「余命2年のがん」告知された緩和ケア医師、その選択の道
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2020年11月25日 17時20分
それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
シェイクスピアは、「命は神様からの借り物だ」と書きました。だから、寿命が来たら返すのは当たり前というわけです。
またマザー・テレサは、こんな言葉を残しています。「死とは、体をお返しするに過ぎないことです」
さらに浜口庫之助は、『粋な別れ』のなかでこんな詞を残しています。
「いのちに終わりがある 秋には枯葉が小枝と別れ 夕べには太陽が空と別れる 泣かないで 泣かないで 粋な別れをしようぜ」
シェイクスピアもマザー・テレサも浜庫さんも、皆さんごもっとも。「その通りですね」と得心がいきます。ところが、死ぬのはやっぱりイヤで、怖くてたまりません。
もしも「余命」を告知されたら、自分が一体どうなってしまうのか? まったくもって見当がつきません。大体、自分に責任がもてません。
神戸市灘区の在宅ホスピス『関本クリニック』院長・関本剛さんは、緩和ケア医師として、およそ1000人のがんの患者さんと家族に寄り添い、心と体の苦痛を和らげ、その最期を看取って来ました。
現在44歳の関本さんの体調に変化が表れたのは、去年(2019年)10月……。春先から咳が出ていたので、胸部のCTを撮影してもらったところ、肺に腫瘍が見つかってしまったのです。
精密検査の結果、ステージ4の肺がん。さらに最悪なことに「脳への転移あり」という診断。まだ43歳の若さです。奥さんと9歳の長女、5歳の長男を、これから長い間、養って行かなければなりません。
想定できる余命は、2年。診断を受けた病院の帰り、泣きはらした目でハンドルを握った奥さんが言ったそうです。
「きょうは、やりたいことをしたら? 何がしたい?」
その一言に救われた関本さんは、こう答えたそうです。
「映画を観たいな」
自分に深刻な病気が見つかった場合、どんな道を選択するだろうと、ふと考えてしまいます。
入院して治療を受ける。全てを投げ出し、リタイアして家で寝ている。動けなくなるまで世界を駆け巡り、面白いものを見て、うまいものを食べる。どれも間違いではないでしょうが、関本さんの選択は違いました。
抗がん治療を受けながら、これまで通り緩和ケア医として働く。関本さんは、この勇気ある道を選んだのです。
自分が、がんの患者になる前と後では、いろいろなことが違って来ました。それまでも関本さんは、患者さんと一緒になって一喜一憂するタイプの医師でしたが、この意識がより鮮明になり、患者さんとの距離がより縮まったと言います。
診察の後、関本さんは患者さんによくこんな声をかけます。
「これからも情報交換をし合って、お互い長生きしましょうや!」
患者さんのうれしそうな笑顔! 心の交流がより強まったと感じる一瞬です。
関本さんは、こんなこともおっしゃいます。
「患者さんには本当に、たくさんのことを教えられました」
たとえば、変わることは変えようと努力し、変わらないことは受け入れる人間としての格好よさ。「こんなに苦しいはずなのに、家族にはこんなにも優しく接することができるのか」という強さを学んだと言います。
関本さんの胸には、70代女性の患者さんの、こんな声が残っているそうです。「先生、私は美しく死にたいんです」……。
緩和ケアの医師として、関本さんは人間が誰しも持っている「最後はこうありたい」という願望に、忠実でありたいと願っています。「美しく」という言葉のなかに含まれている、崇高な想いと安らぎ。それを最後まで守り通して、彼女は逝ったと言います。
関本さんがもう1つ、大切にしている言葉があります。『人は、生きて来たように死んでゆく』……。
人と争い罵詈雑言を吐いて来た人は、最後まで文句を言いながら死んでゆく。美しく生きようというブレない意識と熱量を持っている人は、美しく逝ける。
最後に関本さんに、のほほんと生きている私たちに贈る言葉をうかがいました。
「サマセット・モームが言っているように、誰でも自分の人生について、1冊の本が書けるんです。普段、のほほんと生きているのは素晴らしい。でも最善に期待して、最悪に備えるのも大切なことなんです。最悪のときを迎えた際、自分はどう振舞うのか? それを考えたり、家族と話し合っておくのは、大切なことではないでしょうか」
■『がんになった緩和ケア医が語る「残り2年」の生き方、考え方』
著:関本剛
出版:宝島社
価格:1200円
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