介護事業所「あおいけあ」加藤忠相~デイケアで3時間経って「帰りたい」と言うと、「帰宅願望」とされる日本の介護の現実
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2021年5月4日 8時10分
黒木瞳がパーソナリティを務める番組「あさナビ」(ニッポン放送)に株式会社「あおいけあ」代表取締役の加藤忠相が出演。介護の仕事について語った。
黒木)今週のゲストは、神奈川県藤沢市で介護事業所を運営されている、株式会社「あおいけあ」代表取締役の加藤忠相さんです。「あおいけあ」は、認知症の方やお年寄りの方が利用されている介護事業所なのですが、一般の方が想像している介護ではなく、その方が困らないような環境づくりを大切にしていらっしゃるということですが。
加藤)認知症というと、イメージとして徘徊をしたり、興奮して暴力をふるうというようなものを想像すると思うのですが、あれは認知症ではないのです。「認知症」という病名はありません。症状ですから、言ってみれば、咳やくしゃみ、鼻詰まり、腹痛と一緒です。腹痛が起こるには、必ず原因の病気がありますが、認知症も同じです。有名なのはアルツハイマーや、血管性認知症、レビー小体型認知症などがありますが、それらの病気によって脳の細胞が壊れてしまい、出て来る症状のことを認知症と言うのです。短期記憶障害という、人の名前などがまったく覚えられないというようなことで困っているのです。それはくしゃみや鼻詰まりと一緒です。その人に合わない環境、合わないケアを提供するとその方は困るので、それに対して怒ったり、「ここは自分のいる場所ではないな」と思って歩き回ってしまったりすることを「徘徊」と言ったりするのです。
黒木)「徘徊や弄便などは困っているために出る行動だから、その人が何に困っているのかを見極めて、困っている原因が解決するまで付き合うのが介護の仕事だ」とご自分の本にも書かれているのですが、見極めるというのも大変ですよね?
加藤)そうでもないと思います。
黒木)そうなのですか。
加藤)デイサービスを見たことはありますか?
黒木)はい。
加藤)デイサービスは7時間提供が基本なのですが、あの椅子を思い浮かべてもらって、黒木さんはあの椅子に7時間も座っていられますか?
黒木)座れませんね。
加藤)おそらく無理ですよね。3時間経って「帰りたい」と言うと、「黒木さんは帰宅願望」と書かれてしまって、5時間経って黒木さんが立ち上がって歩き回ると「徘徊」と書かれてしまうのです。お年寄りはごく当たり前のことを当たり前に要求しているだけなのに、「問題老人」にされてしまうのがいまの介護の現場です。逆に言えば、黒木さんが「自分だったらここに7時間いられるよ」という環境を、どうつくって行くかを考える。それがいられる環境だと思うのです。それは施設のような大きな箱ではなく、もっと家庭的で、ソファがあったり畳があったりと、そのような環境をきちんとつくって、「ここで自分は当てにされているのだ、必要とされているのだ」という感情になれるようにする。いいケアを提供することによって、人としてちゃんといられるのです。
黒木)信頼関係が大切になって来ますよね。
加藤)先ほど言った、人の名前が覚えられないという方ですと、みんなが同じ制服を着て、同じ髪型をしていたら、毎回、誰だかわからなくて混乱しますよね。しかし私のところでは私服です。いつもこのような格好をして、このような髪形をしているお兄さん、お姉さんで覚えていただけるのです。
黒木)なるほど。
加藤)5年付き合っていても名前を覚えてくれないけれど、「ああ、お兄さん、お兄さん」とフランクに声をかけてくれるおばあちゃんは、名前は覚えてくれていませんが、私のことは覚えてくれているのです。感情で覚えるようになるのです。私たちが嫌な環境を提供して冷たい対応を取ると、「この人たちは嫌な人だ、ここは嫌な場所だ」という感情が残るので、「もう行きたくない」と、来たとしても一生懸命帰ろうとするのです。
黒木)それでよくデイサービスに行きたくないという老人の方の話を聞くのですね。
加藤)逆に言ったら私たちが7時間~8時間いられる環境をつくり、その人が得意なことやできることを知った上で、「すみません、これは直せないですか?」というようにお願いをする。お年寄りというのは、いろいろなことをやっていたプロの方たちなので、それをきちんとやってもらって活用させてもらう。「ここは私の場所だ、この人たちはいい人だ」となれば、どこかに行ってしまう必要がないので、徘徊の心配もないですよね。鍵を閉める必要が根本的にいらなくなる。
加藤忠相(かとう・ただすけ)/「(株)あおいけあ」代表取締役
■1974年生まれ。東北福祉大学社会福祉学部社会教育学科卒業。
■大学卒業後、特別養護老人ホームに就職するも、介護現場の現実にショックを受け、25歳のときに神奈川県藤沢市で「株式会社あおいけあ」を設立。代表取締役。「グループホーム結(ゆい)」「デイサービスいどばた」の運営を開始。また2007年より小規模多機能型居宅介護「おたがいさん」を開始。
■「あおいけあ」ならではの地域を巻き込んだ独自のケア事業がメディアで紹介される他、2017年公開の映画『ケアニン~あなたでよかった~』のモデル事業所に。
■2019年2月には「アジア太平洋地域の高齢化に影響を与えている最も影響力のある指導者」に選ばれる。
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