松井五郎の作詞家としての人生を変えた「悲しみにさよなら」(安全地帯)
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2021年4月20日 8時10分
黒木瞳がパーソナリティを務める番組「あさナビ」(ニッポン放送)に作詞家の松井五郎が出演。ターニングポイントとなった曲、「悲しみにさよなら」について語った。
黒木)今週のゲストは作詞家の松井五郎さんです。これまで3200曲以上を手掛けて来られた松井さんですけれども、歌詞はどのようにつくられて行くのですか?
松井)仕事なので依頼があり、締め切りがあるという流れがあるのですが、時代の空気と言うと少し大袈裟ですけれど、その時代の人の暮らしや感性のようなものを吸収して、それが形になればいいなという気持ちではいます。若いころは自分が伝えたいことや自分が言いたいことを形にしていたような節があるのですが、いまは皆さんの気持ちをどのように歌詞にするかという気持ちで書いています。
黒木)アーティストの方とのコミュニケーションを大切になさっていると伺いましたけれども、どのようにされているのですか?
松井)いちばん気を付けているのは、パーソナルな形では距離を近づけないようにすることです。できれば、スタジオでの仕事のときにしか会わない。そのくらいの距離感で付き合うようにしています。もちろん、「こういう感じのことを歌いたい」とご本人が言うときもありますが、やはり客観的な意見が必要ではないですか。そういうことをきちんと言える関係性を保つことが大事だと思っています。お互いに「ノー」が言える関係というのでしょうか。パーソナルな部分も含めて、忖度や遠慮が出てしまうと、なかなかいいものはつくれないのではないかと思います。
黒木)レコーディングで言葉を変えることもあるのですか?
松井)よくあります。アレンジが変わって、歌手の方が歌ったときの発声や発音が、例えば裏声になったときに「ここの母音は発音しにくそうだな」と思ったら、その場で変えてしまうこともあります。生ものですので。
黒木)柔軟性をお持ちなのですね。
松井)そうですね。最終的に歌になればいいと思っているので、詞は大事ですけれども、紙の上だけで見てもいい、さらに耳で聴いたり、歌ったときに心地よいということが大事だと思うのです。
黒木)我々も芝居をしていて、台本を「一字一句変えたくない」という方もいらっしゃるし、いまおっしゃったように、「生ものだから、台本というのは机上の空論にしか過ぎない」という方もいらっしゃいます。でも、実際に終えてみたら、そう言えなかったというときもあったりして、本当に言葉は生ものだなと思います。松井さんがターニングポイントになったとおっしゃっている安全地帯の「悲しみにさよなら」という曲についてですが。
松井)安全地帯には、その前から何曲か関わらせてもらっていました。ただ、シングルに関しては皆さんよくご存知の「ワインレッドの心」など、井上陽水さんがよく書かれていました。「恋の予感」という、これも大ヒットした曲があるのですが、そのとき実は陽水さんが書かれる前に、私もチャレンジさせてもらっていたのです。なかなかOKが出なくて、何十回も書き直して、結局、いわゆるボツになってしまい、最終的に陽水さんが書かれたのです。採用された陽水さんの詞を見て、答え合わせをさせてもらったときに、「こういうことなのだな」と思ったことがあったのです。
黒木)答え合わせをしたときに。
松井)先ほどの話にもつながりますが、紙の上だけではなくて、玉置浩二さんという歌手の声に乗ったときに、「どのようにして言葉が命を持つか」という感じがよくわかったのです。陽水さんの詞もシンプルな言葉遣いなのだけれども、歌手が歌うときに感情を乗せやすい。先ほどの黒木さんの台本でもそうだと思いますが、例えば「ねえ」というセリフがあったときに、「ねえ」というのは言葉としてはシンプルだけれど、いろいろな表現ができるではないですか。そういう経験があって、そのあと書いたのが「悲しみにさよなら」でした。シンプルな言葉だけを使って書いたものです。「悲しみにさよなら」が自分にとっては転機になり、おかげさまでチャートでも1位になりました。人生を変えた1曲と言ってもいいと思います。
松井五郎(まつい・ごろう)/作詞家
■1957年、岐阜県生まれ、横浜育ち。
■1981年、CHAGE&ASKAのアルバム『熱風』で作詞家としてデビュー。
■安全地帯、工藤静香、BOOWY、氷室京介、郷ひろみ、MAX、V6など幅広いアーティストに作品を提供。現在までの総作品数は3200曲以上。
■2009年、坂本冬美の「また君に恋してる」で日本レコード大賞優秀作品賞を受賞。「勇気100%」はジャニーズで歌い継がれ、2020年にはジャニーズが歌った手洗いソング「Wash Your Hands」の作詞も話題となった。
■作詞活動の他、多数のアーティストのプロデュースを手がけるなど、さまざまなプロジェクトを展開。
■2021年からは、言葉を中心に表現の解放区をつくって行くオンラインプログラム「東京Ø区(とうきょうぜろく)」を開催。
※松井五郎さんの詩を主体に、ゲストを毎回入れ替えて展開する朗読コラボレーション。さまざまなアーティストが登場し、唯一無二の物語をオンラインで全国に配信する。
※2021年2月24日の第1回目には、声優の野島健児氏とイラストレーターのキン・シオタニ氏が出演。朗読とライブペインティングが配信された。
■2回目以降も開催予定。
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