深いものばかり。そして、登場するゲストの方々に自然と親近感も湧いて来て……。
多くの映画人と触れ合う場所として、新たな可能性が感じられる企画でした。
『魔女見習いをさがして』森川葵&松井玲奈&百田夏菜子が、観客に魔法を放つ!
国内外の話題作が一堂に会することで人気の「特別招待作品部門」は、今年も注目作が目白押し。
私が司会を務めた『魔女見習いをさがして』の上映後舞台挨拶には、森川葵さん、松井玲奈さん、百田夏菜子さん、佐藤順一監督、鎌谷悠監督が登壇。恒例の舞台挨拶も行われました。
『魔女見習いをさがして』は、魔女見習いとなった少女たちの修業の日々を描いたアニメ「おジャ魔女どれみ」シリーズ20周年記念作品となる劇場版。
今作では人生に迷う3人の女性を新たなヒロインに、大人のための“新たな魔法の物語”が繰り広げられます。
「皆様の前に立たせていただいて挨拶させていただけるのは、嬉しくてありがたいこと」(森川さん)
「ステージ上から皆さんの反応を見ていると、ハンカチで涙をぬぐっているような方が見えて。私たち“おジャ魔女世代”の気持ちが、皆さんにも届いたのかなと思うと嬉しいです」(松井さん)
「(最近は)お客さんに直接お会いできる機会がなかなかないので、舞台裏で皆さんの拍手を聞いて感動しました」(百田さん)
と、キャストのお三方もファンの皆さんとの時間を満喫している様子でした。
最近では無観客で行われることも多くなった舞台挨拶。私にとっても、こうしてお客様と時間を共有することの有意義さを改めて感じるひと時となりました。
『魔女見習いをさがして』は2020年11月13日(金)から全国ロードショーです。
観客賞に輝いたのは、『私をくいとめて』
「TOKYOプレミア2020」部門の上映作品を対象とした観客賞/東京都知事賞に輝いたのは、大九明子監督の最新作『私をくいとめて』。観客賞の受賞は、第30回開催のコンペ部門作品『勝手にふるえてろ』以来、2度目となります。
「3年前に受賞したときとは、世界はまったく異なる状況で、この映画祭もまったく違う形になりました。(コロナ禍において)まだまだ出歩くことに不安を抱きながらも、チケットを取って劇場に足を運んでいただき、映画をご覧になって点数を入れていただいた。私共に賞をくださったことに、いつも以上に感慨ひとしおです」と、感謝を述べる大九監督。
そして、「映画というのは観客の皆さんに見ていただき完成するものだと思います。この賞を大切に受け止めたいです」と喜びを語る、主演ののんさん。
多くの映画祭がオンライン開催となるなかで、映画館で、多くの人が同じ時間に同じスクリーンで映画を楽しむことを実現させた「第33回東京国際映画祭」。
リアルとオンラインを融合させた本映画祭は、“コロナ後”の社会において、新たなモデルケースのひとつとなるのは、間違いないことでしょう。
映画祭は、映画関係者と映画ファンが一緒になって映画を観る喜びを共有する場所であり、映画に関わる人々が交流し、刺激し合う場所。そして、新しい才能を見出し、世界へ羽ばたくきっかけとなる場所でもあります。
その灯火を絶やさず、歩みを止めない。“映画を届ける”ことに携わっている私にとっても、今年の映画祭は特別な体験となりました。
■海辺の彼女たち
2021年公開予定
脚本・監督・編集:藤元明緒
出演:ホアン・フォン(Phuong Hoang)、フィン・トゥエ・アン(Anh Huynh Tuyet)、クィン・ニュー(Nhu Quynh Nguyen Linh)他
撮影監督:岸建太朗
音響:弥栄裕樹/録音:keefar/フォーカス:小菅雄貴/助監督・制作:島田雄史/演出補:香月綾/DIT:田中健太/カラリスト:星子駿光/アソシエイトプロデューサー:キタガワユウキ/共同プロデューサー:ジョシュ・レビィ、ヌエン・ル・ハン/プロデューサー:渡邉一孝
協賛:坂和総合法律事務所、株式会社ビヨンドスタンダード、長崎大学多文化社会学部
協力:外ヶ浜町、平舘観光協会、日越ともいき支援会、日本ミャンマーメディア文化協会
後援:国際機関日本アセアンセンター
共同制作会社:ever rolling films
企画・製作・配給:株式会社 E.x.N
英題:Along the Sea
(C) 2020 E.x.N K.K./ever rolling films
公式サイト https://www.umikano.com/
■魔女見習いをさがして
2020年11月13日(金)から全国ロードショー
声の出演:森川葵、松井玲奈、百田夏菜子(ももいろクローバーZ)、千葉千恵巳、秋谷智子、松岡由貴、宍戸留美、宮原永海、石田彰 浜野謙太、三浦翔平
主題歌:「おジャ魔女カーニバル!!(魔女見習いをさがして Version)」
作詞:大森祥子、作曲:池毅、歌唱:MAHO堂
原作:東堂いづみ/監督:佐藤順一、鎌谷悠/脚本:栗山緑/音楽:奥慶一
キャラクターデザイン・総作画監督:馬越嘉彦
作画監督:中村章子、佐藤雅将、馬場充子、石野聡、西位輝実、浦上貴之
絵コンテ:佐藤順一、鎌谷悠、五十嵐卓哉、谷東
製作担当:村上昌裕/編集:西山茂/録音:川崎公敬/音響効果:石野貴久/音楽構成:水野さやか
美術監督:田尻健一/MAHO堂デザイン:行信三、ゆきゆきえ
色彩設計:辻田邦夫/撮影監督:白鳥友和
アニメーション制作:東映アニメーション
英題:Looking for Magical Doremi
(C)東映・東映アニメーション
公式サイト https://www.lookingfor-magical-doremi.com/
■私をくいとめて
2020年12月18日(金)から全国ロードショー
監督・脚本:大九明子
原作:綿矢りさ「私をくいとめて」(朝日文庫/朝日新聞出版刊)
音楽:高野正樹
劇中歌:大瀧詠一「君は天然色」(THE NIAGARA ENTERPRISES.)
出演:のん、林遣都、臼田あさ美、若林拓也、前野朋哉、山田真歩、片桐はいり、橋本愛
製作:鳥羽乾二郎、多湖慎一、與田尚志、永田勝美、川村岬、竹内力
エグゼクティブプロデューサー:福家康孝/企画・プロデュース:谷戸豊
プロデューサー:永井拓郎、中島裕作、矢野義隆
アソシエイトプロデューサー:福嶋更一郎、菅谷英智
ラインプロデューサー:氏家英樹
撮影:中村夏葉/照明:常谷良男/美術・装飾:作原文子/録音:小宮 元
編集:米田博之/音響効果:岡部泰輝/CG・VFX:高橋良明
衣裳:宮本茉莉/ヘアメイク:清水美穂/助監督:成瀬朋一
制作担当:原田博志/宣伝プロデューサー:滝口彩香
製作幹事・配給:日活 制作プロダクション:RIKIプロジェクト
企画協力:猿と蛇
英題:Hold Me Back
(C)2020『私をくいとめて』製作委員会
公式サイト https://kuitomete.jp/
連載情報
Tokyo cinema cloud X
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。
著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/
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