警備犬を普及させたい!~移住先で不適格犬が女性トレーナーを導いた新境地とは~
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2021年1月30日 21時50分
【ペットと一緒に vol.228】by 臼井京音
東京から山中湖村に移住し、災害救助犬の育成に力を注ぎ始めた川野なおこさん。ところが、災害救助犬に向かない犬を迎えたことで、思わぬ道が拓けました。
今回は、なおこさんとワーキングドッグのエピソードを紹介します。
災害救助犬にしようと迎えたのに……
アメリカで軍用犬や警察犬のトレーニングを学び、帰国後は、同じ訓練施設でともに学んだ夫の信哉さんと一緒に都内で家庭犬のドッグトレーナーとして活躍していた、川野なおこさん。山梨県の山中湖村に移住してからは、主に災害救助犬の育成に励んでいました。
ところが、2012年、ある輸入犬がきっかけで転機が訪れたと言います。
「災害救助犬にする予定で輸入した犬に、何と、災害救助犬としての資質が足りなかったんです(笑)」(なおこさん)
川野夫妻が輸入したのは、災害救助犬のミヤとも血がつながる、ベルジアン・シェパード・ドッグ・マリノアのエナジー。
「フレンドリーな性格のミヤに比べて、エナジーは警戒心が高めでした。その気質が、作業中にリードをはずす災害救助犬にするには不安要素だったんです。とは言え、マリノアは抜群の運動能力と機動力を誇る犬種で、作業意欲に満ちています。そんなマリノアに、何も仕事をさせないのはかわいそうだし、エナジーにベストマッチな仕事はないかなぁ……と、私は頭を抱えずにはいられませんでした」
そう語るなおこさんは、たまたま米軍関係の知人をとおして爆発物探知犬の訓練を見せてもらったそうですが、ピンと来なかったとか。
「野山を楽しそうに駆け回りながら嗅覚を使って仕事を遂行するミヤの姿を思い浮かべながら、こっちは爆薬の有無を地味に探すだけでしょう!? と感じましたね」
ところがその夜、ベッドのなかで思いを巡らせるうちに、なおこさんの気持ちが大きく動いたと言います。
「待てよ! 観客が入る前のコンサート会場や競技会場などでの作業なら、人とそれほど接する必要もないし、爆発物探知犬は人がいる場所でもノーリードにする必要もないし……。何より、マリノアは嗅覚を使う仕事が好き。これって、神経が細やかで集中力が高いエナジーにぴったりの仕事かも知れない」と。
爆発物探知犬について学ぶ日々
爆発物探知犬の育成方法について興味を抱いたなおこさんは、さっそく海外の情報や資料を集めました。
「そこでわかったのは、海外では、イベントやコンサート会場などに、当たり前のように爆発物探知犬や警備犬を入れていることです。私は、エナジーを日本で活躍できる爆発物探知犬として育て上げようと心に決めました」
なおこさんは、爆発物探知犬をアメリカで育成していたトレーナーから、自らのモチベーションをアップさせてもらえるようなエピソードも聞いたとか。
「爆薬探知ができる警備犬が定期的に巡回している施設では、一度も爆発テロが起きたことがないそうです。爆薬探知犬の、犯罪への抑止力の高さも実感しましたね」
こうして、エナジーを迎えたのがきっかけとなり、なおこさんは災害救助犬と並行して爆発物探知犬の育成もスタートさせました。
「するとある日、夫が『気付いたんだけど、日本は欧米のように警備犬が活躍してないよね』とポツリとつぶやいたんです。確かにそうだと思い、そこから話が進んで、一般社団法人 日本警備犬協会を夫婦と有志で立ち上げて、本格的に警備犬の育成にも取り組むことにしました」
犬と一体になれる瞬間に苦労が報われる
現在なおこさんがペアを組んでいる警備犬は、2歳のオスのオト。
「もちろん、犬種はマリノアです。私が四半世紀近く前に初めてトレーニングで関わった、思い入れのある犬種ですから。というか、もう、マリノアに人生を捧げたと表現しても過言ではありません」
そう言って笑うなおこさんは、自分がパートナードッグの足を引っ張らないように気をつけているそうです。
「嗅覚や聴覚などの感覚も、運動能力も、人間は犬には到底かないません。唯一すぐれているのが、頭脳だと思います。人間の上を行くオトの能力を、私が頭を使っていかにサポートするかが、爆発物探知犬のトレーニングのおもしろさでもあり、むずかしさでもありますね。『ちょっとー! 一緒にいるとジャマなんだけど』と、オトに私が捨てられないようにしなくっちゃ(笑)。そのために、一晩中、トレーニング法の作戦を練ることも少なくありません」
なおこさんは、オトが爆薬の臭いを冷静かつスピーディーに探している姿を見て、美しいと感じるとも。
「慎重に、そして細やかに作業を進めるオトが、対象物を見つけた瞬間だけ興奮を高めて喜びあふれる視線を送って来ると、『よし、やったね!』と犬との一体感が得られます」
このようにチームとしての達成感を味わえるのが、犬の嗅覚を活かす仕事の醍醐味に違いありません。
犬の存在が地域にも恩返し!?
川野夫妻が警備犬の育成を始めてから、近隣住民に声をかけられて気づいたことがあるそうです。
「山中湖周辺は別荘が多いため、空き巣被害が絶えません。けれども、見るからに愛らしくなく、ブラックマスクで鋭い眼光を放つマリノアたちが“警備犬”の文字を携えて村内を行き交うからか、空き巣や泥棒事件が発生しなくなったと言うのです」
犯罪への抑止力となる犬の力を、あらためて実感しているという川野夫妻。今後は、スポーツの競技大会でのサポート役となれるような、麻薬探知犬の育成も行っていきたいと意気込みます。
連載情報
ペットと一緒に
ペットにまつわる様々な雑学やエピソードを紹介していきます!
著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。
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