森元会長の蔑視発言の根底にあるのは「ホモソーシャル」社会……日本の「ジェンダー問題」を考える
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2021年4月1日 20時10分
ニッポン放送「垣花正あなたとハッピー!」(3月8日放送)に、都内を中心に30社以上の企業で産業医として活動する大室正志氏が出演。ニッポン放送がフジテレビ、BSフジと共に国際社会共通の目標である持続可能な開発目標(SDGs)について考えるプロジェクト「楽しくアクション!SDGs」のなかで、今回は「ジェンダー問題」について解説した。
「ホモソーシャル」の“ノリ”を社会の「中心」に持ち込むな
垣花)SDGsの17の項目のうちの5番目に「ジェンダー平等を実現しよう」という項目があるのですが、何と言ってもこれは森喜朗元東京オリンピック・パラリンピック組織委員会会長の発言によって改めて世界的にも大きく取り上げられましたし、自分たちでもどうなのだろうと考える機会にはなりましたよね。大室さんは改めてあれをどう見ましたか。
大室)はい。あれはですね、あの話を見るためにまず1つキーワードとして挙げさせていただきたいのは、「ホモソーシャル」という言葉があるのです。「ホモセクシュアル」とは違う「ホモソーシャル」です。「ホモ」という言葉は「同じの」という意味で、「ソーシャル」というのが「連帯」とか「社会の」という意味ですけれども、要するに「同じものの連帯」。ここで言うところの「男同士の連帯」という意味ですね。体育会系の社員なんていうのが典型的ですけれども、「こうだよな」と言った時に、みなそこで盛り上がるみたいな。芸人さんとかだと、「いまからキャバクラいくぞ!」とか言いますけれども、あれは別に女性と喋りたいから行っているのではなくて、男同士で「連帯」したいから行っているのですね。
この“ノリ”が日本の「中心」で行われている。これが問題になります。例えば森会長って「気配りの人」とか「サービス精神の人」とか言われているじゃないですか。じゃあ、なんであんなに気配りでサービス精神の森会長があんなことを言ったかといったら、目の前にいる「男性同士」、「おじさん」にサービスをしたかった。「女性は話が長い」「わかるわかる!」と「おじさん」たちがそこで盛り上がると。
垣花)あれが「気配り」だったと、むしろ。あの集団のなかで。
大室)普通に考えると不愉快な発言ですよ。ですけれども、あの集団のなかの「連帯」においてはむしろ「連帯」を強化する発言になってしまった。だから、進学校の人が進学校同士で同窓会したら楽しいじゃないですか。みんなで「サウナ行くぞ!」とか楽しいんですよ。勝手知ったる、自分に似た人たちで集まると楽しいんですが、それは「嗜好品」で、「趣味」でやってくれればよくて、社会の「中心」にその“ノリ”を持ち込むな、という話なんですよ。
垣花)社会の「中心」、あるいは会社の「中心」に、そういう“ノリ”を持ち込みがちなのが日本なんですね。
大室)特にこれが男性の場合。経団連系のパーティに呼ばれて行ったことがあるのですが、帝国ホテル1000人くらいいるところで990人おじさんでした。だからやはりある程度要職者になればなるほどこういう世界なのだなと。自分たちで気付かない。ゴルフで決まったこと、喫煙室で決まったことがそのまま翌日会議で普通に決まったことのように話されている。でも自分たちはそれ悪気ないのですよ。
垣花)仲間だし、昔から知っているしという。
大室)勝手知ったる仲でやれるのは心地いいのですけれども、そればっかりで同じ集団で集まっていると、いまのような複雑化した世の中には対応しにくい。だからジェンダーギャップもしっかり解消していかなければならないと思います。
女性管理職に「なりたくない」のは、男性に最適化された社会環境だから
垣花)だからこういったものが女性の社会進出の妨げになっていると言ってもいいわけですね。
大室)そうですね。よく「女性の管理職って、なりたくない人が多いのです」ってデータとか出されるのですが、「いまのルールだとね」という。
垣花)そういうことですね。
大室)だから男性は全部家事は誰かがサポートしてくれて、夜は皆で飲みに行って、自由に動けて、それでも女性が家事とかを疎かにするとめちゃくちゃ叩かれるわけです。これ無理ゲーじゃないですか。そんななかでやりたくないよ、という意味なのです。だから「女性は管理職になりたくないです」なんて単純に受け取るべきではないということです。
垣花)そういう空気感、同調圧力、まさに「ホモソーシャル」のなかでは無理なのです、ということを受け取らなければならない。そこからなんですね、まずジェンダー問題の考え方というのは。
大室)そうですね。まずいま自分たちが当たり前のように暮らしているのがいかに男性に最適化された、特にビジネス関係や政治環境ですね。特に男性に最適化された環境であるということを、男性も女性もまず理解する。ここからじゃないかな、と思います。
垣花)これは政治に限らず、例えばいま自分が所属している会社でも集団でも何でもいいのですけれども、そういうところのなかでそういう「ホモソーシャル」的な考え方や風潮がないかというのを考えてみるというのも一歩だと思います。
すべてを縛る「謝罪文化」
垣花)他に、我々1人1人がすぐに取り組める「ジェンダー平等」などはありますか。
大室)すぐ取り組めるというところでいったら、いま制度的にはかなり「ジェンダー平等」の方に国がいっていますので、例えば企業のなかで言ったら、男性でも育休なんかが取れるような制度になっています。そのときに、やはり取ってみるべきだと思います。そういうような制度は使わないと。日本の場合って、恐る恐る使うのです。「ノー残業デー」ができたといっても、「本当に使っていいのかな?」となったり。だから、制度はあっても、やはりみんなが使ってみないと、「本当かな?」というところがもう1段階あるので、そこのところが個人でできることかなと。
垣花)「使ってみない」という段階でまだまだですよね。堂々と使って当たり前じゃないといけないわけですものね。
大室)あと僕がよく言うのは、制度を使うときに、例えば女性なんかでも、「すいません、私、時短なので、帰ります」って言って帰りますが、あれ当然の権利ですよね。お子さんを生むとか、社会を持続させるために。
那須恵理子)「申し訳ない」って、「また迷惑をかけて」って言うそうですね。
大室)でもあれ、別に謝る必要なくて、誰かに(代わりを)やってもらったら「ありがとうございます」でいいんですよ。だから僕、謝罪じゃなくて感謝にしましょうと言っているのです。
垣花)なるほど。しっかりとした制度で休暇を取ったにも関わらず、復帰するときに「ご迷惑をおかけしました」とかついつい言ってしまったりとか。
大室)そうですよ。男性男性と言ってきましたが、ナースなんて女性の集団が多いのですが、ナースの病棟って、大病院ですら風邪で1日休むと菓子折り持って「きのうはすいませんでした」と書いておくのです。いまだに。そういう病院、けっこうあります。
那須)そうなのですか、先生も見てらっしゃると。
大室)風邪ですよ。「昨日はありがとうございました」でいいじゃないですか。だからこの謝罪文化というのが、僕らを非常に縛っている。だから「迷惑かけてすいません」でなく、当然の権利なのだから「ありがとうにしましょう」と。「謝罪でなく感謝にしましょう」と。
垣花)そういう意味で、だんだん社会が、まず最初は形だけに捉えられるかもしれませんが、制度ができてきましたと。休暇の制度もある。だったらどんどん使って、使った後は「ありがとうございました」でOKで、「すみませんでした」はやめましょうというところから始めるというのも。
大室)大きいです。いつも謝っていると自己肯定感も下げますので。「私は悪いことをしているのだ」と、それを子育て中の働いている女性にすごく言われます。
那須)なんか後ろめたさというか。
大室)檻の様に溜まっていきますよね。
垣花)自己肯定感を下げる謝罪ではなくて、制度をつかった後はありがとうございましたと。
那須)皆がそれをやっていけばいいことですものね。
垣花)でないと、せっかくいま盛り上がっている機運というか、作りかけられている制度みたいなものが形骸化してしまう。
那須)結局つかわなければ制度もなくなっていってしまうということですものね。
大室正志
産業医科大学医学部医学科を卒業後、都内の研修病院勤務を経て、産業医科大学産業医実務研修センター、そしてジョンソンエンドジョンソン株式会社の統括産業医などを経験。現在では30社以上の企業で産業医として活動。
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