緊急事態宣言対象拡大……「知恵比べ」が続く
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2021年1月15日 17時20分
「報道部畑中デスクの独り言」(第229回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、1月13日に対象区域が11都府県へ拡大した緊急事態宣言について—
新型コロナウイルス感染急拡大による緊急事態宣言の対象区域は、1月13日の時点で11都府県に広がりました。いずれも期間は2月7日まで。
内容は飲食店に対して午後8時までの営業時間短縮の要請、酒類の提供は午前11時から午後7時まで。時短要請に応じた場合には、協力金が上限1日6万円に。さらに不要不急の外出自粛を求め、テレワークなどによる出勤者の7割削減を企業に働きかけることにしています。
あわせて水際対策も強化され、中国や韓国など11ヵ国・地域とのビジネスの行き来も一時停止となりました。
菅義偉総理大臣は13日の記者会見で、「この厳しい状況を好転させるためには欠かせない措置であることをご理解たまわりたい。制約の多い生活でご苦労をおかけするが、何としても乗り越えて行かなければならない」と、国民の理解を求めました。
また、「強力な枠組みによって事態を好転して行く。対象期間である2月7日までの間、徹底して行動を見直していただきたい」と述べました。しかし、7日の会見で示した「1ヵ月後には必ず事態を改善させる」という発言はなく、全体的に国民への呼びかけに終始しました。
7日に示した強い決意は、ややトーンダウンした印象です。翌日の参議院内閣委員会では新型コロナ分科会の尾身茂会長が、期限を迎えても感染状況に目立った改善がみられなければ、宣言の期間を延長した上で対策を強化する必要がある、という見解を示しました。
思えば1月4日の記者会見で菅総理は、北海道と大阪について「(飲食店の)時間短縮を行ったところは結果が出ている」と述べていました。しかし、今回、大阪への緊急事態宣言再発令に至ったことで、発言の信ぴょう性が揺らぎます。
13日の会見ではその点を突かれましたが、「大阪は去年(2020年)暮れに下降になったことは事実」と述べ、判断に誤りはないという認識を示しました。言質を与えるような発言を控えたようにも感じます。
緊急事態宣言再発令を受けて、西村康稔経済再生担当大臣、東京都の小池百合子知事はそれぞれ経済界に対し、テレワークの一層の推進を要請しました。経済界からは協力の姿勢を示しながらも、好転しない状況にいら立ちもにじみます。
経団連の古賀信行審議員会議長は14日のTV会議による会談で、小池知事に「極力短期間で終息の方向で形作られるように、さまざまな工夫でやって欲しい」と求めました。
また終了後、記者団からビジネス往来の一時停止について問われ、「現下の状況ではやむを得ないと思うが、外との門戸はきちんとした形で開けて行くというのは根幹に持っていなくてはいけない。体制整備をした上で速やかに開けて欲しい」と述べました。
その経済界……担当記者にとっては、毎年恒例の東証大発会と経済3団体主催の賀詞交換会の取材をもって、いわば「仕事始め」となるのですが、今年(2021年)は様相を異にしていました。
1月4日の大発会は、会場の参加者を最小限に。取材も代表とするなど人数が絞られました。例年参加する晴れ着姿の女性はなし。打鐘の麻生太郎財務大臣も、例年見せるにこやかな笑顔はありませんでした。手締めも“合いの手”の発声は控えられました。
日経平均株価の今年最初の取引は、一時400円以上値下がりする厳しいスタート。
「相場の格言では“丑はつまずき”とされているが、丑は英語ではBullと言い、Bullは強気の象徴だ。英語のBullを信じたい」
日本取引所グループの清田瞭CEOは、あいさつでこのように述べました。
1月5日の経済3団体主催の賀詞交歓会は中止となりました。立食をやめ、出席者を最小限に絞るなどの対策で、ギリギリまで開催の可能性を模索しましたが、昨年末に中止の判断が下されました。
主催団体の1つ、経団連によると、賀詞交歓会の中止は記録が残っているなかでは初めてということです。各業界団体の会合も軒並み見送りとなりました。
経済同友会の桜田謙悟代表幹事は1月13日の記者会見で、飲食店への要請を軸とした緊急事態宣言の内容について「妥当。苦渋の決断」とした上で、感染抑制のためには「店の回転率を上げるのも運動として必要ではないか」と述べました。
飲食店への要請については、一筋縄ではいかない複雑な事情があります。それは取引先、卸売りへの影響です。
「大変厳しい。レストラン・バーには商品の拡販をしていただいている。私たちにとって痛手だが、2度目(の緊急事態宣言)ということで廃業される方も出て来るのではないか。中長期にわたってもう一度戻って来ればいいのだが、厳しい状況になる可能性がある」
サントリーホールディングス(以下サントリー)の新浪剛史社長は、ニッポン放送のインタビューでこのように述べました。
サントリーでは全体の2割あまりが業務用。一方でレストランや居酒屋、バーの売上は年末、通常の3割ほどに落ち込んでいるということで、第1四半期決算への影響は甚大になるという見通しを示しました。新浪社長はその上で政府に対し、「飲食業は日本のソフトパワーの源泉」だとして、飲食店への支援を求めました。
こうした声を受け、経済産業省では取引先向けに給付金を支給する方針を表明しました。対象は1月または2月の売上が前年同月に比べて半分以下になった事業者で、中堅・中小企業に最大40万円、個人事業主は最大20万円を支援するということです。
しかし、支援の範囲がどこまで及ぶのか……現状、直接取引している全国の業者の他、農家や漁業者といった間接的な取引先も想定しているということですが、線引きが難しいところです。
売上に業種のパラメータ(変数)が加わることで、手続きがより煩雑になることも懸念されます。ある飲食店からは従業員の勤務シフトを工夫するなど、人件費削減に苦慮しているという話も聞こえて来ます。
次から次へと出て来る難題……新型コロナウイルスとの戦いは、ウイルスと人類の「知恵比べ」の様相を呈しています。(了)
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