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Amazonでの購入のように好きな授業を取る世界へ~教育経済学者・中室牧子に訊く、これからの教育政策のあり方

ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2021年6月20日 17時45分

Amazonでの購入のように好きな授業を取る世界へ~教育経済学者・中室牧子に訊く、これからの教育政策のあり方

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(6月10日放送)に慶應義塾大学総合政策学部教授・教育経済学者の中室牧子が出演。これからの教育政策のあり方について解説した。

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」

大きな転換を求められている教育政策の現場

6月9日に政府が公表した「経済財政運営と改革の基本方針(骨太​の方針)」の原案では、子育て政策を一元的に担う「こども庁」の創設について、「早急に検討する」などの明記があった。また、新型コロナウイルス感染症という不測の事態もあり、教育の現場は大きな転換、変換を求められている。これからの教育政策がどうなって行くのか、行くべきか、教育経済学者の中室牧子氏に訊く。

大きい弊害となる「行政の縦割り」~問題によって担当部署が異なる

飯田)「こども庁」も省庁の壁を乗り越えて行こうという発想ですが、この壁は厚いですか?

中室)子どもに関する政策を首尾一貫したものにしようと考えると、行政の縦割りの弊害は大きいと思います。例えば最近、不登校の子どもが増えています。小中学校で20万人に達するかというところですけれど、監督官庁はどこかと言うと、教育委員会になります。

飯田)教育委員会。

中室)一方で、身体障害や発達障害があるなど、健康系に関しては、行政で言うと健康部署になります。さらに、教育格差や貧困の世代間連鎖という問題もあり、だいたい7人に1人くらいの子どもが修学期のあいだに貧困に陥っている。これは福祉の部署の担当です。

飯田)それぞれ担当部署が違う。

所管によらず首尾一貫したものにすることを実現するのが「こども庁」の役割

中室)不登校は教育委員会、健康や発達障害の問題は健康部署、経済問題は福祉部署と分かれてしまう。ところが、我々がいまコロナ禍で修学期の子どもを対象にした調査をすると、この3つの問題が重なっている子がいるのです。不登校で、発達障害で、しかも親がひとり親で貧困状態にあるというような子どもが現れています。

飯田)3つ重なってしまう。

中室)何が原因でこのように、重層的な困難を抱える人が出て来るのかはよくわかりませんが、そういう人が少なからずいる。私たちの研究室が手掛けているコロナ禍での子供たちの現状を調査したデータによると、約50%もの子供が重層的な困難を抱えています。そうすると、現状のように所管が分かれている場合、重層化した困難を抱える子供を特定し、救済することが難しくなります。私は子どもに対する政策、子どもを持つ親に対する政策は、「所管によらず首尾一貫したものであるべきだ」と考えているので、こども庁がそれを実現できるようにすることが、非常に重要ではないかと思います。

こども庁の1つ重要なテーマ~強い総合調整機能を持たせる

飯田)不登校、発達障害、貧困ということになると、家庭内のDVや児童相談所も含めての問題になる。ここに横串を通そうとしたら、いろいろなところとぶつかって行かなければいけない。

中室)ですので、「強い総合調整機能を持たせよう」というのが、こども庁の1つ重要なテーマなのだと思います。

予算の拡充~費用対効果の高い子どもの健康や教育に投資をして国全体の活性化をして行く

中室)もう1つは予算の拡充だと思います。経済学のトップアカデミックジャーナルで、「クォータリー・ジャーナル・オブ・エコノミクス」という学術誌があるのですが、2021年に掲載された論文でアメリカで過去50年の間に行われた130の政策を評価すると、最も費用対効果が高いのは、子どもの健康と教育に対する投資です。

飯田)費用対効果が高いのは。

中室)国を挙げて、勝ち筋と言われるところに投資をして行かなければいけないのだけれど、我が国の場合、少子高齢化が進んでいることもあり、1年間に子どもにかけられている予算は5兆円です。一方で、高齢者が消費している医療費にかけているお金は40兆円です。明らかにバランスを欠いていると思います。

飯田)そうですね。

中室)こども庁で強い総合調整機能を発揮しながら、予算も拡充して、費用対効果の高い子どもの健康や教育に投資し、国全体の活性化をして行くことが重要ではないかと思います。

変化して行く教育のあり方~Amazonのように授業を買う

飯田)オンライン教育等もあり、教育のあり方や教え方が、大きく変わって行きますよね。

中室)とても変わって行くのではないでしょうか。オンライン教育がもたらす変化はとても大きいのではないかと思います。教育再生実行会議の委員の1人が会議の最中におっしゃったのは、「日本の大学は、将来Amazonのようになる」ということです。

飯田)Amazonのように。

中室)例えば慶應大学に入ると、ずっと慶應大学のなかで半学期20単位を取って、卒業までに120単位を取ることになります。しかしそうではなく、自分の好きな先生の授業を、大学は関係なく「ポチッ」とAmazonでものを買うかのように、1単位いくらという、単位従量制になるような世界に移行して行くだろうという話です。

オンライン教育の卒業単位の上限~60単位のまま

中室)そのように、大学のあり方は大きく変わって行くと思いますし、大学以下の学校の教育形態も大きく変わるだろうと思うわけです。来るべきときに備えて、我々はしっかりと準備をして行かなければいけないと思うのですが、今回、教育再生実行会議と規制改革推進会議の両方に参加して、1つだけやり残したなと思っていることがあるのは、「オンライン教育の卒業単位の上限」です。これが、いま60単位までなのです。

飯田)そうなのですか。半分。

中室)半分です。これはもう少し緩和できなかったかという心残りはあります。しかしながら、両会議ともオンライン教育を一層推進して行くという立場は明確になっていたかなと思いますので、そういう方向で進むのではないかと私自身、予想しています。

「個別最適化」と「子どものウェルビーイング」

飯田)各々経験して来たこともあり、各々の正義があって、「妥協できない」というようなことを教育問題を報じるときに思うのですけれども、これだけ技術革新が進んで来ていることを考えると、抜本的に変えて行く必要があるのかも知れないですね。

中室)今回の教育再生実行会議でもそうですし、他のいろいろな中教審や有識者会議もそうなのですが、キーワードになっているのは「個別最適化」と「子どものウェルビーイング」という、2つのキーワードだと思います。多様化が進んでいますので、「一斉に集団活動のなかで、規律を重視してやって行きましょう」という時代ではなくなって来たのではないかと思います。個別の習熟度や個別の興味関心に合わせて、どこまで教育をカスタマイズできるのか。学力や決まった尺度だけではなく、子ども自身が幸せで生き生きと生きられる、そういう学校教育をどう実現して行くかということが問われていると思います。今回の実行会議の提案も、そういうところが全面的に押し出されたものになっているというのが私の理解です。

人が言うもっともらしい話は、ほとんど正しくない~個別最適化の大切さ

飯田)子どもの意志、「好きなようにやらせた方がいいのだ」という方針と、「子どもの好きなようにやらせたら、みんなだらけてしまう」と、「もっとしつけた方がいい」という、根源的なところでぶつかるような気もするのですが、その辺りをデータで証明できることはあるのですか?

中室)「個別最適化」と言うと、習熟度の早い子と遅い子がいるわけです。よくある批判は、「学力の高い子だけが得をするのではないか」という批判です。学力の高い子は個別最適化になると、どんどん先へ進んで行けるけれど、学力の低い子は個別最適化になると取り残されるのではないかと。データを見ると、それを裏付ける根拠はほとんどありません。むしろ、学力の低い子の方が伸び率が高いということがわかっていて、格差を縮小する方向で進められることがわかっているわけです。個別最適化の研究をしていたときに、つくづく思ったのですが、「人が言うもっともらしい話は、ほとんど正しくない」ということです。

飯田)通説のようなもの。

中室)そうです。「こうなるだろう」ということを、自信を持って言う人がいますが、検証すると正しくない、科学的に見ると正しくないという話がたくさんあるのです。これからは子どものウェルビーイングを高めて行くことや、個別最適化などの目標を立てることが大事なのですが、同時にそれが「実現できているか、正しい方向に我々が進んでいるか」ということをデータとともに検証する。そして、間違っていたらすぐにやり直す、うまく行っていればそれを進めて行くということが大切です。そういう考え方が合理的ではないかと思います。

よき失敗をするということにもっと寛容的でなければならない

飯田)その考え方、「走り出してから検証して修正する」ということは、役所が苦手としそうなことです。

中室)そのためには、我々国民も考えを変えなければいけないところがあります。我々は、よき失敗をするということに、もっと寛容的でなければならないのだと思います。アメリカという国はよくできていて、政策がよき失敗をすることに国民が寛容なのです。なぜかと言うと、よき失敗をして、それを見直せば、次は成功になるわけではないですか。我が国は、失敗を許さないところがあります。そのせいで、やり直しが効かないというところに陥らないように、我々も政策における失敗をもっと寛容的に見ることが必要なのではないでしょうか。

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