「オンライン」で炙り出された、教育の質の向上に欠かせないもの
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2021年8月5日 13時16分
フリーアナウンサーの柿崎元子による、メディアとコミュニケーションを中心とするコラム「メディアリテラシー」。今回は、オンラインで見落としがちなポイントについて—
普通に聞こえること
オンラインコミュニケーションで最も気にかけるべき点。それは「普通に聞こえること」です。
「えっ、当たり前ですよね?」とお叱りを受けるかも知れません。もし、目の前で話している相手が突然口パクになったら……通常はあり得ませんが、当然話の内容は聞こえて来ません。音が聞こえていることが普通です。
“普通に聞こえるはず”と思うことに障害があるのは、大きなストレスになります。私が陥ったZoomでの失敗は、ゲストスピーカーを招いた際の音量バランスの悪さでした。ゲストに対して私の声が3倍は大きく、相手の話の腰を折るほどです。
「ふむ」「はい」などのあいづちは雑音レベル、笑い声は「キーン」と響くため、ボリュームを下げなければ耐えられるものではありません。イベント終了後にこの点を指摘された私は、“普通に聞こえる”大切さとオンライン知識のなさを痛感したのです。
聞こえない声の存在
文科省が2021年5月に実施した「新型コロナウイルス感染症の影響による学生等の学生生活に関する調査」によりますと、令和2年度後期に履修した授業のうち、“オンライン授業がほとんど”または“全てだった”と回答した学生は、全体の6割。オンライン授業のよかった点として、自分の選んだ場所や、自分のペースで学習できることなどが挙げられていました。
一方、悪かった点も見てみますと、複数回答ながら「友人などと一緒に授業を受けられず寂しい」が53.0%、「レポートなどの課題が多かった」が49.7%、「質問等、相互のやり取りの機会が少ない」が43.9%、「対面授業よりも理解しにくい」が42.7%でした。
文科省は、オンライン授業の実施にあたっては「学生の声を丁寧に聞き、質の向上に努めることが必要」と結論づけています。教育の質は、対面授業が維持されないことによって浮上した問題です。私はこの調査には隠れた声、オンラインだからこそ出て来た“聞こえない声”があるのではないかと感じました。
質の向上1・聞き取りやすさ
普通の対面コミュニケーションでは、「聞こえない」ことはあまり認識されません。なぜなら「聞こえる場所にいる」からです。騒々しい場所にいるなら相手と近づいたり、大きな声で話したりして、私たちは無意識に調節しています。
しかしオンラインでは映像や回線がつながっているか、見えるか見えないか……に気を取られ、音への意識は低くなります。音量の高低やバランス、雑音への心配りは、ひどくない限りは我慢の範疇となっています。
実はアナウンサーは、話す前に必ず“マイクチェック”を行います。技術的に問題がないか音声担当者とテストをするのです。今期の講義前に私はヘッドセットマイクを購入しました。パソコンが拾う生活音を遮断し、吐き出す息が必要以上に音にならないように調整しました。
この結果、学生の反応はとてもいいものでした。「どの授業よりも圧倒的に聞き取りやすかったです」「授業でよかった点は音声がクリアでした」「内容がスッと頭に入って来る聞き取りやすさがありました」……普通に聞こえるという当たり前のことが、質の向上に直結します。
質の向上2・プレゼン能力
教える側のプレゼン能力もあまり問題視されません。日本の大学教員は教育と研究の両面を担っています。学生を教授して研究を指導し、自身も研究に従事します。
これまでは、学生への指導は対面であったため、教員に任され、質は議論されませんでした。話し方は教える内容を補うものであったり、教員のパフォーマンスは“特徴”として位置づけられていたと思います。しかし、「オンラインプレゼン」は対面のそれとはまったく違うものです。
オンラインにおけるプレゼン能力とは、「1人だけで話す技術」です。1人だけで話すのはそんなに簡単ではありません。反応が感じられないからです。あいづちを打ってもらえない、気配も感じられないなかで話し続けなければなりません。骨が折れます。真っ暗のなか、手さぐり状態で話を進めるのですから、普段の倍の労力が必要になって来ます。
ラジオのパーソナリティを思い描いてみましょう。番組ではスタジオ内に誰かにいてもらい、その人に向けて話しています。話しかけながら、反応を見ながら進めて行くのです。このような難しい状況に対処すべく、世の中には、さまざまなテクニックが紹介されています。
オンラインで効果的にプレゼンするには、“言葉よりもジャスチャーに意識”、文章は“通常よりも簡潔に短く”などです。そして、とっておきの秘策があります。それは“熱量”です。
「この学問はすごいでしょう!」「このポイントに気づいたのはまさに偉人です!」「歴史のダイナミックさを感じませんか!」
想いは滲み出る
「!」で表現しましたが、熱量を言葉で表すのはとてもやっかいです。表現する明確な言葉であればあるほど響きません。むしろ、声の大きさやジェスチャー、抑揚に表れます。興味を持って欲しいという想いが、声の大きさやパフォーマンスに滲み出るものなのです。
話を戻しましょう。コロナ禍は長期化しています。教育の質を問題にする際に、学生の声を丁寧に聞くことはとても大事です。しかし、それだけでは不十分です。声にならない声、聞こえない声に耳を傾けて欲しいと思います。
例えば、ITリテラシーの抜け落ち度、自身のパフォーマンスや熱量など、伝える能力の不足、“持っていて当たり前”に目を向け、改善するための仕組みが求められると思います。
学生の授業の感想にはこのようなものもありました。「先生の授業に対する熱量がこちらにも伝わり、期待に応えようと思いました」「先生自身がワクワクしながら話そうという気持ちが伝わって来て、私もワクワクしながら聞くことができました」……対面コミュニケーションでは気づかなかったことや必要としなかったものを整え、変えて行くことがコロナ後の未来につながると信じています。 (了)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
日本語学校への「投資」働きかけ…環境や給与改善へ文科省がモデル事業、企業の外国人材確保をアシスト
読売新聞 / 2024年9月14日 15時0分
-
Neat、宇和島市におけるオンライン授業への導入事例を発表
PR TIMES / 2024年9月12日 12時45分
-
デジタル時代に「コミュ力」「ストレス耐性」を上げるなら剣道が一番⁉︎ 真にアナログな武道に学ぶ「生きる力」の本質とは
集英社オンライン / 2024年9月4日 8時0分
-
「話し方が変だ」「就活では名前を言うだけで時間を使い切って…」 吃音当事者たちがそれでも、接客をしたいと“吃音カフェ”で働くワケ
集英社オンライン / 2024年8月31日 11時0分
-
説得が下手な人は「相手の話を聞いていない」 ヒアリング能力を高めるために意識すべき3点
東洋経済オンライン / 2024年8月19日 18時30分
ランキング
-
1iPhoneは「オンラインストア」か「実店舗」どちらで買うべき? 15%引きで購入できる方法も……!?
オールアバウト / 2024年9月14日 20時15分
-
2信号の矢印「←↑→」“全点灯”一体どんな意味? 全部「青」とは何が違うの? 迷う「謎の矢印フル表示」 注意するポイントとは
くるまのニュース / 2024年9月14日 19時10分
-
3ほぼ寝たきりの105歳が幸せを感じられる深い理由…心理学者が目撃した「老年的超越」の幸福感
プレジデントオンライン / 2024年9月15日 8時15分
-
4全長約3.8mのスズキ「小型ハイトワゴン」! トヨタ「ルーミー」対抗車に反響多数! 約164万円の「ソリオ」に集まる「期待の声」とは
くるまのニュース / 2024年9月15日 7時40分
-
5一条天皇の最期「定子と彰子」誰に想いを残したか 死ぬ間際に読んだ和歌にある「君」は誰なのか
東洋経済オンライン / 2024年9月15日 8時0分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください