ワクチンを2回打っても防げない「ブレイクスルー感染」 ~現行法では限界に来た政府の感染対策
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2021年8月23日 11時30分
ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(8月23日放送)に慶應義塾大学教授で国際政治学者の細谷雄一が出演。政府による今後の新型コロナウイルス対策について解説した。
西村経済再生担当大臣、新型コロナ対策で企業の休業措置も視野
西村経済再生担当大臣は8月22日に出演したNHKの番組で、新型コロナ対策の人流の抑制について、「昨年や今年の4月、5月は大型連休を活かし、企業は休むということで対応した。そうした強い措置も選択肢の1つとして考えなくてはいけない」と話した。また、「いまある法律のなかで何ができるか工夫して行きたい」と、現行法の範囲内で対応を検討する考えを示している。
経済に悪影響を与える人流抑制~政治判断が難しい
飯田)人流の抑制ということをずっと言い続けているなという感じもありますが、どうご覧になりますか?
細谷)コロナの感染拡大を防ぐためには、マスクをすることや可能な限り3密を避けること、そして人流を抑えること、さらにはワクチン接種などがあるのですが、今回の「ブレイクスルー感染」はマスクをしていても感染するということもありますし、ワクチンを2回受けても感染する。すると結局、人の流れを減らさなくてはいけないということになります。
飯田)ブレイクスルー感染では。
細谷)しかし、人流抑制は経済に最もマイナス効果があります。マスク、ワクチンでしたら経済活動ができますけれども、人流抑制ということになると、経済活動ができなくなるのです。だから、トータルのバランスとして、これしかないけれども、これをやると経済に悪影響があるということで、政治判断がとても難しい状況だと思いますね。
「インフルエンザと変わらない」という戦略に転じた米英
飯田)まさにそこの部分で、オーストラリア、ニュージーランドなども、「感染ゼロ戦略」は無理だと。オーストラリアなどは戦略断念という報道が出て来ています。
細谷)イギリスやアメリカは、ワクチンを2回打てば重症化がほとんどない、死亡者もほとんど出ないということで、いままでのインフルエンザと変わらないというような戦略に転換したわけです。日本はワクチンがまだそこまで進んでいないということもあって、いまの日本は「とにかく感染を止める」ということだと思います。国ごとに戦略を常に転換しながら、最善の方法を探しているということだと思います。
ワクチンを2回打っても感染する「ブレイクスルー感染」を止める答えがない
飯田)昨年(2020年)のこの時期であれば、各国で都市封鎖などで対応するということになっていましたが、ワクチンが出て来てから、少しずつ変わるところがあるのですか?
細谷)基本的にはワクチン接種2回を菅総理も目標にして、早いピッチで進めて来たわけです。スタートは遅かったですけれどもね。しかし、ブレイクスルー感染はワクチンを2回打っていても感染するということですから、そういう意味では、何をしたら止められるのかわからない。答えがない状態だと思います。そのなかで、果たして経済活動を止めたままでいいのかと。国民側の不満がいま大きくなっているのではないでしょうか。
地方自治体に権限がある日本~政府が強い措置を取ることができない
飯田)その辺りの状況を見ながら、入院基準の見直しや緊急事態宣言の発出条件の見直しなどが出て来ています。この辺りは、「ゼロコロナ戦略」ではなくて、というところを見越したものなのですかね。
細谷)1つは、そもそも日本は法的にロックダウンができない、あるいは難しいということが言われていました。さらにもう1つ難しい問題は、感染症対策に関して、日本は他の国とは違い、とにかく地方自治体に権限があるのです。そうすると、中央政府ができることは限られています。そのなかで強い措置も取れない。この矛盾が政府内での無力感に近いものになっていると思います。
現行の法では限界~国民の善意にすべてを委ねている
飯田)その辺り、いまある法律のなかで工夫して行きたいということがありますが、最終的には憲法の壁にもぶつかりますか?
細谷)安全保障はいままで有事法制と言われていました。有事法制がないときには、戦争が起きても、戦車はウインカーを出して、赤信号では止まらなくてはいけない。実はこの有事法制はうまく切り替えられているのですが、例えば福島原発事故の際や、感染症に関しては、法的な制限ができない、非常に難しい状況になっているのです。原発事故や地震などのときに、政府はどのように、より強力な措置が取れるかというところで、限界になっていると。現行の法では限界になっていると思いますね。
飯田)いままでは例外的に、そういうことを考えずに済んで来たということなのですか?
細谷)もっと言うと、国民の善意にほぼすべて委ねるのです。安保法制は、「外国が日本に攻めて来ない」という外国の善意に任せていたのですが、今回の感染症の問題は、「国民の善意に任せている」わけです。ではもし国民がこの善意、つまり感染拡大しないような行動変容や人流抑制について、言うことを聞かなかったらどうするかというと、「どうしようもない」というのがいまの状況だと思います。
飯田)なるほど。
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