EUがインドとのFTA交渉再開に至った背景にあるもの
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2021年5月10日 17時35分
19日、ブリュッセルで記者会見するミシェルEU大統領(ゲッティ=共同)
ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(5月10日放送)に日本経済新聞コメンテーターの秋田浩之が出演。EUとインドがFTAの交渉を再開することで合意したニュースについて解説した。
EUとインドがFTAの交渉を再開
欧州連合(EU)とインドは5月8日、オンラインで首脳会議を行い、2013年に中断した自由貿易協定(FTA)交渉を再開させることで合意した。また、インド太平洋地域で影響力を強める中国を念頭に、インフラやエネルギーなどの分野で連携を深めることでも合意している。
飯田)2013年に中断していたということは、もう8年間ほど塩漬けになっていたものが動き出すのですね。
秋田)なぜこのタイミングで動き出すのかということも面白いですよね。2020年12月にEUは交渉していた中国との投資協定を仮調印した。「合意した」とメディアが報じていましたが、欧州議会が批准しなくてはいけないので、仮調印したということです。ところがそのときは12月でしたので、アメリカのバイデン政権が発足する直前でした。バイデン大統領の側近は「それはやめて」と言っていたのですが、見切り発車をした。当時はトランプ政権が、ドラえもんの登場人物で言うならばジャイアンのようなところがあって、勝手に自分で中国と喧嘩をするのですが、他の人と協力をしないということで、欧州は見切り発車で行けるかなと思ってやったと思うのです。
飯田)ある意味、見ていないところでやればできてしまうのではないかと。スネ夫的な動きですね。
バイデン政権になり、「中国に対してみんなで対応しなければ」と変わった欧州~中国からインドへ乗り換え
秋田)ところが2021年1月になってバイデン政権に代わると、ドラえもんの登場人物で言うならば出木杉君というキャラになりました。わかりやすく言えば真面目な学級委員長です。「みんなで中国に対応しよう」と世界が変わったのです。そして出木杉君が仕切るようになった結果、欧州のなかでも「中国に対してみんなで対応しなければ」という空気が生まれています。中国との投資協定は棚上げして、クアッドというのは日本とアメリカとオーストラリアとインドで協力する枠組みですが、これが本格的に動き出した。欧州としても、「交渉するならばインドだろう」と乗り換えたという感じだと思います。
中国との投資協定を凍結するかしないか~論争が起こった2つの原因
飯田)フランスのAFP通信などがスクープで出していましたが、中国との投資協定に関して、「一時凍結をするのだ」「いや凍結ではない、事務的には動いているのだ」というような論争になっています。その辺の流れがありますか?
秋田)あると思います。なぜ「凍結するのか、しないのか」という論争が起きているのかと言いますと、やはり2つあって、1つは新疆ウイグル自治区の人権弾圧の問題です。これは前から起きていることではありますが、世界的な問題になって来た。これもバイデン政権が全面的に「ジェノサイド、国際法上の大量虐殺だ」と言っています。もう1つは香港情勢について、中国があそこまでやってしまうのかというところで、「このような国と自由貿易協定を批准まで行っていいのか」という声が土壇場で高まってしまっている。
香港の自治を「50年間は変えない」という約束を反故にした中国~一事が万事
飯田)英中共同宣言で「50年は自治を認める」ということを反故にしたのは大きいということですか?
秋田)私は94年から98年まで北京に駐在していました。香港返還の式典も現場に行って取材したのを覚えているのですが、返還直前の過程を北京から見ていて、中国は何度も「50年間は変えない」と約束していたのです。我々は毎週記者会見で中国外務省の方に根掘り葉掘り聞きました。しかし、「何をそれほど心配しているのか? 合意があるので50年間は変わらないのだ」と言っていたのです。それがものの見事に破られた。
飯田)そうですよね。半分の25年ぐらいで。「あそこは約束を守らない国だ」とみんなが思うようになった。
秋田)ことわざで「一事が万事」という言葉があります。香港は経済的には大きいけれど面積的には非常に小さい。そこで起きていることで中国全体を判断するのはどうか、という意見もあれば、もう一方で「一事が万事」という言葉で言うと、「香港でもこのようにしてしまうのだから、中国が影響力を持つとやはり心配だ」というような見方もあります。我々は中国に接していて尖閣諸島問題もあるので、そのような心配が身近だということがあるのですが、欧州は、我々から見ればイランというようなところです。
飯田)地理的にもそうですよね。
秋田)欧州の人と話していると、「なぜもっとパレスチナ問題やイラン問題で日本は強硬に行かないのか」と言われる。そのような違いが欧州と中国の間にもあったのかも知れません。それが変わって来た。
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