ミャンマーのクーデター、スエズ運河の貨物船座礁にもマーケットが反応しない理由
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2021年4月1日 17時40分
ミャンマー第2の都市マンダレーで、国軍のクーデターに抗議して行進するデモ隊(ミャンマー・マンダレー)
ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(4月1日放送)にJPモルガン証券・チーフ株式ストラテジストの阪上亮太が出演。米バイデン大統領が8年間で220兆円規模のインフラ投資を提案したというニュースについて解説した。
アメリカのバイデン大統領、およそ220兆円規模のインフラ投資提案
アメリカのバイデン大統領は現地3月31日、ペンシルベニア州ピッツバーグを訪れ、8年間で合計2兆ドル(約220兆円)規模となるインフラ投資計画の提案について演説を行った。
飯田)企業増税でその財源を賄うということで、演説では「数百万人の雇用を生み、中国との国際競争に勝てるようにする計画だ」と強調。議会に早期実現を呼びかけたということであります。これについて、概要はすでに出ていたと思いますけれども、中身に関して基本的には同じですか?
阪上)そうですね。事前に想定されていた通りのものが出て来たという感じです。市場としては、すぐに消化できない。あくまで提案で、アメリカの場合は、大統領が提案したものを議会で議論しながら形を変えて行きますが、輪郭がどうなるか、中身がどうなるかということについても、これからの議会次第です。特にいま、アメリカの上院は民主党と共和党が拮抗した状態になっていますので、共和党サイドがどう出るかというところにもかかって来そうです。
増税を先延ばしにして、前倒しでインフラ投資という方向も~共和党との折り合い
飯田)共和党がどう出て来るか。共和党は元来、小さな政府を目指すと言われているので、このような巨額の投資には反発を示しそうだと素人目には思いますが。
阪上)そうですね。特にアメリカの共和党は、増税に対するアレルギー反応が強いです。そうすると、増税もセットになった提案は、簡単には行かないということになると思います。ただ、一方で共和党も政治家ですので、歳出が増えて、地元が潤うというところで、やりたいということもあるでしょう。増税を先延ばしにして、財源のところはともかく、「まず前倒しでインフラ投資」という方向に行く可能性もあると思います。
飯田)確かにインフラ投資の部分だけで考えると、トランプさんも相当巨額を入れてやるのだとしていた部分もあります。その流れとしては同じということでしょうか?
阪上)そうですね。そこの流れは変わらないです。だから、あとは財源をどうするかという問題だけだと思います。
金融政策と財政の併用が世界の流れ
飯田)先日もコロナ対策での経済パッケージということで、現金給付も含めてやったばかりですが、アメリカは財政出動をやるとなったらものすごい額をやりますね。
阪上)余裕があるというのはありますね。これまで財政出動をある程度、抑制して来たので、やろうと思えば大きくやるというところがあります。それに加えて、やはりコロナ対策もそうですが、少し政策のタガが外れて来ている。「これだけ大変なときなのだから、巨額の歳出が認められるのだ」となっている部分もあると思います。
飯田)世界各国、財政と金融の両方をやって行かなくてはいけないという流れが強まっているように見えますね。
阪上)金融政策というのは、漢方薬のようなもので、長い時間をかけて体力を向上させることはありますが、直接的な効果はありません。一方で財政は直接的に支出した分だけ経済を刺激するということになりますから、これを併用するのが最近の世界の流れになっています。
他国と比べると日本の対策規模は小さい~GDPに対する押し上げ効果も少ない
飯田)そこで世界各国、お札も刷り、支出をするというなかで、日本の対策規模はどうでしょうか?
阪上)日本にしては頑張っていると思います。そして、従来の日本の財政出動と比べればというところですが、日本も少しタガが外れて来ています。しかし、アメリカや中国など他の国と比べると、規模感では見劣りする感じだと思います。
飯田)日本の経済規模、GDPとの対比で見るとどうでしょうか?
阪上)GDPとの対比で見ると、どう計算するかというところはありますが、GDPに対する押し上げ効果としては、これも欧米と比べると小さいということになると思います。
飯田)日本国内では、財政出動が出ると、どうしても無駄遣いだという話が出ますが、マーケットの反応や見方は逆なのですね。
阪上)そうですね。もともと財政出動はあまりやらないほうがいい、財政出動をやり過ぎるのはネガティブだと言われていたのですが、財政出動をして金融緩和をするのを素直に好感するというのが、最近の流れだと思います。
マーケットでは地政学リスクは織り込めない
飯田)この先の見通しとして、2021年、2022年とIMFもよくなるという見方をしています。一方で地政学上のリスク、バイデンさんも今回の経済パッケージで中国との国際競争ということを言っていますが、この辺りをマーケットはどこまで織り込んでいますか?
阪上)地政学リスクについては、どうなるかわからないということがありますので、基本的にはマーケットはなかなか織り込めないのです。経済的な材料に対しては先読みで対応しますが、地政学リスクに関しては、本当に顕在化して、紛争などが起こってからマーケットは反応します。そういう意味では、地政学のほうがより市場にとってリスクが大きいということだと思います。
飯田)かつサプライズのように突然来るということですか?
阪上)読めないですから、「地政学リスクがあるからこうだ」と事前に考えることはなかなかできないというところはあります。
ミャンマーのクーデターやスエズ運河の貨物船座礁にもマーケットは反応していない
飯田)そして目下のところで言うと、ミャンマーのクーデターで、3月31日にアメリカ国務省の職員などにも退避命令が出たという話もありましたが、この辺りはどこまで影響がありますか?
阪上)影響としてはそんなに大きくありません。特にいまの状況は平時ではありません。これだけ経済が落ち込んでからの回復過程に入っているので、大きな流れとして経済回復の流れがある。そういうなかでの悪材料、言うなれば誤差の範囲という捉え方がされていると思います。だから、最近ではマーケットがそういう材料に対してほとんど反応しないのです。
飯田)スエズ運河の貨物船の座礁なども、それほど反応しなかったのでしょうか?
阪上)反応していないですね。それが最近の傾向です。他の材料がないときであれば、1つ1つそういう材料に対して反応するのですが、いまはしません。為替がこれだけ円安に動いています。それに対してもほとんど反応しないのです。何もないときであれば、円安に動けばそれだけ収益が上がる。例えば105円が110円になれば、日本企業の収益で言うと4%~5%の押し上げになる。ただ、いまは大きな流れとして、2021年の日本の企業収益は5割増くらいなのです。その5割増が見えていると、数%の影響は「誤差の範囲」という捉え方になってしまうのです。
飯田)アメリカも日本も金融緩和を続けているなか、日本が刷り負けるのではないかという説、それによって円の価値が高まって円高に行くのではないかという話も一時期出ていましたが、これは長期的にどうでしょうか?
阪上)長期的にはやはり円高のリスクが残っていると思います。もともとドルが安くなって行くということを市場は見ていて、それに当て込んだポジションを取っている人がたくさんいたと思います。思いがけずアメリカの金利が上がって来て、これがドル高要因になり、いままでの見込みが外れたとなって、ポジションを巻き戻すというか解消する動きが出ていて、それがいまの円安の動きにもつながっているのだと思います。ただ、長い目で見ると、財政を出すか、金融緩和をするかというところで、方向としては、ドル安という可能性は十分あると思います。
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