加賀温泉駅「幕の内弁当」(700円)~駅弁屋さんの厨房ですよ!(vol.24「高野商店」編(2))
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2021年1月5日 11時50分
【ライター望月の駅弁膝栗毛】
大阪~金沢・和倉温泉間を東海道本線・湖西線・北陸本線経由で結んでいる特急列車「サンダーバード」が、北陸トンネルを目指して、颯爽と走り抜けて行きます。
昭和37(1962)年6月、敦賀~南今庄間に開通した当時日本最長の「北陸トンネル」は、福井県の嶺北・嶺南、さらに関西~北陸間の交流の活発化に貢献しました。
一方で、このトンネルの開通が、大きな影響を及ぼした駅弁屋さんもあるんです。
(参考)福井県史ほか
それが、今庄の駅弁屋さんとして始まり、いまは加賀温泉駅弁を手掛ける「高野商店」。
「伊東」「小淵沢」「水戸」「出水」「長岡」「米沢」「松阪」「横浜」「姫路」「修善寺」「富山」「仙台」「一ノ関」「米沢」「山形」「郡山」「大館」「新津」「新潟」「新潟」「新津」「直江津」「越後湯沢」と巡ってきた「駅弁屋さんの厨房ですよ!」。
令和3(2021)年の最初、第24弾は「高野商店」の高野宣也社長に伺いました。
高野宣也(たかの・よしなり)。
株式会社高野商店社長。昭和47(1972)年8月12日生まれ(48歳)。
石川県加賀市出身。
駅弁を手掛ける「高野商店」として5代目、高野家としては10代目。
●北国街道今庄宿の旅籠が発祥!
―「高野商店」は、明治29(1896)年創業で、今年(2021年)が創業125年。もともとは、福井県の「今庄」出身ですよね?
高野家は、江戸時代から北国街道今庄宿の旅籠「大黒屋」をやっていました。
本陣ではありませんでしたが、昔の建物には「大名畳」と呼ばれるものがありましたので、大名クラスの旅籠として、身分の高い方が泊まったのではないかと考えられています。
大正時代には、金沢出身の文豪・泉鏡花が大黒屋に宿泊したと言われていて、“北陸一の美人の娘がいた”と旅日記に書かれたそうです。
―駅弁に参入したきっかけは?
明治時代、北陸本線の工事に当たって、「大黒屋」が鉄道工事事務所となりました。
工事関係者が宿泊した他、今庄駅舎の土地として、高野家の土地を寄付しました。
じつは大黒屋がある場所から、いまの今庄駅まで、ずっと高野家の土地だったそうです。
また、工事関係者への食糧調達や賄い料理を提供しました。
このため、今庄駅の構内営業者として認められることになりました。
●125年前、握り飯と漬物で始まった「高野商店」の駅弁!
―構内営業の創業当初は、どのように営業していたんですか?
いまから125年前、明治29(1896)年の北陸本線開業に合わせて、今庄駅のホームで、売り子3人による立ち売りを始めたと言います。
竹の皮に握り飯と漬物を包んだ弁当で、価格は5銭でした。
当時は普通弁当(幕の内)、寿司など、弁当の規格が当局によって決められていまして、折のサイズから、焼き魚、蒲鉾、玉子焼き……と中味も決められていました。
―今庄での駅弁販売は、峠越えを前に補助機関車を連結していたからだと思いますが、当時のエピソードなどを聞いていたら、教えていただけますか?
なかには2時間ほど停車する列車もあって、大阪までは7時間近くかかったと言います。
祖母の話では、夏場はアイスキャンデーをつくっていたそうです。
当時はもの珍しさも手伝って、暑い日はすごく売れたと言います。
今庄の周辺は、いまも古い北陸本線のトンネルが残っていますので、今庄宿と合わせて歩いてみるといいかも知れませんね。
●いまではゼッタイNG! ツグミの駅弁もあった!
―今庄ならではの、ご当地駅弁はありましたか?
今庄には日野川が流れていて、鮎が獲れたので、鮎の弁当はつくっていたと聞いています。
私の父も駅弁用の鮎を、日野川で捕まえていたと言っていました。
あと、野鳥のツグミをかすみ網猟で捕まえ、身をむしって焼いて、駅弁にしていました。
父は作業がとても大変だったと話していましたが、滋味あふれる味でよく売れたそうです。
いまではツグミは禁猟になり、カスミ網猟自体もNGになってしまいました。
(高野商店・高野宣也社長インタビュー、つづく)
その昔、“普通弁当”として販売されていた、駅弁の幕の内弁当。
高野商店の「幕の内弁当」(700円)は、そんな懐かしい汽車旅の時代を思い起こさせてくれるボックス型容器で、加賀温泉・金沢・福井などの駅で販売されています。
パッケージには昔ながらの浮世絵の美人画が描かれていて、今庄の大黒屋時代、“北陸一の美人がいた”というエピソードを思い浮かべていただくのがいいですね。
【おしながき】
・ご飯(石川県産) 梅干し
・鯖の塩焼き
・蒲鉾
・厚焼き玉子
・鶏の唐揚げ
・かにシュウマイ
・ウインナー
・牛肉こんにゃく煮
・煮物(人参、椎茸、蕗、里芋、ヒロウス(がんもどき))
・昆布豆
・大根桜漬け
高野社長曰く、「昔からほとんど変えていない」という幕の内弁当。
白飯は、石川県産コシヒカリを使った“日の丸”ご飯。
「鯖の塩焼き・蒲鉾・厚焼き玉子」と“三種の神器”もしっかり入った正統派幕の内です。
焼き魚が「鯖」なのも、福井をルーツとする駅弁屋さんらしさを感じさせます。
駅弁の基本・幕の内を普段からいただくことができるのは、とてもいいことですね。
特急「サンダーバード」と共に北陸本線をひた走るのは、特急「しらさぎ」。
こちらは東海道新幹線と接続して、名古屋・米原~金沢間で概ね毎時1本ずつの運行となっており、東海・北陸地方の結びつきに貢献しています。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第24弾・高野商店編。
次回は、福井・今庄から石川・大聖寺に移転した際のエピソードを伺います。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/
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