大学生就職内定率が70%割る~「雇用の在り方」への疑問
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2020年11月18日 17時35分
ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(11月18日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。2021年卒業予定の大学生の就職内定率が69.8%となり、前年比で7ポイント下がったというニュースについて解説した。
大学生の就職内定率が前年比で7ポイント低下
2021年春に卒業予定の大学生の、10月1日時点での就職内定率が69.8%で、前年の同時期と比べて7ポイント低くなったことがわかった。10月時点の内定率が70%を下回るのは2015年以来となる。
飯田)7ポイントの低下は、リーマンショックの後と同じくらいで、過去2番目の下げ幅だということです。
佐々木)就職内定率が雇用の指標になっているのは間違いないですし、大学生にとって深刻な状況なことも確かです。頑張ればいい会社に入れるというのは、できる人はやればいいと思います。それを否定するわけではありません。しかし一方では、「新卒の就職で人生が決まってしまう」という雇用のあり方自体、いいかげん変わって欲しいとも思います。
頑張れない人には平等を与えられないのか~新卒の就職で人生が決まってしまう
佐々木)アメリカでも民主党のようなリベラルが、黒人でも頑張ればアメリカンドリームのように偉くなれるとか、カマラ・ハリスさんのように、インド系でも副大統領になれるなどと言います。黒人であろうがヒスパニックであろうが白人であろうが、頑張れば偉くなれるのは、素晴らしいリベラリズムだと言います。そこでは黒人、ヒスパニック、白人は平等ですが、一方で「頑張れない人には平等を与えられないのか」という問題が常に残ります。結果的に頑張れない人たちが置いて行かれたから、貧困白人層の問題が生まれ、トランプ大統領の誕生につながり、これを引きずっているではないですか。それを無視していると、リベラルの理想は実現しないのではないかと思います。普通の平凡な人が、普通に地味な仕事をして、それでもそこそこ暮らせる社会がいちばんいいのです。昔の日本はそうでした。クレヨンしんちゃんの野原ひろしの設定は、普通の平凡なサラリーマンです。でも、いま観るとエリートで上流階級ですよね。
飯田)春日部に一戸建ての家を持ちと、確かにそうですね。
佐々木)サザエさんのお宅は桜新町に一戸建てを持っていますから。いまや億単位のお金を持っていないと住めません。
飯田)世田谷区の一戸建てで相続税はいくらになるのかとか思います。
ハイパー・メリトクラシー~学歴以外の部分も求められる
佐々木)昭和の時代は、学歴に応じて、それなりの就職先が用意されていました。いまはそうはいきません。「ハイパー・メリトクラシー」という、過剰な実力主義と言われていますが、学歴だけではダメで、学生時代にボランティア活動をしたとか、サークルの代表をしていたとか、スポーツをやっていたとか、勉強以外のいろいろな評価基準を持ち出されてしまって、それも頑張らないといい会社に入れません。貧困の家に生まれて、ミカン箱で勉強していい大学に入った人には、そういうものがありません。文化的な豊かさが実家にないと、学歴以外の部分は手に入らないので不平等です。これがハイパー・メリトクラシーの問題点だと言われています。そういうものが求められて、いま就職活動が大変です。昔は東京大学に入れば、どんな会社にも入れる力を持っていましたが、いまは東大を卒業しても、コミュニケーション能力が低ければ、まともに就職できないと言われています。学歴偏重社会から脱したと言えるかも知れませんが、身分や実家の豊かさのようなものが逆にまた浮上してしまっています。アメリカでもアイビー・リーグに入ろうとすると学費の高さに加え、高校時代の文化的な豊かさを求められてしまう問題があります。
リベラルの欺瞞~頑張らない人が悪い
飯田)欧米でもこれが議論になっていて、合法的、社会的に許された最後の差別なのではないかと。「これは頑張ったからこうなったのであって、頑張らない人が悪いのだ」というようなことを言われます。
佐々木)それがリベラルの欺瞞だと思います。生活保護を受けている人を、「パチンコばかりやっていてけしからん」と言う人がいますが、パチンコばかりしかできないような精神状態に追いやられているから貧困なのです。それを否定したら人生救われません。
飯田)アメリカの民主党で言われますが、多様なエリートの政党になってしまっています。多様性と言っても、多様という言葉がそもそも持っている意味が変わって来ています。
佐々木)多様性に頑張った白人やLGBT、黒人は含まれていますが、頑張っていない白人、黒人、LGBTは含まれていません。
飯田)これが分断を産んでしまいますね。
佐々木)日本で大学生の就職に文化的なものまで求めると、また分断がますます広がってしまう。確かに学歴社会が行き過ぎたとは思いますが、逆に振れ過ぎだとも思います。もう少し、平凡な人でも生きられる社会をつくって欲しいと思います。
飯田)日本の場合はそれに加えて、大学を出たところでの就職が一発勝負で、その後の再チャレンジが難しい。「就職氷河期をつくらないように努力する」と加藤官房長官も言っていて、卒業後3年以内は新卒扱いにするということですが。
職人的な人生
佐々木)職人的な人生がいいのではないかと思います。必ずしも現場の職人ではなく、私の知り合いにデザイナーがいますが、専門学校を出て、腕一本でいろいろな会社を渡り歩いて優秀なデザイナーになりました。そういう生き方の方が、いまは健全なのではないでしょうか。若い人には、職人的な技を磨くことを考えて欲しいと思います。
飯田)それを受け入れる社会をつくって行かなければなりませんね。
佐々木)転職がよくて、いくらでも中途採用で新しい会社が見つけられる社会にして欲しいです。
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