越後湯沢駅「雪国弁当」(840円)~駅弁屋さんの厨房ですよ!(vol.23「川岳軒」編(2))
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2020年12月29日 11時50分
【ライター望月の駅弁膝栗毛】
昭和6(1931)年、清水トンネルの開通によって全線開通した「上越線」。
昭和57(1982)年の上越新幹線開業までは、特急「とき」など、多くの列車が行き交った随一の名所・岩原(いわっぱら)の大カーブを水上行の普通列車が駆け抜けて行きます。
上越線の開業に尽力し、「法師温泉長寿館」の創業者としても知られるのが岡村貢。
“上越線の父”としていまも讃えられ、故郷の石打駅前には銅像も建てられています。
その岡村貢公の銅像の前に立つのは、石打駅前で昭和6(1931)年から駅弁を製造する「合資会社 川岳軒(せんがくけん)」の5代目、牧野晶(まきの・あきら)社長です。
「伊東」「小淵沢」「水戸」「出水」「長岡」「米沢」「松阪」「横浜」「姫路」「修善寺」「富山」「仙台」「一ノ関」「米沢」「山形」「郡山」「大館」「新津」「新潟」「新潟」「新津」「直江津」と巡ってきた「駅弁屋さんの厨房ですよ!」、第23弾は「川岳軒」に伺いました。
■牧野晶(まきの・あきら)
合資会社・川岳軒 代表社員(社長)。
昭和48(1973)年3月17日生まれ(47歳)。新潟県南魚沼市(旧塩沢町)出身。
学生から会社員時代にかけて、東京都内での生活を経験し、川岳軒入社。
平成29(2017)年に4代目のお父様から経営を引き継いで5代目社長に。
●上越線と共に歩んで90年!
―「川岳軒」は、昭和6(1931)年創業ですので、2021年でいよいよ創業90年ですね?
昭和6(1931)年に、清水トンネルが完成して上越線が全通しました。
そのときに、小出駅前にいまもある「川善旅館」と、「三岳舎」が合同する形で、「川岳軒(せんがくけん)」となって、石打駅の構内営業に携わるようになったと聞いています。
牧野家は「三岳舎」を経営していて、「川善旅館」は佐藤家の経営でした。
ちなみに、川岳軒の2代目と3代目の社長は佐藤さんで、小出から通っていました。
―社長は牧野家、佐藤家、交互にやっていたんですか?
特にそういうことはなく、私が記憶している時代では、30年ほど前の佐藤社長の時代から、4代目の父・雄一が人繰りや駅弁の開発などで、中心的な役割を担っていました。
それもあって、平成9(1997)年に特急「はくたか」が越後湯沢発着で運行されるようになったころから社長に就任し、約20年にわたって、「川岳軒」のかじ取りを担いました。
父が3年半ほど前に亡くなり、私が引き継いだ格好です。
●機関車の付け替えが生んだ石打の駅弁!
―創業当初はどんな駅弁を作っていましたか?
全く記録に残っていません。
唯一残っているのが、石打駅前の社屋の上棟式の写真です。
これは越後湯沢駅のそば店「湯沢庵」の前にパネルとして掲げているので、湯沢に立ち寄られたら、ご覧いただけるかと思います。
いまある駅弁で歴史あるものは、私が小さいころからあった幕の内の「雪国弁当」でしょうか。
―どうして「石打駅」だったんですか?
清水トンネルが開業した際、水上~石打間は「電化」しました。
このため蒸気機関車と電気機関車の付け替えが発生し、列車の停車時間が長くなって、駅弁販売に適した駅となったからです。
いまも石打駅には広い構内が残っていますが、昔は蒸気機関車の転車台もありました。
残念ながら、平成に入ってから撤去されてしまったんですよね。
●首都圏からのスキー客に応えて深夜営業も!
―石打駅での駅弁販売にまつわるエピソードを、何か伺っていますか?
冬場、石打駅前のお店は、土産物店・食堂も一緒に深夜2時ごろから営業していました。
石打には、上野方面からのスキー列車が、深夜から早朝にかけて到着するんです。
スキーシーズンの石打駅前は歩行者天国でしたので、道がいっぱいになるくらいの人で、駅前に住んでいると、車を横付けすることができませんでした。
夏場は棒に挿した自家製の「アイスキャンデー」を石打のホームで売っていたと言います。
(川岳軒・牧野晶社長インタビュー、つづく)
現在、越後湯沢駅で販売される川岳軒の幕の内弁当「雪国弁当」(840円)。
昔の駅弁が、普通弁当(幕の内)・特殊弁当(ご当地食材)・寿司などの規定があったことを考えますと、ベーシックな幕の内は、自然と歴史ある駅弁となります。
ふたを開けていただくボックスタイプのパッケージとなっており、雪がしんしんと降り積もる旧家と、雪国ならではの「すげぼうし」をかぶって雪道を歩く子供の絵が描かれています。
【おしながき】
・白飯(南魚沼・塩沢産コシヒカリ)
・焼き鮭
・蒲鉾
・玉子焼き
・海老フライ
・ハム
・煮物(筍、椎茸)
・山菜(わらび)
・くるみ
・香の物
焼き魚・蒲鉾・玉子焼きとされる、幕の内弁当“三種の神器”が入った正統派幕の内。
焼き魚も、清水トンネルの開通までは、新潟・南魚沼の“最奥”に位置した土地柄らしく、塩っ気の多い昔ながらの焼き鮭となっており、くるみ・わらびなどの素朴な付合せと共に、旅情を誘います。
何より、南魚沼・塩沢産コシヒカリの美味しさの前に、おかずの食べ忘れにご注意を!
今回、川岳軒のルーツの1つとなった小出駅前の川善旅館にも足を運びました。
佐藤家では、川岳軒の社長を務めた方の弟さんが後に「三善軒」を設立、只見線と接続する小出駅で駅弁を販売した時期があったと言います。
只見線(小出口)も、2020年は国鉄形車両が引退、キハ110系気動車となりました。
乗換え時、改札からも見える川善旅館にチラリと目をやれば、旅に深みが出るものです。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/
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