バイデン政権に移行した場合、中東問題はどう変わるのか
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2020年11月22日 17時52分
19日、ゴラン高原で発言するポンペオ米国務長官(右)とイスラエルのアシュケナジ外相(ロイター=共同)
ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(11月20日放送)に内閣官房参与で外交評論家、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。米ポンペオ国務長官がユダヤ人入植地とゴラン高原を訪問したニュースについて解説した。
米ポンペオ国務長官がユダヤ人入植地とゴラン高原を訪問
イスラエルを訪問中のアメリカのポンペオ国務長官は11月19日、イスラエルの占領地ヨルダン川西岸にあるユダヤ人入植地プサゴットのワイナリーと、イスラエルが占領するゴラン高原を訪れた。現職のアメリカ国務長官が、国際社会が違法とみなす入植地を訪れるのはこれが初めてのこと。今回の訪問に対してパレスチナ側は怒りを示している。
飯田)ゴラン高原でポンペオ国務長官は、「ここはイスラエルの一部だ」と述べたということです。
任期残り2ヵ月というところでのこの行動はいかがなものか
宮家)小高い丘なのです。シリアから見れば、シリア側の方はなだらかな下り坂になっていて、ゴラン高原の上から見ると、ダマスカスから攻めて来る軍隊が丸見えなのです。戦略的に重要な地域です。そして、イスラエル側から見ると、勾配はもっと急なのですが、あそこを獲るか獲られるかということは、1967年当時、イスラエルとシリアは戦争をしていたわけですから、非常に大事な場所であるということ。それから第2に、以前イスラエルは少なくとも、シリアと平和条約を結べたら、ゴランをシリアに返す気でいたのです。あそこにはガリラヤ湖という湖があって、そこの水利権の問題をほんの何メートルという話まで詰めていたのですから、これがイスラエル領であるわけがないのです。しかし、結局イスラエルはゴラン高原を併合してしまった。という訳ですから、アメリカの国務長官があと2ヵ月しか任期がないのに、このようなことをするのは、いかがなものかと思いますね。こんなことをやっている時間があるなら、例えばアゼルバイジャンとアルメニアの間のナゴルノ・カラバフをめぐる問題を何とかしろ、と言いたい。今回はロシアが仲介しましたが、要するにアゼルバイジャンがトルコと組んで、完全にアルメニアをやっつけてしまったわけです。これで本当にいいのか。もう少し、アメリカの大統領、国務省に頑張ってもらわないと困ると言っている人もいるのではないかと思います。
飯田)あそこに関しては、今回で3回目の停戦だということです。2回目の停戦の仲介はアメリカがやったけれども、たった1時間で崩壊してしまった。
宮家)それはそうですよ。あの程度で戦闘をやめるはずがないのですよ。何十年もやっているわけですから。
飯田)冷戦後ずっとやって来た。
宮家)そもそもソ連内の共和国同士の話だったのです。
飯田)ある意味、分割統治国だった。
宮家)ソ連の偉い人が「えいやあ」と決めてしまうわけです。1つの国の内部だからできたことですけれども、それがソ連崩壊後独立してしまったわけですからね。アルメニアというのはトルコにもいじめられて、虐殺されて、そして今度はアゼルバイジャンでもこういうことになっている。悲劇の民族ではあるかも知れません。やはり世のなかには正義というものがあるはずですが、どれが正義かというのは難しいですよ。しかし、ロシア主導ではなく、もう少しアメリカが世界の安定に貢献するべきではないでしょうか。調子のいいときだけ口を出したり、国務長官がゴラン高原に行くのもいいですけれども、今回は「アメリカファーストばかりやっていたらダメだ」という典型例ではないですかね。
アルメニアとアゼルバイジャンの争いはこれで終わらない
飯田)ナゴルノ・カラバフというところは、アゼルバイジャンの土地ではあるけれども、アルメニア人が住んでいると。そして、アルメニアが事実上の統治をしていた。
宮家)しかし、それが今回かなりやられましたよね。
飯田)紛争が起こり、アゼルバイジャン側がトルコの支援もあって取り返した。
宮家)取り返しました。そして、相当部分を事実上、コントロールしているわけです。しかし、これは相当尾を引くと思います。こんな形では一件落着したとは言えません。完全和平だと言いますが、私は5年後、10年後、それどころか数年後にまた紛争に動きが出て来るのではないかと非常に心配しています。
飯田)完全和平だと言いますが、ロシアが兵も進めて停戦監視的なことをやることによって、ようやく保たれているということです。保たれているのかどうかもわかりませんが。
宮家)ロシアはうまいところで介入して、影響力を拡大してきたわけですが、いかがなものかという気がしますが。
既成事実をつくろうとしているトランプ政権
飯田)今回、このナゴルノ・カラバフに関しても、アゼルバイジャン側にイスラエルも無人機などを出したという噂があります。まだ噂レベルですけれども。
宮家)噂というのは、正しい場合が多いのですけれどもね。
飯田)それもあるので、アメリカはアルメニアの顔も立てたいし、イスラエルの顔も立てたいから手出しがしづらかったという話もありますが。
宮家)そうでしょうけれども、要するに、トランプさんはあまり考えていないのではないかと思います。いまのポンペオさんの動きを見ていると、中国叩きをやって、イスラエル支援をやって、イランは徹底的にやる。任期は残り2ヵ月しかないのに、無理やり既成事実をつくろうとしているのです。もう少し長期的に、戦略的に考えて、世界全体の安定を考えるべきです。目先の思いつき、または単なる国内の政治的目的のために、外交をこのように弄ぶというのは、あまりいいことだとは思いません。
バイデン政権になったらどう変わるのか
飯田)イスラエルに絡んでアメリカの外交というと、UAEとの間の国交正常化の仲介をした。今回もネタニヤフさんと会ったときに、バーレーンの外相とも会っていました。
宮家)これも既成事実化ですよね。「バーレーンの偉い人がイスラエルに行って、アメリカの国務長官と会って、何が悪いのか」と。もう普通なんだと言いたいのです。私は決してイスラエルが悪いと言うつもりはないのですが、パレスチナがかわいそうですよね。パレスチナのヨルダン川西岸、ガザ地区はどうなっているのだと。アメリカの国務長官は入植地のところにまで行っているのでしょう。でも、入植地は違法でしょう?
飯田)国際法上は、占領地に入植させたりしてはいけないということになっています。
宮家)1967年の戦争後に国連決議が2つできているわけで、これを無視するわけにはいかないのです。何らかの形でイスラエルが撤退をして、2つの国をつくって、つまり、イスラエルに加えてパレスチナという国をつくってなんぼなのですが、その部分が抜けているのです。他方、イスラエル側は、相手が分裂していてパレスチナ側の誰と交渉していいかわからない。ハマスとPLOですから。しかし、そうは言っても、実効支配しているのはあなた、イスラエルなのですから、もう少しイスラエル側も真面目にやらなくてはいけないのでは、と思うときもあるのです。残念ながら、その努力、つまり、中東和平プロセスが今決定的に抜けているのです。これがいちばん気になります。
飯田)新しい政権にアメリカが変わるとどうなるのか。
宮家)それはいちばんの関心事なのですが、ここまで既成事実が進んでしまったところで、バイデン政権がどこまで元に戻せるのか。
飯田)アラブ側はもう動き出してしまっている。
宮家)アラブ側は動き出しているし、パレスチナ側に当事者能力がないとなったときには、結局うまく行かないのではないかと気になっています。
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