今後の日本政治に必要なのは文系リーダーよりも「理系リーダー」~デジタル改革関連法案が衆院通過
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2021年4月7日 17時30分
ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(4月7日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。デジタル改革関連法案が衆議院本会議で可決されたニュースについて解説した。
衆議院本会議でデジタル改革関連法案が可決
政府・与党が重要法案の1つと位置付ける「デジタル改革関連法案」は4月6日、衆議院本会議で採決が行われ、デジタル庁を設置するための法案など、合わせて5つの法案が可決され、参議院に送られた。
飯田)9月にデジタル庁を創設して、デジタル改革の司令塔として強力な権限を持たせるなどとする、デジタル庁設置法案などが入っているということです。
佐々木)ようやく動き始めたかということです。20年前くらいから議論がありました。IT関係を統括する省庁が経済産業省と総務省に分かれているので、統合させてデジタル省にした方がよいのではないかという議論はあったのだけれど、両省が「協力に反対」という感じで動かず、これまで頓挫していました。今回、平井卓也さんと河野太郎さんという、ITに詳しい2人が組んだことで、一気に進み始めました。「やっとハンコ廃止か」というような。
飯田)それもこの法案のなかに束ねられているそうです。
「中心にITを置く」のがDXの本質~本命は「マイナンバー」
佐々木)最近、DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が使われます。よく勘違いされているのだけれど、「プロセスをデジタル化すること」が本命ではないのです。それは、昔から言われているIT化とか、OA(オフィス・オートメーション)などとあまり変わりません。DXの本質は、データを紐付ける、AIで処理をするなど、「中心にITを置く」ということがDXの意味なのです。
飯田)DXの本質は。
佐々木)デジタル改革関連法案で何をやるかと言うと、データを中核に置くという考え方に持って行かなければならない。そして、その本命は、マイナンバーだと思います。いまデータがあちこちに分散しています。健康保険や運転免許、税金、社会保険などがバラバラになっていて紐付けられない。
紐付けることによりマイナンバーのさまざまな重要な役割が可能に
佐々木)災害が起きて、手持ちの書類などが全部なくなってしまったときに、免許証も保険証も全部取り直さなければならなくて、大変なわけです。病院のカルテなども消失してしまうと、震災のときにありましたけれども、処方箋が取れなくなってしまうということが起きます。それをすべてマイナンバーに紐付けして、自分のマイナンバーカードもしくは番号さえわかっていれば、自分の情報をすべて取り寄せられるようにする。
飯田)マイナンバーカードで。
佐々木)逆に言うと、それは個人にとってのメリットだけではなく、給付金など、今回のコロナで補償をするときに、今月の収入は少ないのだけれども、金融資産が莫大にある人がいるわけです。特に高齢者などです。その人に収入が少ないからと、例えば20万円を渡す。でも一方で、収入はそれほど減っていないけれど、貯金がゼロの人も若年層にたくさんいるわけです。そういう人には給付金が来ないというケースもある。「毎月の収入プラス、どのくらいの預金や株式などを持っているのか」ということを全部紐付けて、その人の持っている資産と収入を把握して、その上で給付するというやり方をした方が公平ですよね。でも、いまの状況は全然公平ではなく、お金をたっぷり持っていて、銀行口座に塩漬けにしている人が困らない状況になってしまっている。そういうことをきちんと補足するということも、マイナンバーの重要な役割なのです。
紐付けしたIDをつくろうとすると「国民背番号だ」と非難が出る~IT化してデータ管理しないともう回らない
佐々木)1970年代からやっているので、半世紀くらいの議論なのですが、「紐付けをした個人IDをつくりましょう」と言った瞬間に「国民背番号だ」とか「監視社会だ」と大騒ぎする。そうして潰して来たのが、この半世紀のマスコミだったというところもあるのです。その結果、コロナで大変なことになったときに給付金がうまく渡らないとか、「遅いではないか」となる。ワクチン接種も、たぶんそういう混乱が起きますよね。
飯田)「まだ始まっていない自治体もある」とか。
佐々木)「接種券が来ない」とか。そういう話が出て来るわけです。社会保険などにしても、取りこぼされている問題があるのです。もはや「国民背番号だ」と怒っていないで、ある程度IT化してデータとして国が管理するという方向に持って行かないと、もう回らないのではないでしょうか。その第1歩として、今回のデジタル改革関連法案可決というのは、前進だなという感じがします。
歳入庁と国税を分離して財務省を解体してもいいのでは
飯田)資産の把握などもやれるようになると、かつてから議論のある歳入庁の話も、これが、国税が把握している資産額と年金機構が把握している資産額が違うので、この辺りも「取りっぱぐれがあるぞ」という話も出ていますよね。
佐々木)いっそのこと、ここで歳入庁と国税を分離して財務省を解体してもいいのではないかと。話がずれますが、国税が一体化しているから、財務省が何も言えなくなるわけです。怖いですからね。ここは国税が分離した方がいいのではないかと。
デジタルに詳しい人が国を率いる時代に~オードリー・タン
飯田)そう考えるとデジタル庁は、入口はまずは庁をつくり、世帯としては小さく始まりますが、これを核にして、省庁も働き方も含めて、全部の再編につながって行く可能性もありますね。
佐々木)あり得るでしょうね。デジタル庁は、ある意味、新しい時代の歳入庁的な役割を果たし得る可能性があるかも知れません。例えば、いま日銀はデジタル円のような、デジタル通貨をつくるという話になっているでしょう。やるのは日銀、財務省だと思うけれど、一方で、コントロールするということになると、デジタル部門の出番になるわけです。いまや世界的に、国も企業も、トップは技術者が担うという方向に来ているわけです。日本もそうやってデジタル的な部門を持って、そこでデジタルに詳しい人が国を率いるという、台湾のオードリー・タンさんが典型ですが、ああいう形にした方が、いまの時代に即応しているのではないかという感じはします。
飯田)オードリー・タンさんが典型ですけれども、それを技術だけではなく、社会に実装するところまでの落とし込みをやって行くわけですよね。
佐々木)そうです。東京都庁の宮坂副知事は元ヤフーの社長ですが、うまく回っていて評判がいいです。ああいう人が政権の中枢に入って来るというのも、大事な役割になるのではないかなと思います。
IT分野から優秀な人を選び政治と連携させるべき
飯田)そうすると、技術を持っている人が、このデジタル庁の場合は、平井さんや河野さんなど、ITに素養のある政治家の方がやって行くという形ですが、外から技術を持っていて政治任用に関わる人が必要になって来ますか?
佐々木)日本では、IT分野以外の人にはあまり知られていないのですが、優秀な開発者やその世界でトップクラスの人がたくさんいるのです。そういう人をうまく政治と連携させるということをやって欲しいです。河野さん辺りはそういうことをやれる力量が十分ある人だし、「どういう人が優秀なのか」というのを見極める能力を持っていると思うので、そこは進めて欲しいです。
日本には優秀なプログラマーのコミュニティがある~そこと政治をうまく連携するべき
飯田)技術者さんたちの不満として、全体を取り仕切る文系出身の人たちが無理難題の仕様を押し付けて、自分たちがそれをつくったら、また「これはできない、あれはできない」になり、結果としてシステム全体が批判されるという、やり切れなさがあるということをよく聞きます。
佐々木)コロナのアプリのCOCOA騒動がそうでした。あれも最初はプログラマーのコミュニティがボランティアで開発をして、ある程度できたところで厚労省が入って来て、国内で1アプリしかダメだというアップルの方針があったので、厚労省が統括した瞬間に、よくわからない別の会社に発注して、そのできが悪くて、アンドロイドは通知が来ないというバグが起きたりした。それも指摘されていたのだけれど、その指摘を無視していたようなことが起きた。だから、開発者1人ではなく、そういう優秀な技術者たちのコミュニティが日本にはあるので、そのコミュニティと日本の政治をうまく連携させるということが、今後は重要なのではないでしょうか。それをやって来なかったですよね。「文系リーダー」から「理系リーダー」へという大きな流れをつくらなければいけないという話です。
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