台湾をきっかけに起こり得る「米中衝突」~「台湾有事=即日本有事」を忘れてはならない
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2021年3月6日 11時35分
台北市の総統府で記者会見する蔡英文総統=15日(共同)
ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(3月4日放送)に朝日新聞編集委員で元北京・ワシントン特派員の峯村健司が出演。中国の立法機関である全人代が開幕されるというニュースについて解説した。
中国全人代が開幕
3月5日、中国の立法機関、全国人民代表大会(全人代)が開幕する。毎年年に1回、憲法改正や法律の制定、予算案の承認などが行われるが、今年は2021年~25年までの中期経済目標「第14次5カ年計画」や香港の選挙制度の見直しなどが議論される見通しである。
飯田)2020年はコロナで5月だったのですが、今年(2021年)は例年通りというところになっております。どこを注目しますか?
2021年の全人代を予定通りに開催するために強制的にコロナを抑え込んだ
峯村)まずはこの日程ですよね。前回(2020年)はコロナ禍で5月に延期しました。全人代を延期したのは、ここ40年くらいで初めてのことだったのです。日本から考えると、「大した話ではないではないか」と思うかも知れませんが、予定通り3月5日に全人代を開けるかどうかというのは、いまの政権運営がうまく行っているか行っていないかという、1つの基準になるのです。前回2ヵ月伸びたというのは相当なダメージだった。そこから考えると、「今年は何としてでも予定通りやるのだ」ということで、コロナの抑え込みも強制的な形でやってこぎつけた。そこは注目するところです。
飯田)初期のコロナ対応では、李克強首相が目立っていたりしました。そんなところから「習近平氏の権力基盤が揺らいでいるのではないか、崩壊は近い」というようなことも含めていろいろと言われましたけれども、これはもう盤石ということになりますか?
コロナの初期対応に失敗した習近平政権
峯村)コロナが発生した1ヵ月、2020年の2月末くらいまでは、習近平政権は厳しい状況に追い込まれていました。最近は明らかになっていますが、中国政府が初動でいろいろな情報隠しをしていました。当時、習近平国家主席が外遊していて、帰国してからようやく対策を取ったということで遅れ、内外からの批判が高まっていました。あのときは厳しい政権運営だったのですが、その後、戦略を立て直して、とにかく、力づくで抑え込みました。「抑え込むことによって、経済も回復させる」という計画がうまく行き、いまは持ち直している状況です。
世界を米中で管理する「新型大国関係」~ハワイを真ん中に西側を中国が管理する
飯田)香港の話などいろいろと出ていますが、その先には台湾も含めてあるわけではないですか。全体の習近平政権の安全保障戦略は膨張して行く形になるのですか?
峯村)習近平氏自身が就任してから掲げているのは、「大国外交」というキーワードです。「世界の大国は、我が国とアメリカしかない」と。アメリカとは、まず手を握る。そしてその他の国々については「我々が政治的・経済的に影響力を強めて行くのだ」というのが大きな方針です。この拡張して行く路線は変わらないと見ています。
飯田)そうすると、2008年辺りに最初に出て来たとされる、「太平洋分割論」が現実味を帯びて来るということになりますか?
峯村)太平洋分割論、「ハワイを真ん中にして西側はうちだ」と、「東側がアメリカさんでどうだ」という話は、進んで行くと見ています。そのときにあわせて出て来た言葉が「新型大国関係」です。つまり、「2つのこの大国で世界を一緒に管理して行きましょう」ということだったのです。中国の目標、分割するということは、言い換えると、「太平洋の西側からアメリカを追い出す」ということなので、その戦略を進めて行くのだろうと考えています。
アメリカは他のいかなる国の覇権も認めない~台湾問題に注視
飯田)その方針に沿ってさまざまな装備も整備して来た。峯村さんのスクープにもありましたが、空母をつくっている、新しい戦闘機がこういうものだというようなことも出て来ました。一方で、アメリカはそれを許さないということですよね。
峯村)アメリカの有識者や政府の人に「世界を中国と一緒に管理するという考え方はどうなのか」と聞くと、ほぼ100%の人がダメだと言います。アメリカの覇権が重要であって、他のいかなる国の覇権も認めない、というのがアメリカのスタンスです。一方の中国は、アジア地域での覇権を獲りたい。両国は必ずぶつかる運命にあるとみています。
飯田)そのぶつかり合いが、いろいろなところで燻りつつあるなというのが、朝鮮半島もそうだし、人によっては中東のイランのところもそうだと言う人もいますが、やはり東アジアの正面で言うと、日本や台湾ということになりますか?
峯村)特に注視しているのが、台湾問題です。中国政府にとって、台湾統一こそが最も重要な政策課題です。これは、習近平政権が発足したときに掲げられた「中国の夢」というスローガンのなかで最重要の目標なのです。「これを実現しなければ、我が政権としては失格だ」という意識を彼らも持っていますし、党内、国民からも思われているということを考えると、統一は是が非でもしなければいけないと考えています。そうなると、来年(2022年)の中国共産党大会というのは非常に重要な大会になります。
飯田)来年ですか。
峯村)そのためにも、今回の全人代は重要なのですが、来年、何があるかと言うと、前々回の全人代のときに、習近平氏は中国の憲法を改正して、2期10年という国家主席の任期を撤廃したのです。次の3期目もできるようにした。本当にその通りやるのかどうかという意味でも、非常に重要なポイントになります。今回の全人代はしっかりとした権力が固まっていて、「次の3期目まで行けるぞ」ということを示すための1つの会議であって、だからこそ、是が非でも日程通り開くということなのです。
「台湾を獲るためには2期10年では短い」ことを任期延長の理由にした習近平主席
飯田)諸説ありますが、任期を延ばすための口実としたのが、「台湾を獲るためには2期10年では短い」ということで、そのために撤廃をしたという話もあります。そうすると3期目に入ったら、いつ動いてもおかしくないということですか?
峯村)私は、その話を日本で最初に書いた記者だと思っているのですが、任期延長のときには、相当党内でも反発があったのです。毛沢東以来、集団指導体制をやっていて、「そんなことをしたら、また毛沢東時代に戻るではないか」ということで批判があったのです。そのときに党内を説得するために言われた一言が、台湾問題を……彼らの言葉で言うと「解決するのだ」ということで、党内を納得させたと聞いています。裏を返すと、「解決しなかったらどうなるのですか?」ということですよね。
「有事の際には尖閣諸島・台湾を防衛する」というトランプ政権の内部文書をスクープ
飯田)そこがあるからこそですかね、トランプ政権の内部文書がスクープされましたよね。
峯村)これまで機密指定とされていたトランプ政権の文書なのですが、1月13日の朝日新聞の紙面でスクープを、世界のメディアで最初に出しました。この1つの意義としては、これまでアメリカの台湾政策はかなり曖昧だったのです。台湾と関係はいいけれども、「中国との有事が起きたときには関与する」としか言っていなかったのですが、この内部文書では、はっきりと「防衛する」と書いています。これはホワイトハウスの高官に取材したら、「尖閣諸島も含める」と言っていたということです。そういう意味で、「尖閣諸島・台湾を有事のときには防衛する」という文書を公開する意義が私はあると思ったので、政権の人間とも調整をしながら、スクープにこぎ着けたわけです。
「台湾有事=即日本有事である」ことを忘れてはならない
飯田)そうなると、米中がぶつかり合う正面に日本が居ると。日本としても、どうやってそれに対応できるのかということも含めて、特にこの憲法下でできるのかということを議論しなければならないですよね。そして議論だけでいいのかという話ですね。
峯村)議論もまだきちんとしていない状況なので、手遅れになる前に、若干遅れ気味だと思いますが、議論しなければならないと思います。私は官僚の方、政治家の方、企業の方に台湾有事という話をすると、「え? 台湾ですか」という感じのリアクションをされることが多いのです。「日本は関係ないですよね」と言われることが多いので、「いやいや違います」と。台湾有事が起きたとき、まずアメリカ軍が関与する、しないとなったときに、その出発する最前線は日本にある在日米軍基地になるわけです。そうなると、中国としてもそこに対して圧力をかけたり、ミサイルを撃つこともあると考えたら、もう「台湾有事=即日本有事である」ということを決して忘れてはいけないと思います。
「経済安全保障」という概念
飯田)そのやり方も直接にということではなく、日本を経済的に干上がらせて補給できなくする、ということも考えられるわけですよね。
峯村)つい有事というと、ミサイルが飛んで来る、空母が来ると考えますが、むしろ私が怖いのは、経済的な手段。例えば海上封鎖とか、輸出禁止とか、新しい言葉で言うと、「経済安全保障」という概念なのですが、戦争一歩手前のグレーの圧力。形を変えた武器による圧力の可能性にいちばん対策を取らなければいけないと思っています。
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