福島の漁業関係者が海洋放出に反対する2つの理由
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2021年4月12日 17時25分
東京電力福島第1原発敷地内に立ち並ぶ処理水保管タンク=2月
ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(4月12日放送)にジャーナリストの須田慎一郎が出演。東京電力が原発処理水の保管タンクの増設を検討しているというニュースについて解説した。
東京電力が原発処理水の保管タンクの増設を検討
東京電力福島第1原発から出る処理水について、政府と東京電力が処理水を保管するためのタンクの増設を具体的に検討することがわかった。政府は4月13日にも処理水の海洋放出を決定する方向で調整していて、方針決定後、東京電力が増設を表明する見通しだ。
飯田)13日の関係閣僚会議で海洋放出決定の方針だと伝えられています。
放射性物質の濃度は海洋放出しても問題ない基準に~事故を起こした原発の処理水であるということだけが相違
須田)ギリギリのタイミングというか、「もう先送りにはできない」ということでしょう。そもそも処理水に関して言うと、トリチウム以外にも、他の放射性物質も若干含まれているのですけれど、その濃度は、海洋放出が認められている日本国内の他の原発、または世界各国の原発と比べても、遜色ない基準になっています。海洋放出をしても化学的に言えば、大きな影響が出ることはないというレベルになっているのです。違うのは、事故を起こした原発の処理水であるということです。事故を起こしたところは、起こしていないところと若干状況が変わります。その辺りをどう調節するのかというのが1つポイントなのですよね。
漁業関係者が海洋放出に反対する2つの理由~説明責任を行って来なかった東電
須田)なぜ、漁業関係者にそれほど反対論が根強いのか。福島の漁業関係者、漁協に取材に行ったことがありますが、反対の理由は大きく分けて2つあるのです。
飯田)2つある。
須田)1つは、やはり東京電力の姿勢です。漁業関係者に対して説明責任があるのに、これまでほとんど説明をして来なかった。東京電力がきちんと漁業関係者と向き合って状況説明や情報提供が行われていなかった。これに対する不信感というのが1点目にある。
流通業者への補償の約束が反故に
須田)2点目としては、漁業というのは、単純に魚を獲って来て港に陸揚げすればそれで成立するものではありません。流通が機能して、初めて漁業が成り立つのです。ですから、福島で本格漁業が開始されるまで、流通業者を支えて行かなければならない。東京電力はそこを補償するという約束があったにも関わらず、それが途中で打ち切られているのです。いま現在、流通業者に対する支援や補償が行われていないのです。そこで「約束が違うではないか」という不信感があるのです。
海洋放出については公正中立な機関を間に立てる~流通業者への補償の枠組みをもう1度考える
須田)ですから前者については、東京電力が信用できないのであれば、IAEAなどの公正中立な公的機関を間に入れて、モニタリングをやって「これは安全だ」というところをチェックしてもらうなかで海洋放出する。また、後者に対する不信感については、流通業者への補償の枠組みをもう1度考えるべきではないかと思います。
飯田)水揚げした魚を鮮度を保ったまま消費地に届けるとなると、冷蔵庫や冷凍庫も必要だし、中間の加工業者さんも必要になる。港周りのインフラのようなものが小名浜などを取材しても、津波でやられてしまったところでもある。その再建をしようとしたときに、十分な支援を得られなかったということがありますが、これは重要ですよね。
須田)そうすると他の漁港へ持って行ってしまうのです。それが定着してしまうと、もう福島の漁港に揚がって来ないということになってしまいます。そうなってしまうと地元漁業に大きな経済的損失が発生するので、流通業者への補償も東電にお願いしていたのです。
飯田)これは、鶏が先か卵が先かという感じですけれども、魚が揚がらなくなったら、やはりそのインフラがいらないではないかということになって、いつまで経っても整備されない可能性もありますからね。まずは周りを整備して、そこから魚が揚がって来るようにするという全体をつくらなければならないわけです。
風評被害が起こらないようにする情報発信が必要
須田)もう1つは、やはり海洋放出が始まった際の風評被害です。本来であれば、今年(2021年)の春から本格漁業が始まるはずだったのだけれど、海洋放出が始まったときに果たして買ってもらえるのかどうか。福島近海の海洋資源はかなり回復して来ているということです。
飯田)そうらしいですね。
須田)自分たちは、品質についても自信を持って魚を獲って来ることができると。ただ風評被害が起こってしまうと、それが一切合切無駄になってしまう。「これを何とかしてくれ」ということなのです。風評被害に対する補償も必要ですけれども、起こらないように、消費者に対する情報発信が必要だと思います。
飯田)現場の方々は、揚がった魚は基本全部モニタリングで調査して、国の基準や県の基準よりも厳しい基準でクリアしたものでないと出荷しないということをしています。いまも試験操業でもやっています。数字もほぼリアルタイムで出していて、ホームぺージで誰でも見られるようになっている。「ここまでやっているのだから、これを知らしめてくれるだけでもいいから」と、切実な声を聞きます。
須田)どこまで消費者にその情報が伝わっているのかと。
飯田)そこですよね。自分たちは全部クリアにして出しているのだけれどもと。イメージばかり先行していないかと。
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