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甲子園で“阪神園芸”の「神整備」を受け継ぐ元高校球児たちの物語

ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2021年8月17日 17時20分

甲子園で“阪神園芸”の「神整備」を受け継ぐ元高校球児たちの物語

【第103回全国高校野球】 グラウンドを整備する阪神園芸=甲子園球場

話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、夏の甲子園を支える裏方でありながら、近年はその職人技でも注目を集める「阪神園芸」にまつわるエピソードを取り上げる。

【第103回全国高校野球】グラウンドを整備する阪神園芸=2021年8月15日 甲子園球場 写真提供:産経新聞社

2年ぶりに幕を開けた夏の甲子園。コロナ禍での異例の大会は、「46年ぶりの3日連続雨天順延」というこれまた異例の事態に。何とか開催にこぎつけた大会第3日(8月15日)は第4試合が“史上最遅”の午後9時40分に終了するという珍事も起こりました。

こんな状況で無事に日程が消化できるのか……そんなモヤモヤした雰囲気を吹き飛ばしてくれたのは、順延続きでも集中力を切らさず好ゲームを見せてくれた球児たちですが、陰で彼らを支えた存在がいます。甲子園球場のグラウンド整備を担う「阪神園芸」のスタッフ……雨でぬかるんだグラウンドを短時間で回復させるプロ集団です。

3日連続順延の末に迎えた8月15日。大会本部から、第1試合の開始を午前11時にすると発表されたのが9時半過ぎ。その時点でまだ小雨も降っている状態でした。しかし、ここからが阪神園芸の腕の見せどころ。午前9時50分過ぎ、マウンドや打席にかかっていたシートが撤去され、トンボがけなどがスタート。そこからスタッフ約20人が「神整備」と称される職人技でグラウンド状態を整え、10時28分にはもうシートノックが始められる状態になったのです。

最近はこうした「阪神園芸の職人技」を楽しみにするマニア層も増えているため、メディアによる「阪神園芸速報」も機敏でした。グラウンド整備が始まった直後の9時53分、日刊スポーツがすぐさまネットニュースをアップ。

『【甲子園】午前11時開始と発表 阪神園芸の「神整備」始まる』

~『日刊スポーツ』2021年8月15日配信記事 より

さらに、グラウンド整備が終わった5分後の10時34分、今度は朝日新聞デジタルがニュース記事をリリースしました。

『阪神園芸が「神整備」 甲子園の回復、わずか40分で』

~『朝日新聞デジタル』2021年8月15日配信記事 より

こうしたメディア露出もあってか、今回の「神整備」も当然のようにSNSのトレンド入りを果たしました。

『阪神甲子園球場はTwitter公式アカウントにて「阪神園芸の皆さんによる日々の手入れが功を奏し、雨があがった2時間後には試合が開始できました」と、一連の模様を定点カメラで収めたタイムラプス動画を公開。この投稿は1時間程で1000件超のリツイート、3000件超のいいねが付くなど大好評で、ファンからは「凄い!」「神業」「芸術」「魔法」など、あらゆる称賛の言葉が続いている』

~『BASEBALLKING』2021年8月15日配信記事 より

今回は、そんな阪神園芸にまつわるちょっと素敵な話。今年(2021年)から甲子園球場のグラウンド整備に加わったスタッフのなかに、元高校球児が2人含まれています。白井陽大(しらい・あきひろ)さんと島邑涼介(しまむら・りょうすけ)さん。2人は昨年まで、高校野球部で甲子園を目指す球児でした。

昨年、彼らは高校3年生。新型コロナウイルスの感染拡大により、戦後初めて甲子園大会が中止になった世代です。都道府県ごとに代替大会が開催されたとはいえ、はじめから甲子園を目指せないとわかった上での試合であり、そもそも部活動の実施もままならないなかで高校最後の夏を終えなければなりませんでした。

そんな「甲子園を目指せなかった球児たち」に向けて、昨夏、阪神タイガースと甲子園球場が力を合わせて実施した企画があります。それは「甲子園の土が入ったキーホルダー」を全国の高校3年生の野球部員にプレゼントすることでした。

阪神・矢野燿大監督やコーチ、選手たちも協力して集めた甲子園の土は、何と約400キロ。その土が入ったキーホルダーをつくり、全国に約4万8700個を発送。それを受け取ったことで、白井さんと島邑さんのその後の進路が明確になったのです。

『白井さんは、中学生の頃から阪神園芸で働くことを志していたが、キーホルダーを受け取り「この土を踏めるように頑張ろうと思いました」とさらに聖地への思いを強くした。島邑さんも、中学生の頃から阪神園芸の存在は知っていたものの、進路を考えていく過程でさらに職人らの仕事ぶりを知っていき「ここで働きたい」という目標に変えていった』

~『サンケイスポーツ』2021年4月26日配信記事 より

白井さんと島邑さんはいま、先輩スタッフの指導を受けながら、自分たちの代は目指すこともできなかった甲子園球場に立ち、この夏を戦う球児たちのためにグラウンドを整えています。

『2年ぶりの夏の甲子園開催に、島邑さんは「今の3年生も去年できなかった分、思い切ってやってほしい」とエールを送る。その舞台を整えるグラウンドキーパーの一人として白井さんは言う。「選手たちがけがをしないようなグラウンドにするのはもちろんだが、ここでやれて良かったと思えるグラウンドを作りたい」』

~『毎日新聞』2021年8月10日配信記事 より

阪神園芸がつくる甲子園グラウンドといえば、「伝説の土守」と呼ばれる歴代の職人たちが土選びからこだわり続け、季節によって土の配合を変え、育んで来たもの。土だけでなく、外野の芝も長年にわたって芝の品種や生育研究を続け、春も夏も青々とした芝生が生い茂る環境をつくって来ました。

こうして受け継がれて来た技と環境、そして志を継承しようと、その道を歩み始めた若人たちがいる……そんな目線も含めて夏の甲子園を見れば、球児たちの試合中の躍動だけでなく、試合間のグラウンド整備もより一層味わい深いものになるのではないでしょうか。

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