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バイデン氏が国防長官にミシェル・フロノイ氏を選ばなかった理由

ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2020年12月10日 17時30分

バイデン氏が国防長官にミシェル・フロノイ氏を選ばなかった理由

 4日、米大統領選で優勢となり、デラウェア州で演説する民主党のバイデン前副大統領(ロイター=共同)

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(12月10日放送)に慶應義塾大学教授で国際政治学者の神保謙が出演。バイデン氏が駐在中国大使にブティジェッジ氏の起用を検討しているというニュースを受け、次期政権となるバイデン政権の今後について解説した。

4日、米大統領選で優勢となり、デラウェア州で演説する民主党のバイデン前副大統領(ロイター=共同)=2020年11月4日 写真提供:共同通信社

バイデン氏、駐在中国大使にブティジェッジ氏を指名検討か

アメリカのネットメディアは現地時間12月8日、アメリカ大統領選で当選が確実となっているバイデン前副大統領が駐在中国大使に、インディアナ州サウスベンド前市長のピート・ブティジェッジ氏の起用を検討していると伝えた。

飯田)この記事を流したのは「AXIOS」というメディアで、いろいろなスクープを出しています。今回は駐在中国大使、在北京の大使です。

支持者にあいさつするブティジェッジ氏=2020年2月4日、米ニューハンプシャー州(ゲッティ=共同) 写真提供:共同通信社

多様性とリベラルさを反映させた人事

神保)政権移行チームが徐々に高官人事の指名を続けているということで、想像以上にバイデン政権にとってのポリティカル・コレクトネス、つまり、多様性を反映し、リベラルな価値を信じるというところが反映されている印象があります。中国大使にブティジェッジ氏というのも、その傾向が強く出ています。

飯田)なるほど。この方、公言されていますけれども、ご自身がゲイであるということで、セクシャルマイノリティを包摂するという部分ですか?

神保)トランプ政権は中国に厳しくて、米中対立を総合的な競争の次元に持ち上げた政権だったと思います。そうすると、多くの方々が注目するのが、「バイデン政権の対中政策はどうなる?」ということです。あまりに色がないことをやると、トランプさんの時代にやって来たこととの違いを攻撃される可能性があります。それに対する劇薬と言うと例えがよくありませんが、色が付いた形で人事を出して来たな、と思います。ブティジェッジさんは大統領選の予備選挙で目立った方です。

飯田)最初に目立った方でした。

神保)アイオワ州の党員集会でトップに立つという形でした。オバマさんのような、「新しい世代の民主党を率いる人材」として注目を集めるのではないかと言われていた人ですが、スーパーチューズデーでバイデンさんに負けて失速してしまいました。彼は、知名度は抜群で、かつLGBT、同性愛の方ということで、多様性を象徴する政治家として有名です。これを中国に送り込むことによって、まさに「リベラルなアメリカを中国の内部から発信する」ということを目指した人事構想ではないでしょうか。

米中西部インディアナ州サウスベンドで、2020年大統領選の民主党候補者指名争いに名乗りを上げたブティジェッジ氏(左)とパートナーのチャスティン氏=2019年4月15日 写真提供:産経新聞社

民主主義や人権という側面で中国に挑む~バイデン氏

飯田)なるほど。中国に対して関与政策は失敗だったということで、米中が対峙する形で来ていたのが、変わってしまうのではないかという指摘がありますが。

神保)多くのメディアの報道では、おそらく中国との競争関係はバイデン政権にも引き継がれるだろうと言われています。

飯田)変わらないと。

神保)特に軍事的な側面や経済で言うと、これまで関税を高くしたり、輸入、投資の制限をしたり、ハイテクの移転規制みたいなところを徹底的にやっていたことを、どこまで続けるのかということがずいぶん言われて来ました。バイデンさんは、トランプ政権がすでにやったことは、もちろんテコとして使う。しかし、それに加えて、民主主義や人権という側面で中国に対して「押して行くのだ」ということを、現時点ではメッセージとして投げているのではないかと思います。

米デラウェア州ウィルミントンで演説するバイデン次期大統領(アメリカ・ウィルミントン)=2020年11月25日 AFP=時事 写真提供:時事通信

バイデン政権は「チーム・オブ・フレンズ」~国防長官にフロノイ氏を選ばなかった理由

飯田)この駐北京の大使も驚いたのですが、国防長官の正式指名が、日本時間の9日に出ていましたけれど、黒人で初めてとなるロイド・オースティンさんという人を指名しました。

神保)これは、私も少し驚きました。これまで最有力と言われていたのは、ミシェル・フロノイさんという元オバマ政権時代の国防次官です。彼女は知性から言っても、行政経験から言っても、双方で申し分ないと多くの方から言われて来ました。「なぜ彼女が指名されなかったのか」というところで、今回のバイデン政権の国防政策の特徴を見ることが大事だと思います。

飯田)フロノイさんではないかと言われていましたね。

神保)いろいろ見ると、まず、フロノイさんが立ち上げた「コンサルティング会社が軍需産業と近すぎる」という批判が出ています。また、オバマ政権時代、特にアフガニスタンに対する政策で、スタンリー・マクリスタルさんと一緒に「アメリカ兵を増派する」という決定をしたのですが、そのとき、フロノイさんが増派に積極的だったのに対し、バイデンさんは増派に関しては消極的で、2011年ごろに相当な対立があったのです。そのことが未だに尾を引いているのではないかという見方があります。また、それに基づいて民主党の左派が、「ミシェル・フロノイというのはあまりにタカ派すぎる」というところでも批判があった。

飯田)そう言われています。

神保)ポイントは、それにもかかわらず、「ミシェル・フロノイは素晴らしい」と言っていたものを押さえつけて、彼女を退けたということは、バイデンさんが「ポリティカル・コレクトネスに関する配慮」を相当しているということと、「ミシェル・フロノイさんとの個人的な関係性」を重視した形で閣僚を決めて行ったということだと思います。オバマ政権のときは「チーム・オブ・ライバルズ」という言い方をしていて、閣僚に自分と政治的立場の違う人でも入れて、競わせることによって、閣僚のモチベーションを上げて行くというやり方をしました。その象徴がヒラリー・クリントンさんでした。

飯田)大統領選で戦った。

神保)そうですよね。それを国務長官に指名したということもあったのですが、今回は「チーム・オブ・フレンズ」です。バイデンさんの知っている方々を閣僚に入れるということなので、ある意味、信頼に基づいた閣僚人事ということになります。オバマ政権当時における「多様性」は人種やそのような立場によってはあったのですが、バイデンさんの場合、「思想の多様性」というところにおいては、それほど大胆なことはしていない、ということが気になります。

ウィルミントンで、報道陣の質問に答えるバイデン前副大統領(アメリカ・デラウェア州)=2020年11月16日 AFP=時事 写真提供:時事通信

「アジアとの同盟関係をどう強化するか」については未知数~オースティン国防長官

飯田)特にポリティカル・コレクトネスとか、環境を重視する左派の人たち、それこそサンダースさんやウォーレンさんが入るのではないかとも言われていましたが、いまのところそういう声は聞きません。議会の構成もあるのでしょうけれども。

神保)議会承認という問題もあります。特にこの国防長官人事は、アメリカの軍人が閣僚に就くためには「退役してから7年間を経ないとならない」ということがあります。

飯田)文民統制を重視するということで。

神保)そうです。これを議会で承認する「ウェイバー」と言うわけですけれども、特例を認めるということをやらなくてはいけなくて、これまで2例ありました。1950年のジョージ・マーシャル。あのときは朝鮮戦争で、「マッカーサーとの関係をどうするか」ということで、戦時中の特別人事でした。もう1つはトランプ政権のマティス国防長官です。あれは、まさにホワイトハウスのなかで戦争していたようなものですから、戦時人事みたいなものを、議会が「マティスのような人を送り込まないと大変なことになるぞ」ということで承認したのですが、今回の場合は、承認プロセスがスムーズに進むかということは、極めて疑わしいところがあります。

飯田)なるほど。オースティンさんのキャリアを見ると、中東に明るい人で、特殊作戦などもやって来た人です。逆に言うと、東アジアについて、あるいは海と空から押さえ込むという全体構図についてはどこまでできるのでしょうか?

神保)基本的にオースティンさんは陸軍参謀として、対テロ作戦。そして2010年代のイラクからの撤退オペレーション。これで成果をあげています。軍人のなかでのリスペクトを勝ち取るということについては、誰も心配していません。しかし、国防長官という仕事は、軍の統制はもちろん、軍事作戦、軍事戦略を考える、さらに広く安全保障戦略のなかで軍をどう位置づけ、そして議会文民をどのような形で巻き込むかということも重要になります。そして、ペンタゴンという巨大な組織をまとめる行政能力が必要です。それはまた軍をまとめることとはまったく違う力学があるわけです。本当にオースティンさんにそれができるのかということに関しては、相当注意深く見なければいけません。そしていまは同盟の立て直しという時期です。トランプさんが混乱させたNATO、そして中国を中心とするアジアとの同盟関係をどう強化するかということにおいて、オースティン将軍の実績は未知数です。これから同盟管理は大変な時期になるとは思います。

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