裁判で子どもを支える“付添犬”育成に主婦を導いた、愛犬たちとの出会いと別れ
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2020年12月26日 21時50分
【ペットと一緒に vol.226】by 臼井京音
司法の場などで子どもの精神面をサポートする“付添犬”のハンドラーとして、4年ほど前に活動をスタートした、田野裕子さん。現在は2頭のセラピードッグと暮らす田野さんの活動の原点は、約22年前のある出来事にありました。
今回は、セラピードッグや失明したシニアドッグなど、田野さんと4頭の愛犬のヒストリーを紹介します。
娘のために、犬を迎える
現在は、裁判や事情聴取などの場で、傷ついた子どもの心に寄り添う“付添犬”のハンドラーや、“犬のなかよし幼稚園”(横浜市)のオーナー・インストラクターとして活躍している、田野裕子さん。犬たちに囲まれる現在の生活の出発点は、娘さんが中学2年生のころに遡ります。
「思春期の娘が、簡単な表現をすれば、少し悪くなったんですよね。そんな娘が心を許せる存在として、犬を迎えようと思いついたんです」とのこと。
田野さん自身は、物心ついたころからいつも犬がそばにいる生活を送って来たそうです。けれども、10年ほどは子育てに力を注ぎ、犬とは暮らしていませんでした。
「実は娘は、私の実家の犬以外は怖がっていて……。なので、娘の希望でミニチュア・ダックスフンドを選んだのです。犬と暮らし始めたら、娘もすっかり犬好きになり、笑顔も増えました。散歩がてら、娘が通う中学校に迎えに行くことも多く、愛犬マイロは中学生のアイドル的な存在にもなりましたよ(笑)。マイロに会いたいと、娘の友人が自宅に遊びに来ることもしょっちゅうでしたね」と、田野さんは当時を振り返ります。
思わぬ事情で多頭飼育がスタート
久々に犬との生活を始めた田野さんには、いわゆる“犬友”もできました。するとある日、思わぬ情報が飛び込んで来たと言います。
「ご近所でミニチュアダックスが誕生したんですけれどね。検査ではお腹に2頭いると言われていた子犬が、実際は3頭産まれてしまったと言うんですよ。2頭のもらい手は決まっているけれど、予想外だった1頭の行先が未定と聞き、我が家で迎え入れることにしました。頭のなかで、ブラック系の毛色のマイロと、レッドの毛色のダックスとで並んで散歩する光景を想い描いたりしつつ(笑)」
マイロくんが4歳のときに子犬の小梅ちゃんがやって来て、田野家はさらににぎやかになりました。
「最初は引き取る気はまったくなかった小梅ですが、いざスタートすると、ダックス2頭の多頭飼育はとても楽しかったですね。ところが、マイロは病気にかかり、7歳の若さで旅立ってしまったんです」
小梅ちゃんも、8歳のとき、不治の病であり最終的には視覚を失う“進行性網膜萎縮症(PRA)”を発症。
「目が見えなくなってしまった小梅が暮らしやすいようにと、私の靴に鈴をつけて、それを追うようにするトレーニングを行いました。犬は音に敏感なのと、鈴は音が高くて聴きやすいですからね。たとえば、段差の音は連打にするなど、さまざまなバリエーションを覚えさせました。その成果が出て、小梅は盲目なのに、ドッグランでも鈴をめがけて笑顔で走っていましたよ」(田野さん)
大型犬が仲間入り
小梅ちゃんが3歳のころ、田野さんは新たにゴールデン・レトリーバーの子犬を迎えました。
「当時、私はすでにドッグトレーニングを学んでいて、動物病院のしつけ教室でアシスタントをしていました。アニマルセラピーと呼ばれるような活動に小梅と参加してみたいと獣医師の先生に相談してみたところ、『小梅ちゃんとでは、少しむずかしいかも知れませんね。フレンドリーで穏やかな性格のゴールデン・レトリーバーがいいのでは?』と勧められ、先生が子犬を探してくださったんです」
生後2ヵ月で田野さんのもとへやって来たフランちゃんは、すでに小梅ちゃんよりも大きかったとか。
「パワフルな子犬に小梅は『何だ何だ!?』と戸惑って、娘の部屋に逃げていたのを思い出します。無理に2頭を触れ合わせることもせず、小梅の望むようにさせていたら、1ヵ月くらいでお互いに打ち解けられました」
こうして、田野さんを新境地へと導いた犬であるフランちゃんとの生活が始まったのです。
セラピードッグや付添犬のハンドラーに
フランちゃんを迎えてから、田野さんはJAHA(公益社団法人 日本動物病院協会)で、陽性強化と呼ばれるような、犬に負担をかけないトレーニング方法を意欲的に学びました。
フランちゃんはもともとの気質がセラピードッグ向きだったこともあり、JAHAのボランティア活動“人と動物のふれあい活動(CAPP=コンパニオン・アニマル・パートナーシップ・プログラム)”で、介護施設や病院などで多くの入所者さんや患者さんを癒し、励ますことができたそうです。
「フランが5歳のころ、2代目となるセラピードッグを育てようと探し始めたところ、たまたまFacebookで保護犬が目に留まったのです。投稿を読むと、そのダルメシアンの命の期限は数日後に迫っているとのこと。気付けば、その子を迎えようと決めて連絡をしていました」と、田野さんは語ります。
放浪していて保護されたそのダルメシアンは、推定3~5歳。フランちゃんとの相性もよく、トライアル期間を経てエリーちゃんと名付けられ、正式に田野さんに譲渡されました。
「エリーは、自分の首に手が近づくと頭部や体を後ろに引きます。それを見て、過去の経験を連想せずにはいられません。我が家に来てからかなりの時間、エリーとは距離を感じました。遠慮なくうちの子になったな、と実感するまで2年はかかったのではないでしょうか」
3頭の老犬との暮らしと、これからの夢
エリーちゃんもセラピードッグとして活躍していて、老人ホームなどへの訪問はもちろん、子どもの読み聞かせに耳を傾ける“読み聞かせプログラム”にも参加しているそうです。
「エリーは、じっとしているのが得意です。なので、子どもが刑事手続きを受ける際の精神的な負担を減らすためのサポート活動である“付添犬”のお話をいただいたとき、エリーのほうが適任かも知れないと思いました。けれども、最終的にはフランに“神奈川子ども支援センターつなっぐ認証の付添犬”として活動をしてもらうことになりました」(田野さん)
田野さんは2020年12月現在、17歳9ヵ月の小梅ちゃんを筆頭に、14歳7ヵ月のフランちゃん、12歳4ヵ月のエリーちゃんという、それぞれ犬種も性格も異なる3頭の犬たちと暮らしています。
「いちばん小さいですが、小梅はいまもボス的な存在なんですよ。それにしても、娘のことがなかったら犬を迎えるタイミングも遅くなっていて、こうしてフランやエリーとさまざまな活動に取り組めなかったかも知れません。犬とのご縁は不思議で、何かに導かれるようにして現在につながっている気もします」
今後は、これまで培った経験を活かしながら、フランちゃんやエリーちゃんの後に続くような犬たちと、ハンドラーの育成に力を入れたいとも田野さんは意気込みます。
連載情報
ペットと一緒に
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著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。
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