イージス艦2隻導入を表明~中国という本丸に対応するために日本がするべきこと
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2020年12月10日 17時40分
海上自衛隊のイージス艦「きりしま」
ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(12月10日放送)に慶應義塾大学教授で国際政治学者の神保謙が出演。政府がイージス・アショアの代替策としてイージス艦2隻の導入を表明したニュースについて解説した。
政府がイージス艦2隻導入の方針を表明
岸防衛大臣は12月9日、自民党国防部会と安全保障調査会の合同会議で、地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」計画の代替案として、イージス艦2隻を導入する方針を表明した。政府は12月18日の閣議決定を目指す方針だ。
飯田)この会議のなかで岸防衛大臣は、陸上自衛隊の12式地対艦誘導弾の射程を大幅に伸ばして、敵の射程圏外から相手を攻撃できるスタンド・オフ・ミサイルを新たに保有する意向も示しているということです。イージス・アショアの話から、防衛計画の大綱も一部見直さなければならないということも出ていますが、どうして行くべきですか?
神保)河野前防衛大臣がイージス・アショアの配備撤回を表明したのが6月です。わずか半年で防衛体制の見直しの議論を進めるというのは、極めて短い期間だったと思います。この間、防衛省は、急ぎイージス・アショアの代替策を検討し、そのなかには民間企業に委託研究を投げて、いくつかの案の比較検討を行ったことと、自民党の国防部会を中心に政府のプロセスを整えて行くという作業をやり、その上、安倍前総理が辞める際に、以前、敵基地攻撃能力と言っていた「敵領域内でのミサイル阻止能力」も検討して欲しいという申し送りをしています。これだけの複雑な作業をわずかな期間でやらなければいけなかったので、一言で言うと「大変だっただろう」と思います。
イージス艦導入がイージス・アショアの代替案になった背景
飯田)そのなかには、オイルリグと呼ばれる櫓のようなものを組むなどいろいろな案が出て、それに対して批判も出ていましたが、結局、船を浮かべるという形に落ち着いて行きました。批判する人に聞くと、「そもそも船を動かす人が足りないから、陸に移すという理屈ではなかったのか」と指摘する人もいますが、この辺りはどうなのでしょうか?
神保)ミサイル防衛は、24時間365日の警戒態勢が望ましいのです。特に北朝鮮が昼夜問わず、天候も問わず発射をした場合に、しっかり対応するためには、日本海の洋上に貼り付けてミサイル防衛を運営するよりは、陸上から運用した方が安定するということだったと思います。そしてローテーションですから、24時間船をオペレートするというのは、海上自衛隊にとっても、とても負担のかかる話でした。しかし、陸上配備であれば、陸上自衛官が想定されていたのですけれども、自宅から通えるわけです。人員のローテーションも比較的やりやすいということなので、ミサイル防衛をしっかりと運用するという体制においては、イージス・アショアの利点というのは相当あったと、いまでも評価はできると思います。
飯田)ただ、ブースターが駐屯地内に落ちるということで、人がいるところに落ちるという可能性を否定できないことが理由となっています。
神保)その後に開かれた国家安全保障会議では、防衛省から早々に代替地の検討は難しいという方針が示されて、結果として、洋上に展開する案に絞り込まざるを得ないということになったわけです。そこで、いろいろな有象無象のアイデアが出て来た。オイルリグ型の櫓を組むとか、あるいは民間商船を改造して、そこにインターセプターと呼ばれるミサイル自体を載せるという案などが出ました。そして、このイージス艦を増やすという案ですけれども、それぞれに一長一短あるなかでは「イージス艦を増やす」というアイデアがもっともまともな案だったと思います。
まずは「どこまで対応できるのか」ということを探る
飯田)北朝鮮もいろいろなミサイルを撃って来ていて、そのなかには軌道が途中で変化するものもある。飽和攻撃されたらどうなるのだというところもあるので、いわゆるミサイル阻止力、かつての言い方では敵基地攻撃能力というものが注目されていますが。
神保)ミサイルの種類や飛ばし方を含めて、さまざま形で変化に対応しなければならないことは確かです。その際にも、まずは「ミサイル防衛能力の延長」で、これを対応させることを考えるべきだと思います。北朝鮮の技術開発は進んでいますけれども、その開発スピードは緩慢です。イスカンデル型の軌道や、飛ばし方を変えて行くミサイルに対応するものを、まずはミサイル防衛の延長のなかで、どこまで対応できるか。例えば、SM-3というのが、いまの高高度迎撃システムですけれども、SM-6という種類の迎撃ミサイルがあって、これは巡航ミサイル等、さまざまな軌道に対応できる能力の改良の余地を伴うミサイルです。こういうものを多機能化させて、まずは「どこまで対応できるのか」ということを探る。その延長線上に違うタイプの、防衛をするだけではなく「攻撃力を含む種類の軍事アセットを検討する」ということに入ると思うのですが、これも冒頭で言われていたような、相手のミサイル基地、あるいはミサイル戦力を叩くということは、相当難しい技術であって、いまあるスタンド・オフ防衛能力の延長論からでは、なかなか導き得ないところだと思います。
北朝鮮向けの防衛整備~日米同盟や日米韓の作戦計画のなかに日本がどう加わるか
飯田)北朝鮮のミサイルも移動式であって、どこから撃つかもわからないし、司令部を叩いたところで、すでに命令が出ていたらミサイルは飛んで来てしまうという指摘もあります。
神保)もし、北朝鮮向けに整備するとすれば、日本だけのフルパッケージというのは、巨額のお金はかかるし、日本の戦後の防衛構想全体の見直しを伴うような大変革が必要だと思います。もし、本気で追求するとしたら、「日米同盟や日米韓の全体の作戦計画のなかに日本がどう加わるか」という文脈のなかで整えられるべきものであるということが、私自身の見方です。
東シナ海における中国との海上戦を見据えた装備が必要
神保)スタンド・オフ防衛能力というのは、どちらかと言うと中国向けなのです。これは、2018年の防衛計画の大綱にすでに織り込まれている概念で、特に航空機発射型の中距離巡航ミサイルや、陸上発射式の対艦ミサイルの射程を延長することによって、脅威圏外からでも、相手に対する攻撃を与えられるということです。その能力を整えるという意味において、焦点とされているのは東シナ海における海上戦です。対艦ミサイルを、より射程の長いところで相手を捉え、同時に潜水艦を整備することによって、相手を日本の領域に近づかせないような作戦をとる。その意味では、必ずしもイージス・アショアの代替措置ではないのです。日中関係の軍事バランスが大きく変化するなかで、より足の長い、射程の長い形で敵を捕らえるための装備が必要だという形で捉えた方が、議論は整理しやすいとは思います。
飯田)そうすると、そこには日米同盟も濃厚に絡んで来るわけですよね。
中国の第1列島線と呼ばれている海域で戦うためにはどうすればいいのか
神保)もちろんです。アメリカの過去十数年の戦略構想の発展というのは、おおよそ中国の接近阻止と呼ばれるさまざまな能力です。これから第4、第5世代の戦闘機が東に出て来て、弾道ミサイル、巡航ミサイルの他、グアムキラー、空母キラーなどがあるなかで、それでも、いわゆる中国の第1列島線と呼ばれている海域に戦力を投入して行く。「その戦域のなかで戦うためにはどうすればいいか」ということが、重要なコンセプトのポイントで、そこに日米同盟を当てはめるにはどうするかということになると、大事なのはミサイル戦力と、警戒、監視能力を強化するということと、水中戦だと思います。この辺りで整備を強化して行くというのは、対中戦略にとっては極めてピントの合った話なのです。イージス・アショアとの関係だけで考えて行くと、議論が見えにくくなると思います。
イージス・アショアは、中国という本丸に対応するために、北朝鮮を抑えるための砦
飯田)そうすると、もう少し長い期間で議論をしなければならないし、アメリカそのものはどうなのでしょうか。いろいろなところから退いて行く流れというのは、オバマ政権から続いているとされています。これは止まらないのですか?
神保)戦力バランスは大きく変化していて、中国はアメリカを西太平洋からできるだけ追い出す方向にかかって来るという方向性は変わらないと思います。アメリカは、この伝統的な領域では徐々に差が詰まっているのだけれども、宇宙、サイバー、電磁波領域というものを組み合わせる、いわゆるマルチドメインとか、オールドメインという領域で優位性を回復して、中国と戦域内で戦って行くということを重視していると思います。この流れについて行こうとしているのが、現代の防衛大綱の流れでの日米同盟改編です。日米防衛協力のガイドラインを現代戦風に改編して行くということは、日本の防衛戦略のなかで決定的に重要なことだと思います。本丸は、常に中国なのです。イージス・アショアというのは、私個人の解釈ですが、この本丸に対応するために、北朝鮮を抑える、そのための砦なのだと思います。ミサイル阻止能力に注目して、そこばかりに投資するのではなく、対中戦略をどのように組み替えて行くかというなかで、防衛構想を考えることが最大のポイントだと思います。
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