巨人・阪神16年ぶりのトレード 前回移籍した選手は?
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2020年12月2日 18時0分
【プロ野球巨人那覇キャンプ 練習試合巨人対ロッテ】 5回 安打を放つ巨人・山本泰寛 = 沖縄県那覇市の奥武山公園
話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、11月30日に海外FA権行使を発表したロッテ・澤村拓一投手と、巨人から阪神への金銭トレードが発表された山本泰寛選手の「移籍」にまつわるエピソードを取り上げる。
「年が明けることもあると思います。僕の野球人生なので、しっかり考えて決めたい。自分に悔いのないような選択をしたいなと思っています」(11月30日、澤村のコメント)
11月30日、メジャーリーグ入りを目指して海外FA権の行使を発表したロッテ・澤村拓一。澤村は今季(2020年)、シーズン終盤の9月に巨人からロッテへ電撃トレード。今季、巨人では13試合に登板し防御率6.08と振るわず、3軍降格まで経験した澤村。ところがロッテに移籍するや、持ち前の剛速球とスプリットを武器に勝ちパターンの中継ぎとして活躍。22試合に登板し防御率1.71と大活躍し、ロッテの2位躍進に貢献しました。
「セでサッパリの澤村が、パの強打者相手に通用するわけがない」という声を跳ね返す変身ぶりに、「なぜジャイアンツでそのピッチングを……」と恨み節を言いたくなる巨人ファンの気持ちもわかりますが、やはり「環境を変える」というのは大事なんだな、と改めて思ういいトレードでした。
その澤村が、海外FAの行使を発表。本人は、来季(2021年)プレーするチームについて、「日米42球団(NPB12球団+MLB30球団)すべてが考えられる。自分のことをいちばん必要としてくれる球団で腕を振って行きたい」とコメント。もちろん残留も選択肢の1つですが、実働2ヵ月ほどでロッテを去る可能性が出て来ました。
澤村は、中央大学4年のときにニューヨーク・ヤンキースほか複数のメジャー球団からオファーを受けた過去があり、一時は渡米も真剣に考えたと言われています。もともとメジャー指向を持っており、ロッテ移籍後の10月17日に海外FA権を取得。当然ロッテもこの展開は想定の上で、巨人に澤村譲渡を申し入れています。それだけ今季は、澤村の力が必要だったということでしょう。だからこそ澤村も意気に感じたのだと思います。
ただし、その恩義と、来季の契約はまた別の話です。澤村は自分が得た正当な権利を行使しただけであり、それは本人の自由。何ら後ろ指をさされるようなことではありません。なのに「せっかく拾ってくれたロッテを、たった2ヵ月で出て行くのか?」という声が一部で聞こえて来るあたり、日本ではFA制度への本当の理解がまだまだ進んでいないんだなあ、と思わずにはいられません。
自分の実力をいちばん高く評価してくれて、働き甲斐のあるチームでプレーしたいのは、プロ野球選手であれば当然のこと。選手の野球人生は選手自身が決めることであって、その選択についてファンが口を挟むことではないと考えます。応援して来た選手がチームを去るのは悲しいことですし、気持ちはよくわかりますが、そこは理解してあげないと、です。
中日・大野雄大のようにFA権を取得しながら「ドラゴンズで優勝したい」と宣言せずに残留するのもまた自由。残った大野が立派で、FA宣言した澤村が恩知らずという話ではないでしょう。選手はモティベーション含め、自分の力を最大限発揮できる場所でプレーすればいいのです。
澤村はすでに代理人と契約。本格的な交渉はこれからですが、マリナーズやダイヤモンドバックスなどリリーフ陣が手薄なチームにとって、150キロ台後半の真っ直ぐと、145キロ前後のスプリットを投げられる澤村は魅力的に映るでしょう。早くも争奪戦が囁かれています。国内・国外、どこの球団に行こうと、今季終盤のような鬼気迫るピッチングを見せて欲しいものです。
11月30日にはもう1つ、興味深い発表がありました。巨人・山本泰寛の金銭トレード移籍です。よくあるオフの戦力譲渡ですが、へえ、と思ったのは、相手が阪神だったことです。長年のライバル同士である巨人と阪神は、過去ほとんどトレードを行ったことがなく、今回を含めわずか5例しかありません。
両球団間で初めてトレードが行われたのは、1979年のことでした。あの「小林繁(巨人)←→江川卓(阪神)」です。これは江川問題解決のために、当時のコミッショナーの「強い要望」によって実現したもので、ドラフトで江川を指名した阪神に、江川がいったん入団。すぐに巨人へトレードされました。この強引な解決策は、エース級の小林が交換要員になったことで、世間でも大いに物議を醸しました。
通常の交換トレードというと、1983年オフ、かつて甲子園を沸かせた太田幸司(巨人)と鈴木弘規(阪神)、1990年オフ、石井雅博(巨人)と鶴見信彦(阪神)の2例だけ。いずれも主力級ではなく、全員が新天地でも活躍できないまま引退しています。
この他、2004年1月に阪神・カツノリ(野村克則)が金銭トレードで巨人へ移籍したのを最後に、両球団のトレードは16年も途絶えていました。その理由は、ライバル関係ももちろんありますが、「もし出した選手に向こうで活躍されたら困る」という懸念がお互いにあったからでしょう。どちらもファンが多く、長年のライバルであるがゆえです(ちなみに広澤克実、ダレル・メイはトレードではなく、自由契約になってからの移籍です)。
しかし、今季、シーズン中に活発なトレードを行った原辰徳監督にとって、そんな“タブー”はどうでもいいようです。巨人フロントも過去を反省し「脱・飼い殺し」を明言しており、今季1軍では出番のなかった山本に「新たな活躍の場」を与えることを優先しました。非常に歓迎すべき動きであり、時代も変わって来たなと思います。
山本は今年、在阪局の女性アナウンサーと結婚したばかりで、遠距離婚状態だったため、阪神移籍は渡りに船でした。野球とは直接関係ありませんが、それも快く送り出す要因になったのかも知れません。
阪神は今年チーム全体で85失策を記録し、2年連続で12球団ワースト。山本は二塁・三塁・遊撃とどこでも守れる上に守備力も安定しており、阪神にとっては、ぜひとも欲しい選手でした。彼が入っただけでチームの守備力がすぐに向上するわけではないですが、山本はレギュラー獲りを目指して、これまで以上に奮起するでしょうし、阪神内野陣も「ウカウカしていられない」と目の色が変わるはず。内野強化と同時に、現メンバーの尻を叩くことも見込んでの山本獲得なのでしょう。
こういう移籍の活性化こそ、いまの球界に求められていることであり、あるチームで埋もれていた選手が、違うユニフォームを着て活躍すれば、それは球界全体の活性化につながります。澤村がロッテに移籍してすぐ活躍した際、Web上では好意的にとらえた巨人ファンが多かったように、ファンの側もトレードをネガティブに考えなくなって来ています。他球団も巨人に負けず、もっと積極的に“商売(=trade)”して欲しいところです。
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