なぜ第1波のときに議論しなかったのか~感染症法改正案、自民・立民合意
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2021年1月29日 21時50分
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(1月29日放送)に内閣官房参与で外交評論家の宮家邦彦が出演。中央大学法科大学院教授の野村修也を電話ゲストに招き、自民党と立憲民主党が感染症法の改正案を修正することで合意したニュースについて解説した。
感染症法の改正案~刑事罰撤回で自民党と立憲民主党が合意
自民党と立憲民主党は1月28日、新型インフルエンザ等対策特別措置法と感染症法の改正案を修正することで合意した。感染症法の改正案に盛り込んだ刑事罰は撤回する。入院に応じない感染者への懲役は削除し、罰金は行政罰の過料に切り替える方針だ。なお、過料は特措法改正案に規定したものを含めて減額する。
飯田)国会審議の前にこのように交渉で決まって行くという形のようですね。
宮家)民主主義ですから、こういうこともあって然るべきだと思いますが、「国会対策がうまいな」という感じがしますね。
飯田)確かに、少し前まではいろいろなところでぶつかっていましたよね。
宮家)国会審議ではガチンコだけで法律はできませんから、こういう形でうまく政治的に処理されたのだと思います。
譲ることを想定した政府の戦略的な作戦
飯田)法律的な観点からどうなのか、中央大学法科大学院教授の野村修也さんにお電話で伺います。野村さん、おはようございます。
野村)おはようございます。
飯田)刑事罰の問題が出て来て、それが撤回されましたが、この流れをどうご覧になりましたか?
野村)立法するときに、もう少し事前の準備が行われるべきだったと思います。というのも、刑事罰などを科すときには、立法事実という言い方がありまして、国民全員が「こんな酷い事例があるのであれば、やはり罰則が必要だ」ということを理解できるようにするために、きちんとした調査が行われる必要があります。しかし、今回、菅政権は「この改正は新型コロナが終わったあとにゆっくりと改正する」と言っていたので、改正の準備が十分整っていなかったのだと思います。それが急に前倒しになったので、丁寧な議論がないまま始まってしまったということが、こういう事態になっている1つの要因だと思います。
飯田)そうすると、この形になったのも、落ち着くところに落ち着いたということになるのですか?
野村)宮家さんがおっしゃったことと、同じ考えなのですけれども、そういう形で国会審議に入るので、ガチンコでやったら本当に厳しい国会論戦になったのだと思います。そうならないために、おそらく最初に相当高い玉を投げたのではないでしょうか。譲ることをある程度想定していたのだと思うのです。そうして、「与野党合意から進めば、通すことができる」という戦略的な対応だったのではないかという気がします。
飯田)なるほど。宮家さんもスタジオにいらっしゃいます。
日本が有事に厳しい行動制限をかけられない2つの理由~ハンセン病と戦争の失敗
宮家)野村さんのおっしゃる通りなのですが、諸外国の例を見ると、やはりまだ日本は緩いと私は感じます。議論は確かに大事ですが、こういうときに日本の法制度の弱点が出ます。そういう気がしますが、いかがでしょうか。
野村)私もその通りだと思います。基本的に日本の場合、1つは感染症法での入院に関しては、ハンセン病の失敗もあって、かなりセンシティブになっているところがあるのです。それから、「ロックダウン」という言葉が諸外国で使われていますが、日本は行動制限について罰則を持って禁止することを行って来なかった。日本は有事について議論することをタブーにしているところがあって、これが出てしまっているのです。だからこそ、国民に理解してもらうために、「有事のときには必要なのだ」ということを積み上げて行く作業が必要だったのです。結果として、私も緩くなったなという感じがしています。
議論をするべきときにしない日本
飯田)有事と平時をどう分けるか。
宮家)しかし、少し言い過ぎかも知れませんが、結局日本は有事になって、黒船が来て、外圧があって、どうしようもなくなって、それで初めて変わる国です。おっしゃる通り議論はしなくてはいけないのだけれども、議論をしなくてはいけないときには、議論をしたくない人がいるのですから、結局、議論はしないのですよ。その結果、直前になって、現場でドタバタして外圧で決まるということです。日本もこれをやめれば、きちんとした議論ができるようになると思うのですが。
「蔓延防止等重点措置」がつくられる背景とその曖昧さ
飯田)今回は有事と平時の間のような感じで、「蔓延防止等重点措置」というものができるそうですが、これはどう理解したらいいのでしょうか?
野村)緊急事態宣言が出る前に、知事がいろいろなことをやっていますでしょう。この知事のやって来たことと、緊急事態宣言が出たときの基本的対処方針に基づく国の政策がバラバラで調整がつかないわけです。だから、その事前の段階で国が出て来て、今回これは基本的対処方針のなかに書いて、緊急事態宣言ではないけれども、それについては総合調整を行って、「知事が従わないときは、知事に対して指示を出せる」というところで、国が主導権を握れるようにしようとしたところがあるのです。
知事が使って来た「24条9項」を整理しなければ、同じことが繰り返される~国と地方の関係も未整理のまま
野村)しかし、それであれば、これまで知事が使って来た24条9項という、「オールマイティに知事がいろいろなことを要請できる」という条文を整理しなければいけないのです。それを残したままだと、同じことが繰り返されます。時期が前倒しされるだけなのです。そして、結局のところ、要件が曖昧になってしまっているので、いつからそれができるのかということもはっきりしませんし、緊急事態宣言との関係もはっきりしなくなっている。
飯田)なるほど。
野村)今回の改正は先ほども申し上げたのですが、もともと立て付けが悪いものを、本格的に整理しようという本腰が入っていないのです。私はもっとしっかり法改正の準備をすれば、この立て付けから根本的に変えることができたと思います。国と地方の関係も未整備のままというのが今回の改正だと思います。
飯田)なるほど。ではこれは、コロナが終わったあとかはわかりませんが、もう1度改正しないとまったく使いものにならないかも知れませんね。
第1波が終わったときになぜ議論しなかったのか~喉もと過ぎれば議論しない日本
野村)そこが宮家さんがおっしゃったところなのですよ。喉もと過ぎれば、日本は議論をしないのです。第1波が終わったときに、「なぜ議論をしなかったのか」と思います。そうすれば、もっと強制的な措置で収束することができたかも知れないのです。伝家の宝刀を持っておかなくてはいけないのです。今回はコロナウイルスですが、いわゆる第1種病原体のようなものが入って来たときに、こんな生温いもので大丈夫なのかということなのです。
飯田)エボラ出血熱のような。まさに本物の有事ですよね。
野村)そうです。アメリカなどは、これを完全に災害としていて、そういう場合は緊急措置が取れるということは、有事体制そのものなのです。自然災害も、戦争も、パンデミックも、本当に厳しいものについては、総合的に。統一的にルールができ上がっているのです。しかし、日本だけ、パンデミックはなぜか緩い感じになっているのです。
宮家)それは国家安全保障の問題ではないから……。
飯田)国家安全保障ではない。
宮家)しかし、本来これは国家安全保障の問題なのですよ。それでも議論が出来ないのは、結局、誰かの既得権だからなのですよね。日本で改革を止める、もしくは遅くする最大の原因は既得権です。それは基本的に各国とも同じなのですが、そこは日本も頑張らなくてはいけないですね。
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