「いつでもその気になれば沈められるぞ」という英空母へのメッセージか~中国軍が南シナ海で軍事演習
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2021年5月27日 17時32分
19日、清華大学で行われた教師や学生代表との座談会で重要演説を行う習近平氏。習近平(しゅう・きんぺい)中国共産党中央委員会総書記・国家主席・中央軍事委員会主席は19日、間もなく創立110周年を迎える清華大学を視察した。(北京=新華社記者/鞠鵬)= 配信日: 2021(令和3)年4月20日、クレジット:新華社/共同通信イメージズ
ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(5月27日放送)に神戸大学大学院法学研究科教授・NPO法人インド太平洋問題研究所理事長の簑原俊洋が出演。南シナ海で中国軍が軍事演習を行ったというニュースについて解説した。
中国軍が南シナ海で軍事演習~周辺国への軍事力誇示か
南シナ海で中国軍の戦闘機数十機が参加し、軍事演習を行う映像が中国メディアで公開された。中国国営メディアによると、具体的な日時は明かさず、「最近」とだけ伝えている。周辺国との対立が深まるなか、軍事力を誇示する狙いがあるとみられている。
飯田)海上を低空飛行した戦闘機が目標に向かって爆撃し、使われた実弾は数千発に上ったということが出ています。周りの国へ軍事力を誇示ということですが、南シナ海だとベトナムやフィリピンなどを睨んで、その先のアメリカも含めてということになりますか?
簑原)もちろんそうですし、イギリスの空母クイーン・エリザベスがイギリスを出港しましたけれども、南シナ海を通るということですので、それに対する中国からのメッセージなのではないでしょうか。
飯田)「本当に入って来るのか、お前ら」と。
簑原)「いつでもその気になれば沈められるぞ」という感じでやっているのではないですか。
ミサイルの技術が進んでいる中国
飯田)なるほど。実際、中国の海軍力は上がって来ているということですか?
簑原)海軍力よりも、ミサイルです。ミサイルの技術が日進月歩で上がっています。航空自衛隊の友人からの話ですと、パイロットの腕もかつてとは違うと。腕を上げているという話ですので、「中国が遅れている」という時代はもう遠い過去です。
飯田)空母キラーと呼ばれる弾道ミサイルで、精密に飛ぶという。あれは相当な脅威ですか?
簑原)もちろんそうです。アメリカも台湾海峡を通るときには空母がミサイルに注意して通らないと、1995年~1996年の台湾海峡危機のようには空母を通せなくなっています。
イギリス、ドイツは台湾海峡を通るか否か
飯田)これに対してイギリスの空母が来る、またドイツがフリゲート艦を派遣するという話も出ています。自由主義諸国で対峙して行くという形の構図は、もう固まったと見ていいですか?
簑原)ドイツは、以前は親中でしたから、だいぶ変わったなという気がします。ポイントとして、「台湾海峡を通るか否か」ということが大事だと思います。クイーン・エリザベスは通らないと聞いていますし、ドイツはまだ決めていないと思います。フランスは通りました。あそこは国際海峡なので、忖度しないで通っていいのです。でもあえて通らないというのは、どういう政策決定があるのかと、個人的には気になります。
飯田)気を遣う、あるいは腰が引けているというところが。
簑原)私は腰が引けているのだと思います。立派な船ではないですか。堂々と通りましょうよ。
中国に寄港するドイツの本当の狙いは何か
飯田)ドイツは「中国に寄港する」ということも言い出していますよね。
簑原)面白いですよね。
飯田)あれはどういう意図なのですか?
簑原)「友好的」というメッセージもありますし、逆に言うと、中国の施設を見るということも可能になりますよね。
飯田)なるほど。中国側としても「行くよ」と言われたら、さすがに断るわけにもいかないと。
簑原)それは中国が決めることなのですが、ドイツは面白いですね。
飯田)あのニュースを見て、「やっぱりドイツは親中だもんな。弱腰だもんな」と見てしまいがちだったのですが、決してそうではない。
簑原)決してそうではないと思います。私の知っているドイツの外交官たちの話を聞くと、そういうことは絶対にないですね。
イギリスやドイツの軍艦が常にある存在であることを目指すべき~日本と西側諸国がワンチームでスクラムを組む姿勢を持つ
飯田)ドイツも去年(2020年)、「インド太平洋戦略」を出しましたが、中国に対してのスタンスはだいぶ変わって来たと見ていいですか?
簑原)次々とドイツの企業が中国に買収されていますし、人権問題が日本より敏感ですから、この辺りが懸念としてあるようです。他方で、イギリスやドイツが軍艦を日本まで派遣するというのは、ものすごくお金がかかることであって、その辺りも考えなければいけません。サステイン(持続させる)できることではないのです。
飯田)何度もできない。
簑原)ですから、広報外交という意味では効果があると思いますが、一度来て、あとは5年~10年来ないということでは、効果が薄れて行くのではないかと思います。ポイントとしては、「常にある存在」であることを目指すのが大事だと思います。今回、イギリスの船で注目していただきたいのですが、米軍の海兵隊が乗っていますよね。英米関係の特殊性というのは、日本が目指すべき方向なのではないかと思います。これは、アメリカともそうですけれど、多角的にフランス、イギリス、ドイツと何らかの形でより連携を強化して行く。お互いの船に乗り合うというのが、どこまでいまの枠組みでは可能かわかりませんが、そういう時代に来ているのではないかと思います。ワンチームでスクラムを組むという、この姿勢です。
「クアッド」でもインドとオーストラリアでは向いている方向が違う
飯田)その輪を広げるというか、クアッドなど、いろいろな仕組みがありますよね。オーストラリアやインドなど、そういうところを広げるという形ですか?
簑原)もちろんそうです。クアッドの名前はどのように変えて行くかわかりませんが、いまのクアッドはどちらかというと同床異夢的なところがあります。インドの考えているクアッドと、オーストラリアの考えているクアッドは明らかに向いている方向が違います。向いている方向が似たもの同士が、1つの核になるべきではないかと思います。
韓国とも連携するべき~フィリピンとも
飯田)そうすると、台湾という存在も何らかの形で一緒になって行くのでしょうか?
簑原)当然そうですね。あとは、韓国は大事な国だと思います。日本の隣国ですし、地政学的にも大事な位置を占めています。いまは文在寅さんで大変ですが、来年(2022年)選挙です。そこで韓国がリアリズムを持つ国になるという期待を込めて、ここは切り捨ててはいけない。連携を続けなければいけないと思いますし、願わくば、クアッドの重要性を認識してもらう。
飯田)韓国にも。
簑原)あとはフィリピンです。ここは全部つながっています。フィリピンは台湾の下にあり、さらにインドネシア、インドと、この逆“J”の形をしたところが非常に大事なのではないかと思います。フィリピンも来年は選挙ですよね。ドゥテルテさんも文在寅さんも1期で、それ以上はできませんので、大きく来年に変わるのではないかという期待が半分あります。
飯田)かつて、「自由と繁栄の弧」という概念がありましたが、まさにその概念になって行く。
簑原)さらに中国は周辺国から圧力を感じるのではないかと思います。
飯田)インドネシアやフィリピンを巻き込んで行く。もともとベトナムは中国に対峙的なスタンスを取っている国でもある。ASEAN各国をそこで巻き込んで……。
簑原)ベトナムは共産党同士の兄弟です。中国はお兄さんなので、「お兄さんは最近少しおかしい」とは思っているのですが、アメリカが例えば人権外交を積極的にやって行くとします。そうすると、ベトナムとしては困るわけです。人権で三つ星が付かない国ですので。
飯田)なるほど。「うちも……」と。
簑原)あまり追い込まない形が大事かなと。味方を増やして行くことがポイントなのだと思います。
飯田)そこの構えは広く取りつつ、特に価値観が合う国とは凝縮してやって行くと。
簑原)ベトナムは本当にタフな国民性なので、味方に付けたいです。
日本は米中「どちら側」につくのかを選ばなければならない日が来る
飯田)日本としてのやり方というのは、「自由で開かれたインド太平洋」という旗を掲げていますが、これを掲げ続けて行くことが大切ですか?
簑原)私は「ミドルロード」と言っているのですが、ミドルパワーメンタリティを持って「ミドルロード」と。日本は外交的に米中の間へ行きたがるのですが、私はそこを継続させるのが難しいのではないかと思います。どこかのポイントで「どちら側か」ということを選ばなければならない日が来るのではないかと思います。
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