横浜創英中学校・高等学校 工藤勇一校長~「体験を通して身に着ける」教育
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2021年1月19日 8時10分
黒木瞳がパーソナリティを務める番組「あさナビ」(ニッポン放送)に横浜創英中学校・高等学校 校長の工藤勇一が出演。自著『学校の「当たり前」をやめた。』について語った。
黒木)今週のゲストは横浜創英中学校・高等学校校長、工藤勇一さんです。工藤先生がお書きになった『学校の「当たり前」をやめた。』という本が時事通信社から出版されています。私も読ませていただきましたが、去年(2020年)3月まで千代田区立麹町中学校の校長を務めていらっしゃいましたけれども、そのときに宿題の廃止、定期テストの廃止、クラス担任の廃止などさまざまな改革を遂げ、大きな注目を集められました。「学校は何のためにあるか?」ということから始まったのでしょうか?
工藤)いまの日本の社会は誰かの決定を待っていますよね。例えば現在の新型コロナウイルスの問題がありますが、国のリーダーたちが何かを決定してくれるだろうと、その決定を待っている状態があります。しかし、そうではなく、私たち自身ができることを、誰かに頼らずにやるべきなのです。もちろん、そういう方々はたくさんいらっしゃいますが、日本の社会がサービス産業化しているのです。「おもてなし」という言葉があります。いい言葉だと感じますが、「みんながサービスを待っている」状態なのです。サービスを与えられると、人はサービスに慣れて行きます。必ず何かと比べ、「もっといいサービスをくれ」となる。いまはそんな世の中になっている気がします。
黒木)そうかも知れません。
工藤)学校教育はまさにそうです。皆さん、とても教育熱心で、よかれと思って子供たちにいい環境を与えたいと思いますよね。少しでも早くから早期教育などの優れた教育をさせてあげたり、いろいろな環境を整えてあげたいという親心があります。そうすると教育もサービス産業のようになって、手をかけて行きます。そのことに気づかないのです。「勉強ができないのは、あの先生の教え方が悪いからだ」、「自分のクラスがうまく行かないのは担任の先生がだらしないからだ」というように、手をかけられた子どもはだんだん物事を考えなくなり、うまく行かないことがあると人のせいにする。私は「自律」という言葉をよく使うのですが、自分を律する力、コントロールする力、また主体性が低下している時代になっているのだと思います。私が「宿題をなくした、テストをなくした、担任制をなくした」など、いろいろなことが言われていますが、それは1つの手段に過ぎないのです。すべては子どもたちが自分の力で世の中を歩いて行けるようにするための仕組みづくりを行ったということです。定期テストはなくなりましたが、単元が終わるごとに行われる小さなテストはあります。とても重要なのは、「希望すれば再テストが受けられる」という点です。1回目に自分の点が70点で、「90点取ったら5だったのに」という子がいますが、すべての子に「先生、もう1度テストを受けさせてください」と言う権利があるのです。ただし、権利を行使すると1回目の成績が無効になってしまうので、2回目の成績が上がっても下がってもそれが成績になります。下がってしまった子は当然ショックですよね。ですので、1度でもこの経験をすると、次回のテストのときは学び方が変わります。
黒木)自分で変わるのですね。
工藤)例えば70点取って再テストを受ける子は、問題が変わるので勉強しなおさなければなりません。その子は点の取れなかった30点に注目します。その30点を勉強するというのはかなりハードルがあります。それを自分でクリアして行くところに、世の中を生きて行くスキルがあるのです。人に聞く、調べる、そして定着させるというように、それは人それぞれみんな違うので、その子のアクション、体験によって意味付けられて行く。体験して身に着けた力は、その後の人生で何度でも繰り返せるようになり、繰り返すほどその力は強くなります。大人はこのことを知っていますよね。「体験を通して身に着けたから何かができるようになった」ということを自覚させることが、3月までいた麹町中学校のモットーでした。すべてがそういうことですかね。
工藤勇一(くどう・ゆういち)/横浜創英中学・高等学校校長
■1960年・山形県鶴岡市生まれ。
■1984年から山形県で数学の中学教諭を5年務め、東京都台東区の中学校に赴任。
■その後、東京都や目黒区の教育委員会、新宿区教育委員会・教育指導課長などを経て、2014年に千代田区立麹町中学校の校長に就任。宿題・定期テスト・学級担任制など、これまで日本の学校教育で当たり前に行われて来たことを次々と廃止し、生徒が自律的に学習や活動に取り組む学校づくりを実施。
■麹町中学校で校長を6年間務めたのち、内閣官房教育再生実行会議委員や経済産業省「EdTech」委員などの公職も務める。
■2020年4月からは横浜創英中学校・高等学校の校長に就任。
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