「風評被害が心配」と言いながら自ら風評被害を煽るメディア~福島原発処理水報道の問題点
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2021年4月7日 11時35分
東日本大震災で事故を起こした東京電力の福島第1原子力発電所構内を視察し、多核種除去設備(ALPS)で浄化処理した汚染水を手にする菅義偉首相(左)。奥左は3号機 =26日午後0時6分、福島県大熊町
ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(4月7日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。菅総理が全国漁業協同組合連合会の岸宏会長と会談するというニュースについて解説した。
菅総理が原発処理水問題で全漁連会長と会談へ
菅総理大臣は4月6日、全国漁業協同組合連合会の岸宏会長と7日に会談する方向で調整していることを明らかにした。東京電力福島第1原発から出る放射性物質トリチウムを含む処理水の処分方針について、意見交換する見通しだ。
飯田)この処理水をめぐって、政府は、人体に影響が出ないレベルまで薄めて海に放出する方向で検討しているということですが、漁業者の方は、風評被害を心配されているということです。
メディアの風評被害の報じ方が大きな問題
佐々木)メディアが報じるときに、「風評被害が心配」と言うけれど、「誰がその風評被害を流すのか」ということです。トカゲが自分の尻尾を食べているような報道の仕方が、大きな問題だと以前から思っています。
除染から甲状腺ガンの検診まで、当時は「過剰」にやらざるを得なかった
佐々木)民主党政権時代に原発事故収束担当大臣だった細野豪志さんが『東電福島原発事故 自己調査報告』というタイトルの本を刊行されて、話題になっています。その本のなかで指摘されているのは、あのときは緊急事態だったので、いろいろなものを過剰にやってしまったということです。例えば「除染目標年間1ミリシーベルト」について、「そんなに必要ないだろう」と言われたのだけれど、そのくらいやらないとみんなが合意してくれず、除染を進めることができなかった。甲状腺ガンの検診についても、やらなくてもよかったのだけれど、やらないと納得してもらえなかったと書かれています。
原発処理水問題~ゴールをつくれなかったのが最大の問題
佐々木)この原発処理水の問題も同じです。あそこで放出するという判断はできなかったから貯めるしかなかったのだけれど、除染目標にしてもタンクにしても、甲状腺ガンにしても、「いつまでその過剰な緊急事態的な対応を続けるのか」ということです。「ゴールをつくれなかったのが最大の問題だった」と思います。10年経ってもまだやっているのかという話です。どこかでやめなければいけないのだけれど、やめるとなるとまたそこで風評被害が起きてしまうということで、がんじがらめになっていて、動かなくなってしまっている。
トリチウム水は健康には問題ない
佐々木)処理水の問題ですが、世界中でトリチウム水は流されています。トリチウムは取り除かなくても自然な水と同じものですから、健康には問題ありません。ALPSで処理をしたタンクに貯まっている水は、まだ若干他の核種も混ざっているのだけれど、これは2次処理と言って、もう1回ALPSを通せば問題ないのです。あらゆるところで検証され尽くしていて、科学的には何ら問題はない。いまさら議論する話でもないわけです。
なぜ風評被害が起きるのか~メディアが自分たちの問題を解決しなければ進まない
佐々木)未だに「危険だ」と言っている人もいるのですが、そんな声は、いまさら聞く必要はないと思います。「なぜ風評被害が起きると全漁連や地元の漁業者が考えているのか」というところを、もっと掘り起こさなければならないのです。なぜ起きるのかと言うと、「流した」と大騒ぎするからです。そうすると、みんな不安になるから魚を買わなくなるという話になります。その「流した」と大騒ぎするのはメディアなわけです。だから結局、メディアが自分たちの問題を解決しない限り、この問題は前に進まないのです。でも、報じる側は自分たちの問題を一切書かない。このがんじがらめな状況からどう脱却するのかという話ではないかと思います。
飯田)地元の小名浜の漁協の方や福島で漁業や農業をやっていらっしゃる方は、この放射性物質の特性、どういう形で人体に影響を及ぼすことになるのかということにはとても詳しい。わかっているのですよね。
佐々木)東京にいる人間やメディアなどより、皆さんずっと詳しいですよ。
地元の漁業者は「トリチウム水が汚染されているから反対」とは言っていない~問題なのは風評被害
飯田)ファクトとして、「こういうことがある」ということをわかった上で仕事をされている。でも「風評被害のイメージに流されてしまうお客さんがいる」というところで心配しているわけです。
佐々木)漁業者の声明などを聞いていると、「(トリチウム水が)汚染されているから反対」とは、一言も言っていないのです。
飯田)そこの心配が本当は大きいはずなのですよね。
佐々木)「風評被害が心配」と言っているわけで、そこを見なければいけないのです。
飯田)彼らは政府の基準より厳しいモニタリングをしていて、汚染された魚がもし出たら絶対に出荷しないし、即座に公表すると言っています。
処理水タンク問題~菅総理が政治判断するしかない
佐々木)「風評被害が起きます」と言いながら、自分たちが風評被害を煽っているというのは、まるで火事のときに自分たちが火をつけておきながら、「政府には火消しが求められます」ということを言っているようなものであるわけです。これはメディアが変わらない限り、乗り越えられない問題です。一方で、これも以前から指摘されていますが、タンクを置く場所がもはやなくなって、今年度(2021年)内には解決させないと、もうどうにもならない状況です。ここは最終的な政治判断を菅首相が頑張ってやるしかないのではないかと思います。
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