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楽天復帰も 田中将大が日本でやり残したこと

ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2021年1月22日 17時20分

楽天復帰も 田中将大が日本でやり残したこと

渡米前に取材に応じるヤンキース・田中将大=羽田空港

話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、ニューヨーク・ヤンキースからFAとなり、今季(2021年)の所属先が注目される田中将大投手にまつわるエピソードを取り上げる。

渡米前に取材に応じるヤンキース・田中将大=羽田空港=2020年2月7日 写真提供:産経新聞社

(楽天復帰は)「全然ゼロでは、僕のなかではないです」「イーグルスのことは、アメリカに行ってからもずっと気にはなっている」

今年(2021年)の元日夜、ニッポン放送でオンエアされた新春特番『田中将大のオールナイトニッポンNY』のなかで、中居正広さんに「今季、楽天に戻って来る可能性は?」と聞かれ、復帰説を否定しなかった田中。この時点では、リップサービスかなとも思えましたが、ここに来て俄然、楽天復帰が現実味を帯びて来ました。

1月18日、楽天・石井GM兼監督が、監督・コーチ会議に出席した際、報道陣に田中の件を聞かれ「まずアメリカの状況がどうなるかわからないので、そこは彼の気持ちを尊重して」と前置きした上で、こうコメントしたのです。

「もし選択が日本ということになれば、もちろん、ウチが『帰って来て欲しい』と言わない理由はない。ぜひとも仙台で、また東北でプレーして欲しいなと思います」

米国でも波紋を呼んでいるらしい、この石井発言の“真意”を考える前に、ここまでの状況を整理しておきましょう。

昨年(2020年)10月29日、米メジャーリーグ選手会は、FAとなった147選手を発表。田中もそのなかに名を連ねました。11月2日までは所属球団のヤンキースに独占交渉権がありましたが、期限までに契約がまとまらず、日本を含めた全球団との交渉が可能になりました(つまり現状、まったくフリーの状態です)。

ただしヤンキースは、12月17日にキャッシュマンGMが会見で「田中との交渉は継続中」と発言。再契約の可能性を匂わせましたが、ラグジュアリータックス(=ぜいたく税、選手の年俸総額が一定額を超えると、上限を超えた分に対して課される)の問題があります。

新型コロナウイルスの影響で無観客試合が続き、大減収に見舞われたヤンキースにとって、余計な出費は何としても避けたいところ。田中サイドが希望する今季年俸は1500万~2000万ドル(約15億6000万~20億7000万)。ヤンキースがその条件を呑むと、ラグジュアリータックスがかかってしまいます。田中のヤンキース残留は、厳しくなりました。

他のメジャー球団も財務状況は同じですから、他のベテランFA選手同様、30代の田中にとっては非常に厳しいオフになりました。昨年オフ、大型トレードでダルビッシュ獲得に成功したパドレスが田中獲得に動いている、という報道もありましたが、先日、田中と同じ先発右腕のJ・マスグローブをトレードで獲得。パドレス入りの可能性はほぼなくなりました。

20日になって、現地メディアは新たに「ツインズ、ブルージェイズ、エンゼルス、レッドソックスが急浮上」とも報じています。ツインズなら前田健太、ブルージェイズなら山口俊、エンゼルスなら大谷翔平の同僚となりますが、果たして田中サイドの望む額が出せるのかどうか? これも微妙なところです。

田中にとって非常に厳しい状況をふまえた上で、さきほどの石井GM兼監督の発言を読み返すと、古巣からのラブコールは、田中サイドにとって「願ってもない朗報」とも言えます。

むろん、田中がメジャーで選手生活を全うしたいと思っているのは、石井GM兼監督も百も承知です。しかし、いまは事態が事態。新型コロナの感染拡大は収まらず、メジャーは今季、無事開幕できるかどうかも不透明ですし、また年俸カットをめぐる労使交渉も完全には妥結していませんので、最悪の場合ストに発展する可能性もあります。

一方日本は、米国に比べれば感染者数は格段に低く、シーズン開催の目途もついています。家族で一緒に暮らすにも、住み慣れた仙台なら安心です。「でも、15億、20億なんて出せるの?」という声もありますが、マー君凱旋となれば、経済効果は抜群。しかもオーナーは、Jリーグ・神戸のイニエスタ招聘にGOサインを出した三木谷氏です。単年なら、オーナー決済で用意することは決して不可能ではないでしょう。

すでに水面下で田中と交渉を行っているでしょうし、GMでもある石井監督が報道陣の前で「帰って来て欲しい、と言わない理由はない」と言ったのです。「いざとなったら、獲得資金を出す」という話がオーナーとの間ですでについている証拠ではないでしょうか。またこの発言は、田中獲得を狙うメジャー球団への牽制にもなります。

もっとも、最終的な決断を下すのは、田中本人です。FA市場はようやく動き出したばかりですし、今後メジャー球団から好条件のオファーが舞い込むかも知れません。一方、楽天は単年での契約もOKという姿勢のようですし、確実に試合開催が見込める日本に1年だけ“緊急避難”するのは、田中にとって大いにあり得る選択肢ではないでしょうか。

となると、今季の楽天の先発陣は「涌井・則本・岸・早川(ルーキー)・田中」の5本柱が揃う超豪華ローテとなります。全員2ケタ以上の勝ち星が見込めますし、そうなれば王者・ソフトバンクも安穏としてはいられないでしょう。ますますパ・リーグが注目されそうです。

あとは、楽天に戻るモティベーションですが、田中には「古巣でやり残したこと」があります。それは「自分が勝っての日本一」です。シーズン24勝無敗という圧倒的な成績で楽天を日本一に導いた2013年、田中は巨人との日本シリーズで、公式戦唯一の「黒星」を喫しました。

楽天が3勝2敗と王手を掛けて、ホーム・仙台に戻って来た第6戦、シリーズ2度目の先発マウンドに立った田中。当然勝って決める……と思いきや、5回、ロペスに痛恨の同点2ラン・高橋由伸に逆転打を浴び、熱投も及ばず2-4で“完投負け”。筆者はこの試合、スタンドで生観戦しましたが、田中の鬼気迫る形相に「日本一を決められなかった自分への怒り」を感じたものです。田中に160球も投げさせた星野仙一監督への批判もありましたが、エースの気持ちがわかるだけに、降ろすに降ろせなかったのでしょう。

翌日の第7戦、星野監督が9回に田中をリリーフで連投させ、胴上げ投手にはなったものの、心のなかでは「先発で勝って決めたかった」という無念さが確実にあったと思います。今回の復帰オファーは、あのときの借りを返す絶好の機会。自分が戻ることで、古巣が8年ぶりの日本一奪回に大きく前進するなら、なおのことです。

ちなみに、2013年のシーズン24勝目は、NPB通算99勝目でした。つまり、復帰初勝利がちょうどNPB100勝目。その瞬間を観てみたい、と思うのは筆者だけではないでしょう。今後の動向に注目です。

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