クルマにまつわる「ヒヤリ体験」
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2020年12月3日 17時20分
「報道部畑中デスクの独り言」(第221回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、畑中デスクが経験した自動車運転での「ヒヤリ体験」について—
早いものでもう師走。新型コロナウイルス感染下ではありますが、ヒト・モノの動きが慌ただしくなる時期です。クルマを運転する方は改めて安全運転でまいりましょう。
さて、ドライバーにとってはおなじみのJAF=日本自動車連盟、そのJAFが毎月発行している「JAF Mate」という冊子があります。クルマにまつわるさまざまな情報が掲載されていますが、私が楽しみにしているのが、松任谷正隆さんのエッセーです。作曲・編曲家であり、自他ともに認めるカーマニア、そして、ユーミンこと松任谷由実さんの旦那さまでもあります。
最近の号で「半分と半分の論理」というタイトルの話がありました。クルマ1台ぐらいしかすれ違えない場所で、全く道を譲ろうとしない対向車とのやり取りを例に挙げて、冒頭、「世の中には自分よりちゃんとした人間が半分、自分よりちゃんとしてない人間が半分いる、と思っている。特にクルマで外に出た場合は、できるだけそう思うようにしている」と松任谷さんは書き出しています。なかなか言い得て妙だと思います。
私自身、運転は決して褒められたものではないのですが、運転していると、傍若無人なドライバーに出くわすことがあります。なかでもこんな変わった「ヒヤリ体験」を思い出しました。いまから25年近く前のことです。
クルマでの深夜の帰り道、もう少しで自宅到着というところ、クルマが2台やっとすれ違えるような路地で、対向車線から黄色のスポーツカーが猛スピードで走って来ました。
「危ない!」
私は急ブレーキを踏み、クルマを路肩に寄せます。わきに歩行者がいなかったのが幸いでした。まさに危機一髪、そのスポーツカー、時速80kmは出ていたのではないかと思います。車内から後ろを振り向いたところ、スポーツカーも止まっているように見えました。
何はともあれ難を逃れ、胸をなで下ろしました。私は改めてクルマを進め、ほどなく自宅近くの駐車場に着きました。
さて、本当に「ヒヤリ」としたのはこの後です。所定の位置に駐車して外に出ると、駐車場の入口に見かけたクルマが止まっているではありませんか。そう、あの黄色のスポーツカーでした。何と、私のクルマの後をつけて来たのです。
暗くて顔はよくわかりませんでしたが、スポーツカーから出て来たのは浅黒い“いかにも”な男でした。
「やべっ! どうしよう……」
そう思いながらも駐車場の入口である以上、スポーツカーの前を通らないと出られません。仕方なく近づいて行くと、男は恫喝をかけて来ました。
男:「何だ! さっきのは?」
私:「……」
男:「お前は俺が誰だか知ってて、あんなことをしたのか!?」
「知るわけねえだろ!」……逆恨みもいいところで、反論したくなりましたが、下手なことをすると、何をされるかわかりません。とは言え、こちらから謝る理由もありません。わずかな沈黙が、私にはすごく長く感じました。
ひょっとして殴られるかも……そう思ったとき、男からドライバーとして信じがたいにおいが漂って来ました。思い切って聞き返しました。
私:「……あなた、酒飲んでますよね?」
男は無言……私はたたみかけます。
私:「こんなところじゃ何ですから、ちゃんとしたところで話しましょうよ」
男:「警察呼ぶのか?」
私:「呼んでもいいですけど……私は呼ばれるようなことはしてませんけれどね」
男:「……」
しばらくの沈黙があり、男はそのままクルマに乗り込み、駐車場を去って行ったのでした。その後、男がどうなったかは知る由もありません。
正直、心臓はバクバクで、われながらよくあんな機転が利いたものだと思います。ただ、自分の駐車場を知られた以上、クルマに何をされるかわかりません。いわゆる「お礼参り」を警戒し、念のため、最寄りの警察に状況報告だけは行いました。
世の中のドライバーの多くは善良な方々だと思いますが、松任谷さんの言う通り、上のようなドライバーが世の中に「半分はいる」と考えた方がいいのかも知れません。少なくとも自分がより慎重に、より謙虚にクルマの運転に臨めるのではないかと思うのです。(了)
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