香港新聞「アップル・デイリー」の創業者が収監~中国本土を本気にさせた香港民主化運動の「性急さ」
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2020年12月4日 22時37分
6月30日に施行された香港国家安全維持法(国安法)に反対し、日本に住む香港人やウイグル人ら約300人が東京・渋谷周辺でデモを行った。7月11日から行われた民主派の立法会選挙に向けた予備選に対して、香港政府は国安法違反の可能性があるとけん制しており、参加者は「光復香港、時代革命(香港を取り戻せ、時代の革命だ)」「香港独立」などと記された旗を掲げた。デモ隊の多くは身元が特定されることを避けるため、サングラスやマスク、帽子で顔を覆って抗議。香港出身の男性は「私たちも覚悟を持ってやっている。屈することなく声を上げたい」と訴えた=12日
ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(12月4日放送)に内閣官房参与で外交評論家の宮家邦彦が出演。香港の新聞「蘋果日報(アップル・デイリー)」の創業者、黎智英氏が収監されたニュースについて解説した。
「蘋果日報(アップル・デイリー)」の創業者、黎智英氏が収監
中国批判で知られる香港紙「蘋果日報(アップル・デイリー)」の創業者、黎智英氏が詐欺罪で起訴され、収監された。12月2日には民主活動家の周庭氏や黄之鋒氏らが、無許可集会を先導したなどとして実刑判決を受けたばかりで、香港当局による民主派への締め付けは強まる一方だ。
飯田)「香港当局による締め付け」と各紙報じていますけれども。
過激に、性急に運動をやり過ぎた~その結果中国本土を動かしてしまった
宮家)これはもう本土化ですよね。このアップル・デイリーの創業者の方は筋金入りだと思います。おそらく北京からしたらいちばん怖いのは、非暴力運動で、だけれども何かがあったときには地鳴りがするような、息の長い反政府運動だと思うのです。私が昨年(2019年)香港に行って感じたのは、少数ではありますが、学生運動家の中にアメリカの国旗を振ったり、香港独立の旗を振ったりしている人たちがいました。彼らはだんだん過激になって行ったのですが、ああいうことをやったらダメだということです。
飯田)なるほど。
宮家)あんなことをすれば、当局は目をつけて、「いつか潰してやる」と思いますよね。彼らがああやって純粋に民主化運動をやるのは正しいし、いいのですよ。しかし、誰かがきちんと過激化しないように、もっと息の長い運動を続けて、決して焦らないようにしないといけないのです。さもないと1970年安保の全共闘みたいになってしまいます。あのときも、ベ平連や革マル、赤軍までいたわけです。みんなが穏健なのではなくて、過激化したグループもありました。でも、過激化すれば、人心は離れてしまうものです。そして、昨年の11月には区議選の補選がありましたが、民主派はそこで圧勝した。でも私は逆に、あれで中国本土の人々は「もう許さない、弾圧するしかない」と感じたと思いますね。
飯田)性急にやり過ぎてしまったと。
「やり過ぎてはいけない」ということを年寄りが上手く伝えられなかったか
宮家)そう思いますね。例は違うのですが、ソ連が崩壊してロシアになって自由化して……とやっているうちに、ヨーロッパはEUを拡大し、NATOを拡大しました。しかし、それでロシアに大いなる危機感を持たせてしまった。その結果がプーチン政権になって行ったわけです。香港も同じです。「やり過ぎてはいけない」ということを、うまい方法で民主化運動をやっている人たちに伝えられなかったのかなあ、という気がするのです。もちろん、彼らの気持ちはわかるのですよ。でも、昨年「このままではよくない」と思って心配していたことが、たまたま起きてしまったのかとも思いますが、我々と同じような香港の年寄りたちに、もっと知恵があってもよかったかなと思います。
飯田)私も昨年、香港に取材に行って、日本人で香港社会を研究している方などにお話を伺ったのですが、まさにその指摘をしていました。あの当時、若者たちはイケイケどんどんだった。区議選まで勝って、年長者の言うことをまったく聞かなくなっていて、「前のめりになっている」ということを危惧しているとおっしゃっていました。
宮家)やっぱりね、あの時がいちばん危なかったのですよ。
若者たちにとっては長老たちに力を感じられなかった
飯田)そして若者たちは、「長老たちから政治力で根回しをして、踏み固めて行く強さというものが感じられないのだ」という話をしていました。
宮家)しかし、長老たちがそういう状態の中で、中国本土の方はじわりじわりと香港を締め付けて来たのです。
飯田)「妥協したではないか」ということが言われていました。
宮家)だから、「こんなまどろっこしいことはやっていられない、早く結果を出そう」という若者たちの気持ちはわかるのですが、それが挫折していくのを見るのは非常につらいことです。世界のマスコミが煽ったわけではないけれど、香港民主化のヒーローやヒロインをつくって、ある意味で美化したわけですよね。それはそれでいいのですが、その結果、中国の思う壺になってしまったのだとしたら、とても残念です。
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